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【vol.76】辻和之先生の健康コーナー|「わかりやすい東洋医学講座」 第26回 東洋医学の基礎理論25  「脾」について(後編)


 
東洋医学の基礎理論㉕

【*五行説からみた脾の働き】(図1)(図4)

* 五行説:人体の内臓を五行に帰属させ、それぞれの生理機能を五行の特性に基づいて展開する理論。後ほど詳述します。

⑴ 脾の志は、思脾は「思い」と関係が深く、思慮、思考を意味し、中医学で問題になるのは、過剰となる状態、すなわち考え過ぎ、思い過ぎが続くと、身体の生理機能に影響が及びます。なかでも気の運行が影響を受けやすく、気滞( 気の巡りが悪くなる)を生じ、気のパワーを必要とする脾の運化作用が障害されて、さらに昇清作用の低下がみられ、食欲低下や腹部膨満などを来します。

⑵ 脾の液は、涎(よだれ)
 涎とは、唾液の中でも特に希薄なもの(薄く透明なもの)で、口腔内を潤して、口腔粘膜を保護し、飲食物を摂取する際に分泌量を増やして嚥下や消化を補助します。*唾液の粘度の高いものを「唾」と いって腎と関連します。
 脾の働きが低下すると、涎が増えて口からあふれ出します。これは、単に涎の量が増えるばかりではなく、口のしまりが悪くて生じる場合もあります(顔面神経麻痺)。脾は、「口」とも「筋肉の衰え」とも関係します。いずれにしても脾の治療により口より涎が漏れ出すのを改善させることが可能になります。

⑶ 脾は肌肉(筋肉)を主る/脾は四肢を主る
 体の中で脾に対応するのは、「肌肉」です。脾は、運化作用によって全身(肌肉ばかりでは無く、臓腑にも)にエネルギーや栄養を送る働きがあります。脾の働きが悪くなると、肌肉に栄養が届かなくなり、肌肉が衰えてしまいます。
「脾は、四肢を主る」と云うことは、四肢は、脾の運化と昇清によって滋養されて生理機能が維持出来ると云うことです。中医学では、「筋肉が緩んで力が入らなくなる」「筋肉が萎縮して動かせなくなる」といった症状を中心とする病気のことを「痿証」と云います。西洋医学の病名で云えば、「多系統萎縮症」「重症筋無力症」「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」などが含まれる病証です。中医学で痿証を治療する際に「実則陽明、虚則太陰」と云う原則があります。実証で病邪の勢いが強い場合、陽明から治療し、虚証(体力が無く疲れやすい)では、太陰から治療します。ここで云う太陰は、一部肺を含みますが、主に脾を意味します。つまり虚証としての痿証を治療する場合、脾を治療することが大切です。

⑷ 脾は、口に開竅する/脾の華は、唇
 飲食物の摂取や味覚など口が関わる生理機能は、脾の運化作用と密接に関係します。味覚の異常は、「味がしない」などの味覚の低下や「口が苦い」口が酸っぱい」などいろいろな味が現れます。こうした「口の中の味」の異常は、脾の働きが悪くなった結果と考えます。脾胃に熱があると、口内炎を生じますが、冷やす清熱効果のある、黄連解毒湯、黄連湯が効果的です。「脾の華は、唇」は、口唇の色艶は、全身の気血の状態を反映します。(図1)
(図4)

*【五行学説】陰陽論では、自然界や人間を陰と陽の2つの視点から捉えていましたが、陰陽のバランスの説明だけでは、複雑な現象を説明するには、限界がありました。そこで臓腑の概念や各臓腑間および器官との関連性を含んだ病態生理を解明するために、その理論をさらに発展させた理論が五行学説です。自然界や人間の体は、木・火・土・金・水という5つの要素から成り立ち、各要素はある一定の法則に基づき、互いに関係を保ちながら、動と変化によって生じるという中国古代の哲学理論です。(図2)
 中医学では、木・火・土・金・水という五行の属性を人体の臓腑器官(五臓六腑)に関連付けて人体の生理機能や病理的変化を解明しています。五行
は、相生(互いに生み育てる関係)と相克(互いに抑える関係)という2つの関連性によってバランスを保っています(図3)。すなわち相生だけが繰り返されると、各要素の勢いが過剰に帰してしまいます。その相生とは反対に働く力の存在(相克)によってバランスが保たれます。

【五行色体表】私たちの体や心は、五臓、六腑、五充(からだの部位)、五官(感覚器)、五変(病気の際に現れやすい様子や動作)などに細かく分類されて、それぞれが五行の各要素を構成しています。(図4)

 
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プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設

日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

 

 

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