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【vol.66】辻和之先生の健康コーナー|「わかりやすい東洋医学講座」 第17回 東洋医学の基礎理論16 肝について


 
東洋医学の基礎理論⑯

肝の疏泄作用

  
 今回から、前号までで説明しました「腎」に対して相生の関係にある「肝」について説明しましょう。
 東洋医学の「肝」は、西洋医学の「肝臓」とは、異なった働きをしています。
 東洋医学の「肝」の生理機能には、疏泄作用と臓血作用があります。[図1]
 この度は、疏泄作用についてお話ししてみましょう。

【疏泄作用】

 疏泄作用とは、巡らせるポンプ作用を意味します。疏泄作用によって気を巡らせますが、血や津液を巡らせるためには、気のパワーを必要とするため、気の巡りに併せて血や津液の巡りを助けます。この疏泄作用によって以下の生理作用をもたらします。

①気機の調節、②脾胃の運化機能の促進、③胆汁の分泌・排泄の調節、④情志の調節、⑤女子の排卵、月経、男子の射精

①気機の調節:気機とは、気の巡りの動きを指します。肝は、気を伸びやかにして、気の昇降(気を上げたり、降ろす)や出入りによって血の流れもスムーズにして臓腑や経絡、器官の機能を円滑にします。ストレスなどによって肝の疏泄機能が弱まれば、気の巡りが悪くなって、※肝気鬱結となり、全身に気が届かなくなって、手足が冷えたり、気分が沈んだり、気力が湧かなくなったり、胸腹部に腫れや痛み、梅核気(喉に物が引っかかっている感じ)がでたりします。さらに[図2]気が全身に巡らずに(暖かい性質があるため)上昇し(肝気上逆)、脳( 中医学の心)に集まると、多くの気が心に集って気の温度上昇が起こり、肝火となります。そうなると、怒りっぽくなったり、イライラします。気と共に血も上昇すると、顔や目が充血します。

(※肝気鬱結:我々は、日常生活の中で様々なストレスに晒されています。そのストレスが肝の疏泄機能を阻害し、気の巡りが悪くなって、気機が鬱滞し、抑鬱やイライラを生じさせます)

②脾胃の運化機能の促進:脾胃の運化とは、食べ物を消化して栄養を吸収し、全身に栄養を補給することです。そのためには、「脾の昇清」(肺に後天の気を渡す)と「胃の降濁」(脾胃で消化された飲食物の残りを下の小腸へ送る働き)が協調して働く必要があります。肝の疏泄機能が低下し、肝気が過剰になると、「脾の昇清」がうまくいかず、下痢を生じます。「胃の降濁」作用が低下して、吐き気や嘔吐、噯気(ゲップ)、吃逆(しゃっくり)を生じます。このように肝気の異常が脾の機能を低下させることを肝気犯脾と云い、「木旺乗土」ともいいます。ここで木は肝を指し、土は脾を指します。[図3]のように柴胡や香附子を含む四逆散や柴胡疎肝散に半夏、生姜、白朮、茯苓、人参(高麗人参)を病態に合わせて追加します。

③胆汁の分泌・排泄の調節:これは、西洋医学の肝臓や胆嚢の機能に近い作用で、肝気が鬱結すると、口苦、消化不良を来します。

④情志の調節:情志とは、感情( 七情= 怒、喜、思、憂( 悲)、恐(驚))のことです。情志の活動が正常であるためには、気血の運行が順調でなければなりません。逆に気血の運行は、情志の活動の影響を受けています。情志に異常があれば、気血の運行がかき乱されます。『素問』挙痛論篇にある「百病は、気より生ずる」という一節は、[情志の異常→気機の流れの異常→百病]を意味しています。肝は、疏泄機能によって、気の流れを順調にすることで、情志を調節しています。肝の疎泄機能の低下で肝気が鬱結すれば、抑鬱的になったり、肝気が過剰に上昇することで、イライラや易怒などの症状を呈します。

⑤女子の排卵、月経、男子の射精:肝の疏泄機能のうち、外に向かわせる働きが、外側に向かわせることから、排卵や射精の原動力になります。
 
次号では、肝の臓血作用についてお話します。
 

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vol66-3

 

プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設

日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

 

 

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