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【vol.52】辻和之先生の健康コーナー|「わかりやすい東洋医学講座」  第3回 夏の養生法


 夏の3ヶ月(暦では、5月6日から8月7日)を蕃秀といいます。
 紀元前に書かれた医書『素問』には、「夏季は太陽が沈むと寝て、日の出とともに起きる。日中が長いが怠けてはいけない。適当に運動し、1日1回は発汗するように心掛ける。気分的には発散するような気持ちでいると良い。もし陽気を発散しないと熱がこもって病気になる」と書かれています。
 すなわち「夏は、早寝をして早起きをする。仕事に励み、適度に体を動かして、体内の陽気を発散して汗をかくようにする。陽気が発散しないと病気になる。気分を明るく、内にこもらないように、前向きに構える」ということです。
 夏の時期にクーラーに頼って、あまり汗をかかないようにしていると、身体内に陽気がこもり易くなります。体内で一番陽気が多い臓器は心臓で、しかも夏に良く働きますので、クーラーに当たりすぎて汗をかかないでいると、心臓に負担がかかります。心臓病が持病の人は特に夏に気を付けましょう。
 
 陽気を発散しないと身体全体が熱く感じます。そうなると冷房や冷たい飲み物を好むようになり、胃腸を冷やし下痢をしやすくなります。
 また、肺に熱がこもりやすくなり、秋に肺が働く時期になると、この熱が肺を乾燥させて乾いた咳をするようになります。
 夏でもあまり汗をかかない人や、夏でも冷えている人、低血圧の人は、夏に体調を崩しやすくなります。

夏季におこりやすい病気と、その対処法】

 夏季は胃腸機能の低下しやすい季節です。冷たい飲食物を容易に入手しやすい現代社会では、胃腸にとって負担がかかりやすくなります。

《夏かぜ》
 夏という季節は腠理が開きます。
 腠理とは中医学の専門用語で、現代医学的に云えば、汗腺に相当します。暑くなると汗腺を開いて、汗を出して気化熱で体温を下げるようにしているのです。
 中医学的に、腠理は汗腺としての意味合い以外に、邪気が外界から人体に侵入する入り口と考えられています。夏季には、腠理が開きやすいので、冷房などによって邪気が侵入しやすいのです。
 一般的に邪気には、六淫と云って風、寒、湿、暑、火、燥の6種類があります。クーラーが効きすぎると寒の邪気が人体に入り、朝になると鼻づまりや、項、肩の辺りのこわばり、頭痛を伴うカゼをひくようになります。寝苦しくて、夜通しクーラーをかけるときには、設定温度を高めの28度程度に設定して、クーラーの風が直接体に当たらないようにします。
 夏の養生法は、「冷え過ぎ」に注意することです。

《体の怠さ、疲れやすい》
 東洋医学では、虚労病と云って、病気の一つと考えられています。その原因の一つに冷えがあります。
 暑くて、冷たい飲み物を摂り過ぎると、お腹(中医学では、脾胃)を冷やします。脾胃が冷えると、気が作られなくなり、気虚(気の不足状態)をもたらし、体が怠くなったり、体の抵抗性が低下することにより、様々な病気を引き起こしやすくなります。江戸時代の名医、貝原益軒先生は、「養生訓」の中で「夏季は冷たいものを摂るべからず、熱きものを食せよ」と説いています。 
 過度に冷たい飲み物を摂らない様にしましょう。

《水毒症状:朝、気持ちよく起きられない》
 ①いつまでも寝ていたかったり、②起きるとフラフラしたり、③ 眠くて何となく怠い、④顔が腫れぼったい、⑤手を握ると腫れぼったい、⑥腰が重、⑦午前中は頭がぼんやりして、体も怠くて能率が上がりにくいが、午後から次第に頭がすっきりし出して元気になる、と感じるときは、前日の水分の摂り過ぎが原因の1つと考えられます。これは、日本漢方では水毒(中医学では、淡飲)の症状です。
 世間では、水をどんどん摂りましょうという風潮があります。ある意味では正解ですが、水の摂り過ぎが弊害になることもあります。
 ある老人ホームの入所者が、意識低下で当院を受診されました。その老人ホームでは、全員に2リットルの水を一律に飲ませていました。電解質のナトリウムが低下し、血清浸透圧の低下もみられ、水中毒の状態で、入院を要しました。水の排泄の悪い腎機能の低下した方、血清アルブミン値の低い方は、水の排泄が悪くなり、過度の飲水は、その人にとって支障を来します。過度の飲水をせず、過不足のない適度な飲水を摂取することが重要です。

《夏バテと土用の丑の日について》
 日本には、土用の丑の日にウナギを食べる風習があります。
「土」とは、中医学の五行説(木火土金水)の土に由来し、土は、五臓の中で脾に相当します。夏には、夏バテや冷たいものの摂り過ぎで、脾の働きが悪くなり、食欲がなくなります。
ウナギは、脾を温める食材で、滋養強壮の効果が有ります。夏バテで食欲が無くなってきた状態では、脾が弱ってきたことを意味し、脾を強化するウナギが体に良い食材になります。
 

プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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