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【vol.71】こころとからだの健幸タイム|ゲスト 藤平 信一 さん・後編


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 スポーツやビジネス、家庭、教育など様々な分野での応用が可能なことから「生活のなかの合氣道」とも呼ばれ、世界24カ国で3万人の門下生が学んでいる心身統一合氣道。
 会長の藤平信一さんに、「氣」を日常生活で活かすヒントなどについてお話を伺いました。

 

鳴海周平(以下、鳴海)
 「氣」を活かすことで、体格差の大きなプロレスラーや柔道の有段者などを軽々と投げ飛ばしたり、押さえたりすることができた先代の藤平光一先生ですが、「秘伝」というものは、いっさい持たず、自分が持つすべてをお弟子さんたちに教えたそうですね。これは「氣とは、出せば入ってくるもの」という信念からでしょうか。

「気」と「氣」の違い

 

藤平信一さん(以下、藤平)
 はい、このことは「心身統一合氣道」が、「気」ではなく「氣」を用いていることにも通じています。中国で言われる「気」は、バッテリーのように使えば使うほど消耗する、という考え方に基づいているようですが、もともとは天体のように八方に広がって出ていくものという意味だったのではないか、と藤平光一は考えていました。
 すべてのものは、天地の氣から生まれたのだから、人の氣と天地自然の氣は常に交流している。だから「出せば入ってくる」というわけです。

鳴海 「出せば入ってくる」という考え方を初めて聴いたときに、とても感動したことを覚えています。というのも、僕のヒーリングの師匠が「ヒーリングのエネルギーは、出せば出すだけ入ってきます。出せば出すだけ入ってくるから、その媒介になっている人も元氣になる」と言っていたからなんです。「呼吸」が「吐いて吸う」と書くことや、「出入り口」も出る方が先に書くことからも、先人はこうした「天地自然の摂理」を感じていたのかもしれませんね。

藤平 「氣」の概念は、海の中で水を手に囲ったときにも例えられます。自分の手で囲っているので、それは「私の水」ですが、その水はもともと「海の水」。手の中の水と外の水は常に行き来している。この行き来がスムーズだと、水は常に淀まず、透き通っているわけで、これが心身ともに健康な状態であると言えるでしょう。

鳴海 海の水が天地の氣、手で囲った水がその人の氣というイメージですね。

藤平 はい、そうです。天地自然の氣と滞りなく交流している状態が「健康」な状態で、日常においては食べものを美味しいと感じたり、身心ともに軽快に感じたりすることが、その目安になるかと思います。
 以前、「渋滞学」を研究している東京大学の西成活裕教授と対談させていただいたときに「渋滞も『流れ』なので、解決するには、先ず、どこから出すかということを考えなくてはならない」と仰っていたのを聴いて、「出せば入ってくる」は、天地自然の摂理なのだとあらためて感じました。

鳴海 人の一生も、この摂理に適っていると聞いたことがあります。赤ちゃんは、生まれてくると母乳を飲む前に胎便を「出す」。そして、あの世へ行くときには「死に水をとる」と言うように、少量の水を「飲んで」旅立つ。オギャーッと泣いて(息を吐いて)生まれてきて、亡くなるときは、息を引き取る(吸う)と言います。
「先ずは出す」というのが、自然界の法則なのでしょう。健幸長寿で生活も豊かな人に「与え好き」が多いのも納得ですね。

日常生活で、「氣」を出す

 
鳴海 「先ずは出す」という自然界の法則に当てはめると、心身に不調を感じたときは、氣を出すこと、つまり、天地の氣と交流することで、健康を取り戻すことができるということになりますか?

藤平 はい、心身の不調は、天地の氣との交流が滞ったときに起こりますから、氣を出すことで、外界とつながることがたいせつです。
 氣を出す具体的な方法としては、自分から挨拶をしたり、誰かに喜んでもらうことをする。つまり、自分からなんらかの行動を起こすことです。ふだん都会で暮らしている人であれば、山や海へ出かけて自然に触れることもいいでしょう。また、もっとも簡単な方法として、息をフッと吐くことも、氣を出す行為になります。
 戦争体験がある藤平光一は、戦地へ赴いて行軍の指揮をとっていたときに、突然弱氣になってしまうことがあったそうです。常に生死と隣り合わせの状況ですから、当然といえば当然なのですが、そんなマイナスの観念を持ったまま行軍したときは敵の存在に氣がつかない、ということを何度も体験したと言います。そこで、マイナスの観念がよぎったときに、なんとか心を静める方法がないものかと考え、勢いよく「フッ」と息を吹くという方法を見つけたのです。じっさいこの方法を行なうようになってからは、敵が待ち伏せしているときなど、本当に危険な状況が事前に察知できるようになったと言っていました。

