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【vol.72】辻和之先生の健康コーナー|「わかりやすい東洋医学講座」 第23回 東洋医学の基礎理論22 心の不調(前編)


 
東洋医学の基礎理論㉒

 心の失調には、図1のように⑴心陽と心気の失調と⑵心陰と心血の失調があります。心陽と心気の失調には、①心の陽気偏盛と②心の陽気偏衰があり、心陰と心血の失調には、心陰不足、心血虧損、心血瘀阻があります。
 今回は、⑴心陽と心気の失調について、説明します。

「心」がもつ機能には、血液循環と精神活動がありますが、「心気」、「心陽」、「心血」、「心陰」の共同作用によって行われています。そのためそれらの作用が失調すると、心に様々な病変が引き起こされます。
 心の主な作用は、血脈を主り、神志を主ることから、心に何らかの病変が生じれば、血脈の運行や精神面に異常が現れます。
 心気と心陽は、血液循環の働きに関わり、心血と心陰は、精神活動の安定に関わります。
 心気とは、血液を循環させるパワー(気)であり、心陽は、血液循環によって体を温める作用(温煦作用)のことをいいます。
 心血は、精神活動を行う上で必要な栄養分をいい、心陰とは、精神が過剰に興奮し過ぎないように心を落ち着かせる作用のことをいいます。
 そもそも心は、陽の勢いが強い臓であるために熱を持ちやすくなったり、活動性が大きくなったりします。そのため心陰の鎮静作用によってバランスを持つことが大切です。
 心の代表的な不調は、心気、心陽、心血、心陰の不足によって生じます。それぞれ心気虚、心陽虚、心血虚、心陰虚といいます。逆に心の陽気が過剰な病態を心火( 心の陽気偏盛)といい、実火と虚火が原因となります。

⑴心陽と心気の失調
(心の陽気偏盛、心の陽気偏衰)

①心の陽気偏盛:図2参照

 心の陽気が過剰な病態である心火の原因には、実火と虚火があります。
(i)実火:夏の暑さなどの外部からの熱邪、酒、辛子などの辛性食物の摂り過ぎ、温性薬物(附子など)や温補薬物(人参湯、真武湯など)の誤治、*五志**化火などが原因で生じます。

*五志:感情には「喜」「怒」「憂」「思」「悲」「恐」「驚」の七つがあります。これを「七情」といいますが、このうち、心と喜、肝と怒、肺と憂、脾と思、腎と恐のように、特に五臓と関係の深いものを「五志」といいます。

**五志の化火:喜・怒・憂・思・恐の情志活動が失調して発生する火証。精神的興奮や抑うつが長期にわたったり激変すると、気機が乱れて臓腑の真陰が虧損(欠けて損なわれること)し、煩躁(煩悶し、もだえ乱れる状態。胸中の熱と不安を煩といい、手足をばたつかせることを躁といいます)・怒りっぽい・頭暈・不眠・口苦・胸脇痛・呼吸促迫・咳嗽・吐血・鼻出血など火の症候が現れること。

(ⅱ)虚火:過度の心労による心陰や心血の消耗が原因で生じます。
 心火が❶躁擾心神、❷脈の加速、❸心火上炎、❹心火下移を引き起こします。
 ❶躁擾心神:心神(精神活動)がみだれ(擾)さわぐ(躁)という意味で激しい興奮、心悸( 一過性の動悸)、心煩( 心中がかき乱れて安らかにしていられない感覚、焦燥感)、失眠(不眠)、多夢を来します。
 ❷脈の加速:心悸、脈数(脈が速い、頻脈)、舌絳紅(深い紅)、著しい場合、出血を来します。
 ❸心火上炎:心は舌に開竅するので、心火が舌に熱を生じさせて、舌のびらん、舌尖部の疼痛を引き起こします。
 ❹心火下移:心火が下部に移動すると、尿道の灼熱感・疼痛を引き起こします。

②心の陽気偏衰:図3参照

 心の陽気が衰退する病態で心気虚と心陽虚を指します。肺気不足、腎陽虚、脾気虚、血瘀、気滞によって生じます。その結果「心神不足(元気がない、反応が鈍い、意識朦朧、傾眠、声が小さい、しゃべるのが億劫になる)を引き起こし、心の血脈を主る機能が減弱して血瘀( 血の巡りが悪くなる)を生じ、「血脈寒滞」を来たし、四肢が冷え、肌表を固摂することが出来ず、自汗(暑さ、厚着、労働などによらずに、自然としきりに汗の出ること)、息が詰まる、顔色が蒼白くなる、結滞などを生じます。
 一方、心の陽気の偏衰は、肺や腎の病変とも相互に影響を及ぼし合います。肺気の不足は心の陽気衰退の原因になる一方で、心の陽気不足が肺の宗気の生成の低下をもたらし、呼吸機能の低下をもたらします。(西洋医学でも心不全が肺鬱血をもたらし、呼吸不全をもたらす現象に似ています)腎と心との関係でも、腎陽が不足することにより水湿が過多になって心を犯して心陽が虚弱になり、心陽が虚弱では、腎陽も損なわれて、尿の生成が低下して尿量の
減少が水腫(浮腫)をもたらします。
 
vol72-1
 
vol72-2
 
vol72-3
 
 

プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設

日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

 

 

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