【vol.88】辻和之先生の健康コーナー|「わかりやすい東洋医学講座」 第38回 東洋医学の基礎理論37 肝と脾
東洋医学の基礎理論37
肝と脾
肝と脾の協力関係(図1)
脾は、飲食物を消化吸収して精微(栄養物質)へ変化❶させて昇清作用❷で肺まで運搬行程を肝の昇堤作用(疎泄作用)❸のサポートを受けながら肺へ運搬され、肺で清気❹が加えられて後天の気や血❺が作られて全身の栄養を担います。
肝の疎泄・昇堤のサポートがあってこそ、脾の運化作用が機能し、肺からの清気が加えられて後天の気や血が作られ、生命維持❻に関与します。
さらに脾の*運化作用によって生じた脾気が肝気を補い、肝気の巡りを良くして肝の疎泄を助けます。❼
*《運化:「化」は、質的変化を表し、飲食物を栄養物に形を変えることで、西洋医学では、「消化」を意味する。「運」は、運搬する》
一方、脾の生血作用で作られた、血が、脾の統血作用により脈管内に維持され、脾が肝の臓血をサポートします。❽
肝と脾の協力関係が崩れた場合(図2)
肝の疎泄機能が失調①すると、精微を肺に届けられず②、脾の機能が低下(運化作用の低下③)して脾気が低下し④食欲不振や⑤抑鬱、胸脇部の脹満感を来します。このように肝の疎泄低下が脾の機能低下状態を生む病態を「肝脾不和⑥」といいます。また肝の疎泄作用低下が胃の降濁作用(不要なものを胃から大腸へと下方に押し出す作用)を傷害⑦して胃気上逆⑧を来すと、ゲップ⑨などを生じます。この状態を「肝胃不和」⑩と言います。「肝脾不和」と「肝胃不和」は、同時に起こり得るので、「肝脾胃不和」⑪となります。
食べ過ぎや飲み過ぎなどで脾の働きが低下(脾気の低下)⑫して生血出来なくなったり⑬、不統血による⑭出血が原因で肝血が不足したりすると、肝血虚⑮を来し、めまい、四肢の痺れ、筋肉の痙攣、かすみ目などの症状⑯を呈するようになります。
肝脾不和をもう少し詳しく見てみると、肝と脾のどちらの病態が強いかによって⑴肝気鬱結が強い病態(肝気犯脾)と⑵脾虚が強い病態(脾虚肝乗)に分けられます。
⑴肝気犯脾:肝気鬱結(気滞)の病態が主で、脾は、軽度の機能低下で、腹部や季肋部・頬部の脹満痛(感)、痞塞(支え)感、不安感、嘆息など心の不安症状を伴います。脾虚の症 状は、食欲不振、下痢、胃もたれ、食後脹満感等です。
治方:四逆散、小柴胡湯合平胃散など
⑵脾虚肝乗:脾虚のために脾気が不足して、気の推動作用低下により肝気を巡らせにくくなり、肝気が滞る病態で、脾虚が主症状で、気滞症状は、軽症となります。脾虚の症状として消化吸収低下による下痢、食欲低下、胃もたれを生じます。肝気鬱結症状としては、愛気(ゲップ、ため息(嘆息)等を生じます。
治方は、香砂六君子湯等を用います。
プロフィール
医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之
昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会 認定医
日本内視鏡学会 認定医