鳴海 勢いよく、息をフッと吐くだけでいいんですね。

藤平 はい、とても簡単ですが、効果抜群です。但し、マイナスな態度で接してくる人がいたとしても、直接息を吹きかけてはいけません(笑)

日常生活で、「氣」を活かす

 
藤平 私も毎日「氣の呼吸法」を行なっています。「息」は自らの心と書くように、心の状態を反映していますから、呼吸を静めることで、心も静めることができます。たいせつな場面で緊張しているときなどに行なうと、とても落ち着いてリラックスできますので、ぜひ試していただきたいですね。

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鳴海 武道でも、他のスポーツでも、リラックスしている状態が、もっともパフォーマンスがよいと言われますね。多くのアスリートが「氣の呼吸法」を実践している理由が、よくわかります。

藤平 呼吸とともにたいせつなのが、姿勢です。一般的に正しいと言われている姿勢は、「背筋をピンと伸ばし、胸を張って、腕は身体の横にピシッとつける」というイメージかと思いますが、じっさいにやってみて、この姿勢は楽でしょうか?身体を緊張させているので、逆に苦しく感じるのではないかと思います。
 このような姿勢は、氣のテストをすると、簡単に崩れてしまいます。氣のテストとは、誰かに押されたり、肩に重さをかけられたりしても、姿勢が崩れてしまわないかどうかを試すもので、リラックスした正しい姿勢になると、身体は安定したままビクともしなくなるのです。

鳴海 じっさいに体験させていただいて、その違いには本当に驚きました。たった3秒間つま先立ちをするだけで、リラックスした正しい姿勢になることができる。これは日常生活でもすぐに活用できますね。

藤平 この姿勢になると、それまで重く感じていたものも、楽に持ち上げられるようになります。写真で比べてみるとよくわかりますが、つま先立ちの前とあとでは、身体の反り方が違っていますね。つま先立ちのあとは、やや前傾しているように感じられるかもしれませんが、これが本来の正しい姿勢です。
 昔は下駄や雪駄、草履を履いていたので、自然に足先まできちんと使っていました。足先がいい加減だと、すぐに脱げてしまうからです。ところが、靴だと多少いい加減に履いても脱げる心配がありませんから、足先まで意識する必要がなくなってしまった。建物を建てるときには、基礎や土台が大事なように、身体も足先まで氣が通っていることによって、正しい姿勢になります。たった3秒間のつま先立ちだけで、これほどの違いが出るのは、そうした身体の構造的な理由があるんです。
 毎日、少しの時間でもいいので、つま先立ちのまま家の中を1~2周するだけで、足先まで大事にする習慣が出来て、自然に正しい姿勢が身についてくるでしょう。
 他にも、「物を持つときには、小指を意識すると軽く感じる」「家事を行なうときには、指先を意識すると疲れにくくなる」といった身体を動かすコツがありますが、いずれも末端を意識することで、氣が身体の隅々までいきわたることがその理由です。
 道場では、こうした「日常に氣を活かすコツ」もお伝えしています。

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鳴海 まさに、藤平光一先生が仰っていた「生活の中の合氣道」ですね。日常生活の中で「氣を活かす」ことが無意識のうちに行なわれるようになると、「すべてのものは、天地の氣から生まれたのだから、人の氣と天地自然の氣は常に交流している」という教えが、ますます実感出来るように思います。

藤平 人は天地の氣から生まれた、ということは、私たちは大自然の一部であり「氣」を通じてつながっているということです。
 藤平光一は「ありのままの状態、すべてを天地に任せきった状態になっていれば氣は出ている」とも言っていました。天地に任せきった瞬間、氣が通い、楽になること(リラックス)が出来ます。
 自分にできる努力はもちろん尽くすべきですが、たいせつなのは「自然に身を委ねる」という大きな意志なのではないかと思います。

鳴海 「自然に身を委ねる」 
 僕のいちばん好きな結論に落ち着きました(笑)。
 本日は貴重な体験もさせていただきまして、どうもありがとうございました。

 

藤平 信一さん プロフィール

心身統一合氣道継承者。一般社団法人心身統一合氣道会会長。
慶應義塾大学非常勤講師。
1973年東京生まれ。東京工業大学生命理工学部卒業。
父・藤平光一より心身統一合氣道を継承し、世界24カ国、
約3万人の門下生に心身統一合氣道を指導、普及に務めている。
米国・大リーグのロサンゼルス・ドジャースやサンディエゴ・パドレスの
若手有望選手・コーチを指導するほか、経営者、リーダー、アスリート、
アーティストなどを対象とした講習、講演会、企業研修などもおこなう。
著書に『心と身体のパフォーマンスを最大化する「氣」の力』
『「氣」が人を育てる』『「氣」の道場』( いずれもワニブックス[PLUS]新書)
『一流の人が学ぶ氣の力』(講談社)王貞治氏、広岡達朗氏との共著『動じない』
(幻冬舎)などがある。

 

 

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