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【vol.75】辻和之先生の健康コーナー|「わかりやすい東洋医学講座」 第25回 東洋医学の基礎理論24  「脾」について(前編)


 
東洋医学の基礎理論㉔

 東洋医学の「脾」は、西洋医学の脾臓とは、働きや実態が全く異なります。西洋医学では、脾臓は、老化した赤血球を除去する働きがありますが、東洋医学の「脾」は、むしろ胃腸、膵臓や肝臓に近い働きをしており、食物の消化吸収、生合成に関係した働きをしています。
 「腎」が親から受け継いだ先天的な生命力を蓄えている「先天の本(ほん)」であるのに対し、「脾」は、食べ物などから後天的に生命力を補充する働きがあることから「後天の本」と呼ばれています。植物の種を「腎」に例えてみると、種を育てる土や水にあたるものが「脾」に相当するものと考えられます。(図1)

 今号の前編では、脾の生理機能について述べます。

【「脾」の生理機能】

 「脾」の生理機能には、①化生(かせい)作用、②運化(うんか)作用、③昇清(しょうせい)作用、④統血作用があります。

⑴ 化生作用:食べ物から取り出した水穀の気を材料にして気・血(けつ)・津液(しんえき)を作り出す作用を指します。

⑵ 運化作用〔運は、輸送・運搬、化は消化吸収を意味します〕:運化とは、化生作用によって生み出された気・血・津液を全身に供給することで、「飲食物を消化吸収し、得られた栄養物を体全体に運ぶ」作用です。
 運化には、水穀と水液に対する作用があります。

(ⅰ)水穀の運化〔飲食物の消化と吸収〕:水穀(飲食物)を精微(栄養物)に変えるには、脾の運化作用を必要とします。水穀の運化によって飲食物を消化・吸収し、得られたエネルギーや栄養物を体全体に運んで、臓腑や器官の正常な生理機能をサポートします。もし脾の水穀の運化作用が低下したら、食欲不振、全身倦怠感、やせなどの症状が出ます。
(ⅱ)水液の運化:脾には、水液を運ぶ働きもありますが、全身に水液を届けるばかりではなく、余った水を肺や腎に送り込んで、肺と腎の気化作用により汗や尿に変えて体外に排出する働きも担っています。つまり必要な水を体に届けるのも、余分な水を外に出すのも、どちらも脾の運化作用に支えられています。もし水液の運化機能が低下したら、湿や痰を生じ、浮腫などの症状が出現します。
 李東垣(中国の医家。金元医学の四大家の一人で、病因は外邪によるもののほかに、精神的な刺激、飲食の不摂生、生活の不規則、寒暖の不適などによる素因が内傷を引き起こすとして「内傷説」を唱え、特に脾胃を重視した)の「脾胃論」には、「百病は、みな脾胃の衰弱から生じる」と述べており、疾病の予防には、日常生活において飲食物を摂取する際には、ただ栄養物を摂るだけでなく、脾の機能を考慮して暴飲暴食を控えるなど、脾胃の負担を軽減するなどの配慮も必要になります。

⑶ 昇清作用:昇清の昇とは、上昇する運動のことで、清は、水穀の精微などの栄養物質のことです。脾気は、清を吸収して脾の上部にある心や肺、頭目に昇ります。このような脾の機能を昇清といいます。
 運ばれた清は心肺の働きによって気血に化生され、全身に行き渡ります。
 脾の気は、上昇する特徴があり、逆に胃の気は、下降する特徴があります。表裏関係にある脾と胃が、共同で気の昇降のバランスを取っています。
 脾の昇清に対する胃の作用は、降濁といいます。二者は、協力して清を昇らせ濁を下ろして、水穀の消化と吸収、排泄を行っています。もし脾の昇清の機能が失調すれば、水穀を気血に化生出来ずに全身倦怠感、脱力、めまい、下痢などの症状が現れます。
 脾の昇清機能を回復させる方法もめまいの治療法の1つです。気を上昇させるという脾の働きには、胃下垂、子宮脱、脱肛など内臓が下降しないように一定の位置を保つ昇堤作用があります。

⑷ 統血作用:血が血管の外に漏れ出ないようにする作用を指します。もしこの統血作用が低下したら、過多月経、皮下出血などを来します。

 
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プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設

日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

 

 

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