【vol.69】辻和之先生の健康コーナー|「わかりやすい東洋医学講座」 第20回 東洋医学の基礎理論19 「心」の生理作用について
東洋医学の基礎理論⑲
心の生理作用について
心の生理作用には、1「血脈を主る」2「神志を主る」があります。(図1)
【血脈を主る】
脾胃の働きによって作られた水穀の精微(飲食物の栄養)は、営気(各組織を栄養する気)と、津液に気化(気が働きかけて変化させる)され、さらに心火の作用によって血が生成されます。その血が心気(血液を循環させる作用=推動のパワー)によって血管内を流れて全身に栄養を供給します。これは、西洋医学での心臓と血管の働きを示しています。
すなわち心の一つの作用としては、血液の運行を推し進めて全身に栄養や酸素を与えます。
【神志を主る】
心配や安心という用語からわかるように、心のもう一つの作用は、大脳の活動であり、記憶、学習能力、言語機能、睡眠、意識状態といった大脳機能を意味します。そのため、心の働きに異常が生じると、記憶障害、不安などの精神症状、不眠を来します。
【心の作用】
心の作用には、心気、心陽、心血、心陰の4つの作用があります。(図2)
心気と心陽は、血液の循環に関わります。心気とは、血液を全身に巡らせる原動力のことで、心陽は、体を温める作用(温煦作用)のことで全身の熱源や活動源を意味します。
心血と心陰は、精神活動の安定に関わります。心血は、精神活動を行う上で必要な栄養分となる血を云います。心陰とは、過剰に興奮しすぎないように落ち着かせる作用です。そもそも心は、陽の勢いの強い臓器ですので、熱や活動力が強く働きやすい傾向にあります。その為、そのバランスを取るための鎮静作用のある心陰や心血が不足しないようにすることが重要です。
【心の志・液・体・窺】
⑴ 心の志は「喜」である。
心の機能は、情緒の「喜」と密接に関係しています。
一般に「喜」は、人体にとって好ましい刺激を持つ感情であり、喜ぶことは心の働きにプラスになります。
⑵ 心の液は、「汗」である。
汗は、陽気の作用で津液が変化(*化生)したものであり、血も津液も汗も源が同じで(血汗同源)、汗は、心の液体といわれます。
*化生:気の作用の一つで(気化作用)、人体に必要な物質を摂取した飲食物などから作ったり、体内の物質を必要な物質に作り変えること。
⑶ 心の華は、顔にある。
顔面部は、血脈が豊富にあるため、心の状態は、顔の色艶に現れやすいので、顔を見ることで心の状態を知ることができます。
心気が旺盛で血脈が満たされていたら、顔面は紅く潤いつやがあります。もし心気が不足すれば、顔色が蒼白になります。
⑷ 心は舌に開竅する。
竅とは、外部への窓口です。舌は、心にとって外部環境へ通じる窓口のような存在です。
舌の主な機能は、味覚の識別と言語の発声に関与します。心の機能に異常が現れれば、舌に異常が生じ、味覚が障害され、舌がこわばり、話しにくくなるなどの症状が現れます。
「霊枢」脈度篇に「心気は舌に通じる。心が和めば舌は五味を識別できる」と記載されています。心の機能が正常であれば、舌は紅く潤い動きも滑らかで発語も流暢です。
心血不足では舌質が淡白になり、*心火上炎では、舌の先端部分が紅くなります。
*心火上炎:主に激しい怒りや精神的なストレスが慢性的にかかり続けた結果として現れる病能です。心火上炎の具体的な症状としてはイライラ感、焦燥感、多動、不眠症、のぼせ、顔面紅潮、口の渇き、口内炎などが挙げられます。心火上炎は心火旺や心火亢盛とも呼ばれます。
心の病証については、次回以降で説明させていただきます。
プロフィール
医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之
昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会 認定医
日本内視鏡学会 認定医