【vol.78】辻和之先生の健康コーナー|「わかりやすい東洋医学講座」 第28回 東洋医学の基礎理論27 肺について
東洋医学の基礎理論㉗
東洋医学でいう「肺」は、西洋医学でいう「肺」と意味合いが異なります。
〔図1〕共通の作用は、呼吸です。
西洋医学から見た「肺」は、酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出する働きをします。東洋医学から見た「肺」は、自然界の清気を吸入して体内の濁気を排出し、体の内外の気体を交換して、脾で作られた水穀の精微に清気を与えます。
この宗気が全身に配布されて生命が維持されますが、宗気の作用は、あたかも肺で作られた(酸素が結合した)酸素ヘモグロビンが全身に酸素を供給するような働きに相当するものと考えられます。
一方、西洋医学と異なる面を持った東洋医学における肺の働きには、気・血・水を巡らせる作用や免疫作用をします。その巡りの仕方は、肺独特のやり方で行っています。それは、宣散と粛降の作用です。
〔図2〕宣散作用とは、気や津液などが生体内を自由に巡るものの流れを上向きに導き、気や津液を生体の外へと発散する働きです。濁気の呼出、精微物質(栄養物)を全身に行き渡らせたり、外界からの病邪の侵入を防ぎ守る作用をする衛気の作用(生体を護る免疫作用)をします。
一方、粛降作用とは、気や津液の巡りを下向きに降ろす作用です。
津液は、最終的に腎から膀胱に至り、尿として排出されます。粛降によって気道が清浄に保たれることにより、大気を清気に変えた状態で吸入し、宣散によって不要となった濁気が呼出されます。
この動きが失調すると、咳嗽・息切れ・呼吸困難などが生じます。
この宣散と粛降を利用して津液が全身に運ばれて、必要な津液は、全身の臓器に利用され、不要なものは、汗や尿として排泄されます。粛降作用が失調すると、津液を腎、膀胱に降ろせなくなり、肺に溜まると、痰や鼻汁となります。さらに浮腫や尿量が減少します。肺は、「通調水道」の働きをしますが、通とは、疎通を、調は、調節を意味し、水道は、水液の運行と排泄の通路を指します。すなわち肺が津液の循環の調節をします。この作用が失調すると、体に浮腫や小便不利(排尿困難)を生じます。
肺は、粛降によって気を下に降ろし、気の下向きの動きが血を循環させるパワーとなるため、結局血の巡りにも関与します。
前述のように宣散によって衛気の作用をしますが、さらに衛気は、外界からの寒邪から体を守るために皮膚を温める作用や発汗を調節する作用(腠理の調節)をして、体温調節をする作用もします。
プロフィール
医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之
昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会 認定医
日本内視鏡学会 認定医