【vol.51】辻和之先生の健康コーナー|「わかりやすい東洋医学講座」 第2回 東洋医学の基礎理論
【東洋医学の基礎理論①整体観】
1.「人間の体は自然の一部である」と云う考え方
東洋医学では「人間は、自然の一部であり、人間の体の中にも自然界と同様な構造がある」と考えます。これを「整体観」と云います。
例えば、自然界では温かい空気が上方へ上がり、冷たい空気は下方へ下がります。人間の体においても上半身は火照りやすく、下半身は冷えやすいという傾向があります。
このように自然界で起こる現象と人間の体に起こる現象は、同じ原理や法則で生じていると考えます。
「人間の体は絶えず変化し続けている」という東洋医学の健康観も、朝昼晩、春夏秋冬と常に変化し続ける自然界と人間の体が同じ構造を持っているという考え方「整体観」に由来しているのです。
この整体観から、東洋医学では自然界を観察して見出した法則を基に人間の体における病気の考え方や治療法の理論などが確立されました。
その考え方には、自然界を構成する要素を木・火・土・金・水の5つに分けた五行学説、太陽と月に象徴される自然界の大原則を表した陰陽論などがあります。
2.自然界のバランス理論を基に体の状態を考える
自然界では太陽が地球に熱エネルギーを与えて、海や湖から水分が蒸発して雲になり、やがて雨を降らすという水の循環が繰り返されています。
太陽の熱が強すぎて海や湖の水量が少なくなったりすると、大地は干上がってしまいます。逆に太陽の熱が弱いと、海や湖の水が温まらず、水の循環が出来なくなってしまいます。
自然が健全な状態を保つためには、太陽の熱量と海や湖などの水分量のバランスが取れていることが大切です。
この自然界の法則は、人間の体内の水分循環の仕組みにも置き換えることが出来ます。
乾燥体質の人は、熱が強過ぎるか水分が少な過ぎる可能性があり、冷えが強い人は熱が弱過ぎるか水分が多すぎる可能性が考えられるのです。
このように自然界のバランス理論を用いて体の状態を判断することも「整体観」の大きな特徴です。
「体の中に自然がある」と考えれば、体内での変化を推察することが出来ます。
【東洋医学の基礎理論②陰陽論】
1.自然界の現象は対立した2つの性質に分けられる
「人間は自然の一部であり、人間の中にも自然界と同じ構造がある」という整体観から、古代中国の人々は様々な自然界の法則を見出し、理論を構築してきました。
その中で最も基本的な理論が「万物は、夜の月と昼の太陽のように対立した性質を持つ2つの要素に分けることが出来る」と云う陰陽論です。
「陰」とは夜の月のように、静かで暗く、冷たい状態を象徴しています。その本質は内向きの力が働く凝集の性質です。
一方「陽」は、昼の太陽のように動的で明るく、熱い状態を象徴しています。その本質は外向きの力が働く拡散の性質です。
この陰と陽という分け方で人間の活動を考えると、陰に当たるのが鎮静、睡眠、滋養など静の活動、陽に当たるのは興奮、活動、消耗など動の活動になります。
2.陰陽のバランスが崩れると、体に不調を生じる
陰と陽は、片方の勢いが強まればもう片方の勢いが弱まる、片方が押せばもう片方が引く、と云うように刻一刻と優劣の関係を変化させます。
例えば、朝目覚めると体は睡眠状態から活動状態へと切り替わり、陰が優勢な状態から陽が優勢な状態へと変わり始めます。昼間にしっかり活動した体は、夕方に近づくにつれ、だんだん疲れて活動性が鈍くなり、休息をとろうとします。これは、陽が優勢な状態から、陰が優勢な状態へと移り変わっていくからです。
ところが、陰が優勢な夜になっても昼間同様に活動を続けてしまうと、陽が過剰な状態になります。夜に陽が過剰な状態になると、興奮しすぎて目が冴えて眠れなくなったり、熱が過剰になって体が火照ったりしてしまいます。こうした陽が強過ぎる状態を「陽証」といいます。
逆に、本来陽が優勢な昼になっても寝続けていると、陰が過剰になり、元気が出ない、倦怠感がある、体の熱が不足して冷えやすいといった状態になってしまいます。このように陰が過剰な状態を「陰証」と呼びます。
陰陽の一方が過剰に少なくなったり、盛んになったりすると、バランスが崩れて不調な状態になるのです。
このように陰陽論を用いることで、体に起こる複雑な現象を総合的な視点で分析できます。
プロフィール
医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之
昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会 認定医
日本内視鏡学会 認定医