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【vol.49】辻和之先生の健康コーナー|糖尿病治療薬各論 インクレチン関連薬 SGLT2阻害薬


 経口糖尿病治療薬は、表1のように7種類あります。今まで1〜5の5種類の薬剤を紹介してきましたが、後の2種類である、インクレチン関連薬とSGLT2阻害薬を紹介しましょう。

【インクレチン関連薬】

 まずインクレチンについてお話ししましょう。血糖値は、血糖値を下げるインスリンと血糖値を上げるグルカゴンによってコントロールされています。健康な人は、図1のように食事を摂ることによってインスリンの分泌が促進され、グルカゴンの分泌抑制が起こります。ところが糖尿病では、グルカゴン分泌抑制が掛かりません。(図2)この血糖コントロールに深く関与しているのがインクレチンです。インクレチンは、2種類あり、小腸上部からのGIPと小腸下部から分泌されるGLP-1があります。GIPは、インスリンのみの分泌刺激をしますが、GLP-1は、インスリン分泌刺激作用とグルカゴン分泌抑制作用を有します。図3のようにインクレチンは食事を摂取し、栄養素が腸管を通過するときに腸管から分泌されます。インクレチンは膵臓のβ細胞及びα細胞に直接あるいは間接的に働き、インスリン分泌を促進しグルカゴン分泌を抑制することにより血糖コントロールに寄与します。ところがインクレチンは、分泌後直ち(数分以内)に蛋白分解酵素であるDPP-4によって分解を受け、活性を失ってしまいます。そこでインクレチンの作用を長時間持続させるための、インクレチンを分解する酵素DPP-4を阻害する、DPP-4阻害薬(2009年発売)とDPP-4阻害薬によって分解されにくい構造に換えた、GLP-1受容体作動薬(2010年発売)が近年開発されました。前者が経口薬(飲み薬)に対し、後者は注射薬です。(表2)DPP-4阻害薬は、体の中で作られたインクレチンの分解を抑制する薬なので、どんなに多くてもインクレチンの生理量を超えませんが、GLP-1受容体作動薬は、生理量を超えた用量の多い製剤ですので、作用はGLP-1受容体作動薬の方が強力です。
 GLP-1受容体作動薬は、血糖降下作用以外に食欲を抑える効果も期待出来ます。したがってなかなか食欲を抑え切れない、肥満の方にお勧めします。
 ここでインスリン分泌のメカニズムについてお話ししましょう。図4のように血糖上昇時にブドウ糖がインスリン工場である膵β細胞の中に入ることにより、カルシウムイオン濃度が上昇して、インスリン分泌を促します。血糖が低い場合、膵β細胞のカルシウムイオン濃度が低いため、インスリンは分泌されません。(図5)
 インクレチンに特徴的な作用として、インクレチンは、血糖上昇時に膵β細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇し、このカルシウムイオン濃度の高いときのみインスリン分泌を促進させて血糖を降下させます。(図6)
 血糖が低い時には膵β細胞のカルシウムイオン濃度が低く、インクレチンのインスリン分泌刺激作用は発現しません。(図7)
 したがってインクレチン関連薬単剤で用いている限り、低血糖は生じないという極めて安全な薬剤です。ところが併用薬剤によって、重症の低血糖を生じることがあります。グリメピリド(アマリールⓇ)などのSU薬は、膵β細胞のカルシウムイオン濃度を上げてインスリン分泌を促進させますが、SU薬は作用時間が長く、空腹時でも作用が及ぶことがあり、空腹であっても膵β細胞のカルシウムイオン濃度を上げてしまうため、血糖が低くてもインスリンを分泌させてしまい、空腹感を増強させたり低血糖を招来させます。SU薬を服用していると、肥満になりやすいのは、この異常な空腹感から間食や過食をさせやすくするためです。(図8)
 そこでインクレチン関連薬にSU薬を併用することにより、低血糖であってもインクレチンのインスリン分泌刺激作用が発現され、重篤な低血糖を生じることがあります。(図9)
 したがってSU薬にインクレチン関連薬を併用する場合、例えばアマリールでは2mg以下にする必要がありますが、インクレチン関連薬とSU薬の併用はあまりお勧め出来ません。その点グリニド薬のインスリン分泌刺激作用は作用時間が短いため、空腹時には作用が及ばず、インクレチン関連薬と併用しても比較的低血糖を生じ難く、インクレチン関連薬とグリニド薬との相性は良いと考えられます。

【SGLT2阻害薬】

 血中のブドウ糖は腎臓の糸球体で濾過され、そのほとんど全てが近位尿細管から血中に再吸収され、健常人では尿中に出ることは殆どありません。これに大きく関わっている輸送体がS G L T 2(sodium glucosetransporter2)です。(図10)
 糖尿病患者では、血糖値が高くて、近位尿細管のブドウ糖再吸収を超えるため尿糖が出現します。
 SGLT2を阻害する薬、SGLT2阻害剤が2014年4月より発売されました。この薬は、腎臓でのブドウ糖の再吸収を担うSGLT2を選択的に阻害することにより、血液中の過剰な糖を尿中に排出します。(図11)
 インスリン分泌を介さない新規作用機序であり、低血糖をきたさずに強力な血糖降下作用を示すことが期待されます。

 SGLT2阻害剤は、次のようなメリットがあります。
①インスリン分泌に依存しない作用 機序のため、低血糖の心配が少ない
②尿糖排泄量増加のカロリーロスによる体重減少効果
③血圧低下(Naの再吸収抑制)
④脂質改善(LDLコレステロール、 HDLコレステロール、中性脂肪)
⑤糖尿病状態では、尿細管におけるSGLT2の発現量が多く、再吸収されるブドウ糖が健常者よりも多いため、SGLT2阻害薬の効果が発揮されやすい

 一方尿糖が多く排泄されるため、以下の注意が必要です。
①多尿による脱水(特に痩せ型の高齢者の女性には注意、高齢者では、脱水であっても口渇の自覚症状が出にくいため、脳梗塞や心筋梗塞の引き金となるので脱水予防対策が必要です。熱発、嘔吐、下痢、利尿薬の服用の際にも注意が必要)
②腎機能が低下している患者(腎機能を示す糸球体沪過率、eGFRが45ml/分以下)ではSGLT2効果が出にくいので、腎機能が保たれた方に用います。
③尿糖が頻発することによる尿路感染症
④性器感染症(特に女性)
⑤低血糖(単独使用では、生じないが、アマリールなどのSU薬の併用の際に低血糖のリスクが高まる)
 したがってSGLT2阻害剤を用いる際に適した患者像は、腎機能が保たれており、70歳未満の非高齢者でBMIが22以上の標準体重以上の糖尿病患者です。

 糖尿病シリーズは、今回をもって終了です。ご参考にしていただければ幸いです。長期間にわたりお読みいただき、ありがとうございました。

プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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