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【vol.48】辻和之先生の健康コーナー|糖尿病治療薬各論 グリニド薬


 グリニド薬には、以下の3種類の薬剤があります。
 一般名:ナテグリニド、ミチグリニド、レバグリニド
 商品名:ファスティックⓇ、スターシスⓇ、グルファストⓇ、シュアポストⓇ

【健常者におけるインスリン動態と血糖動態】

 健常人におけるインスリン分泌には、摂食とは無関係に常時分泌されている基礎分泌と、摂食後腸管からブドウ糖が流入するのに応じて速やかに分泌される食後血糖維持に重要な追加分泌とがあります。特に健常人の追加分泌は、食事開始と共に立ち上がりの鋭いインスリン分泌が起こります。この立ち上がりの鋭いインスリン分泌を初期分泌といい、これが起こるために肝臓でのブドウ糖の取り込みが円滑に行われ、食後の血糖の上昇が抑えられます。

【早期軽症糖尿病のインスリン分泌動態と血糖動態】

 早期糖尿病の場合、初期分泌がなく、追加分泌の立ち上がりの悪い遅延型インスリン分泌が起こります。インスリン追加分泌の立ち上がりが悪いため、肝臓でのブドウ糖の取り込みが出来にくくなり、食後高血糖になります。

【グリニド薬とSU薬との違い】

 前回は、同じインスリン分泌刺激薬のSU薬についてお話ししました。グリニド薬は膵β細胞の同じSU受容体に結合して作用しますが、SU薬と異なりインスリン分泌刺激の作用発現が早く、素早い追加分泌(初期分泌)を引き起こし、SU受容体から比較的早く離れていくために作用時間が短いのが特徴です。初期分泌が食後血糖を有効に降下させ、作用時間が短いために空腹時血糖を下げ過ぎず、低血糖を起こしにくいメリットがあり、健康人(健常者)に近いインスリン分泌パターンに改善出来る薬剤です。総インスリン分泌量では、グリニド薬に比べ、インスリン分泌刺激作用時間が長いSU薬の方が多くなりますが、(分泌量だけを見てSU薬が、グリニド薬より強力な薬剤であると勘違いされる方がいますが、実際は、タイムリーなインスリン分泌といった時間の問題を考えると、食後血糖を下げづらいSU薬は分が悪くなります。)食後血糖降下作用については、素早くインスリン追加分泌を促すグリニド薬に軍
配が上がります。一方SU薬は、空腹時においてもインスリン分泌を刺激するために、低血糖を来す事があり、異常な空腹感から間食や過食を来しやすく、肥満を助長しやすくします。グリニド薬は、SU薬でみられる空腹時の異常な空腹感や低血糖を来す事が少なく、肥満を助長する事がありません。

【グリニド薬の特徴】

 ここで具体的に順天堂大学の河盛隆造先生が手がけた実験を紹介しましょう。
 血糖降下薬を服用していない平均BMI 28.6の肥満2型糖尿病に対し、2日連続してブドウ糖負荷試験、75gOGTTを行いました。第1日目は、通常の75g OGTTを行いました。図4のインスリンは、青線で示したように健常者に比べ、インスリンの立ち上がりが遅く、食後2時間をピークとした遅延過剰分泌を示し、図左の血糖値は、負荷前126mg/dl以下でありましたが、負荷後30分より3時間で200〜300mg/dlまで上昇しました。そして翌日、同じ被検者に対し、グリニド薬のナテグリニド120mg (ファスティックⓇ、スターシスⓇ)を内服5分後に75g OGTTを行いました。
すると、赤線で示したように図右の糖負荷0~60分後のインスリン分泌は上昇し、遅延過剰分泌は是正され、図左の血糖曲線も正常化しました。この結
果から、グリニド薬はインスリンを瞬時に分泌させてインスリン分泌パターンを改善させることにより、肝臓での糖産生が抑制され、肝臓への糖取り込み
が上昇して、糖負荷後の食後過血糖を改善させる薬と考えられます。

【グリニド薬との併用薬について】

①食後血糖が下がりにくい場合
 食後血糖がグリニド薬だけでは下がりにくい場合、α – グリコシダーゼ阻害薬(ベイスンⓇ、ボグリボース、グルコバイⓇ、セイブルⓇ)を併用します。グリニド薬とα – グリコシダーゼ阻害薬が1錠の中に配合されたグルベスⓇがあります。さらに食後血糖が下がりにくい場合、インクレチン関連薬の
DPP-4阻害薬(次回のぶんぶん通信で取り上げます。薬剤名:ジャヌビアⓇ、エクアⓇ、ネシーナⓇ、トラゼンタⓇなど)を併用します。それでも食後血
糖が下がりにくい場合、超速効型インスリン(アピドラⓇ、ノボラピッドⓇ、ヒューマログⓇ)を使います。但し初めのうちは、3食全てに対し、超速効型インスリンを用いるのではなく、下がりにくい朝食後のみ用い、昼食や夕食はグリニド薬にする方法もあります。

②空腹時血糖が下がりにくい場合
 グリニド薬は、食後血糖を下げるのに有効な薬剤ですが、糖尿病が進み空腹時血糖が上がり始めたらメトグルコⓇなどのビグアナイド剤を追加します。ビグアナイド剤だけでは、空腹時血糖が十分下がらない場合にインクレチン関連薬のDPP-4阻害薬を併用します。それでも空腹時血糖が下がりにくい場合、作用時間が長い持効型インスリン(ランタスⓇ、トレシーバⓇ)を併用します。

【血糖変動幅とグリニド薬】

 同じHbA1cであっても血糖の山が高く、血糖の谷が深い血糖変動幅が大きい場合と、血糖の山が低く、血糖の谷が浅い血糖変動幅が小さい場合において動脈硬化に及ぼす影響が異なります。血糖変動幅が大きいと、血管の壁を傷つけ、動脈硬化を促進させます。グリニド薬は、血糖幅を小さくさせる薬剤です。他にDPP-4阻害薬やα-グリコシダーゼ阻害薬があります。
血糖変動幅を大きくさせる薬剤にはSU薬があり、α – グリコシダーゼ阻害薬の併用を必要とします。
さらに動脈硬化予防には、血糖変動幅を少なくする他に①HbA1c②血圧③脂質の管理が重要です。


プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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