【vol.86】こころとからだの健幸タイム|ゲスト 志賀 一雅さん 前編
約半世紀にわたって脳波の研究を続け、米国HHS(保険社会福祉省)大統領諮問機関認定の「GOLD AWARD(金賞)」を受賞するなど「アルファ波」研究の第一人者でもある志賀一雅さんに、脳波と健幸の関係などについて伺いました。
志賀一雅さん(以下、志賀)
はじめて鳴海さんとお会いしたのは2005年の対談企画でしたね。
以来、六花亭のお菓子をみては鳴海さんを想い出しています(笑)。
鳴海周平(以下、鳴海)
ありがとうございます(笑)
「六花亭=北海道」からの鳴海周平、たいへん光栄です。
志賀先生も甘いものがお好きなので、会うたびにお菓子の話で盛り上がっているのは、ここだけの話にしておきましょう(笑)。
今日は「健幸対談」ということで、お菓子の話のまえに、あらためて「脳波」と健幸の関係などついてお話を伺いたいと思います。
志賀 わかりました。では、楽しみなお菓子の話は、後ほどゆっくりと。
アルファ波はハイパフォーマンスの証
志賀
私はもともと大学で工学の勉強をしていました。なので、松下電器産業(現パナソニック)には半導体の研究員として入社したんです。研究テーマは、半導体の物性物理やその応用である集積回路(LSI)の開発。現在のパソコンのCPUや携帯電話のLSIなどにつながるものですね。
その半導体の研究成果を国際会議で発表するために、はじめて渡米したのですが、そのころアメリカでは「脳波・アルファ波」ブームなるものが起こっていました。いまから50年以上前、1971年のことです。
鳴海
「アルファ波」という言葉が、日本ではまだ知られていなかったころですね。
志賀 アルファ波どころか、脳波についてもあまり一般的ではありませんでした。
でも、すでにアメリカの書店では「脳波・アルファ波」の本がたくさん並んでいて、そのなかの1冊を購入して読んでみたら「脳がアルファ波の状態になると、意欲が湧いて、アイディアがたくさん出る」と書いてあったんです。半導体の研究には、さまざまなアイディアが必要になりますから、俄然、興味が湧きました。
それで、日本に帰ってからも半導体の研究を続けながら、脳波の研究をはじめたんです。まわりには内緒で(笑)。
鳴海 当時、脳波はおもに医師が扱う分野で、アルファ波についても「目を閉じてなにも考えずにリラックスしているときに出る脳波」という定義がなされていたとか。
志賀 はい、瞑想状態に出る脳波という認識くらいはあったようです。
私の人生もアルファ波と出会ってしまったことが、迷走人生のはじまりですが(笑)。
脳波の研究をするにあたっては、まず脳波計が必要になるわけですが、当時の日本では病院で使うような大型で高価な脳波計しかありませんでした。そこで、アメリカの脳波計をもとに自作で脳波を計測できるシステムを構築しました。この脳波計測システムで松下電器産業東京研究所に在籍していた250人ほどの研究員の脳波を測ったことが最初の測定です。結果はあきらかで、優秀な研究者たち、とくに特許出願率の高い人ほどアルファ波が強いことが示されました。やはり、アルファ波はハイパフォーマンスの証だったわけです。
天才たちの脳波に共通すること
志賀 先の研究が「研究員の知的生産性を高める研究」と認められ、正式に研究プロジェクトを発足させることができたあとは、松下電器の研究所という社会的信用もあって、さまざまな有名人の脳波を測らせてもらうことができました。
円周率4万桁を記憶する記憶力世界一の友寄英哲さんや、将棋の永世棋聖・米長邦雄さん、野球で三冠王を3年連続で達成した落合博満さんといった方々です。
鳴海 それは錚々たるメンバーですね。
志賀 こうした天才たちが、得意な分野で能力を発揮しているときは10Hzのミッドアルファ波が強く出ていました。これは、脳波の専門家がこれまで提唱していた「アルファ波は、目を閉じてなにも考えずにリラックスしているときに出る脳波」という解釈が現実的ではないことをあらわしています。私が、アルファ波を3種類に分類しているのは、そうした理由からです。
鳴海 弊社エヌ・ピュアが創業当初からお世話になっている山梨浩利さんの脳波も測定されたと伺いました。
志賀 はい、もう二十数年前になりますが、山梨さんは「さまざまなものの波動が測定できる人」ということで、各方面で話題になっていました。目にみえない「波動」という世界を数値であらわすことができて、しかも、再現性があるため信用ができるというので、波動を測っているときの脳波を測定させてもらったんです。当初、私は天才たちが能力を発揮するミッドアルファ波の出現を予想していたのですが、これはまったく検出されず、直線の脳波でした。わかりやすくいえば、ご臨終のときの脳波です(笑)。なにかを考えていたら脳波はかならず検出されますから波動を測っているときの山梨さんは、いっさい思考していない、禅僧のような「無念無想無我」の状態であるということです。これは、驚くべき結果でした。
鳴海 やはり!ただものではないと思っていました(笑)。
志賀 こうした脳波の状態では理論や経験などでは判断できませんから、山梨さんの波動測定は、おそらく生命体の本能部分である脳幹に近いところでおこなわれているのだろうと思います。やはり、ただものではない、ということです(笑)。山梨さんが開発に携わっているエヌ・ピュアさんの商品が、長く愛され続けている理由がわかりますね。
健幸の鍵は「明るい脳」
志賀 こうして半世紀以上、脳波に関するいくつかのテーマを研究してきました。
・優秀な人の脳波はどんなものか
・人が集中して能力を発揮しているとき、どんな脳波なのか
・クリエイティブなときの脳波
・リラックスしているときの脳波
こうした研究成果の応用として、プロスポーツ選手やビジネスパーソンのメンタルコーチも務めてきたわけですが、パフォーマンスをより効果的にあげるためには、先のミッドアルファ波とともに「呼吸」も大きく関係していることがわかりました。さらに、この「呼吸」に「よかった・ありがとう」という言葉を加えることで、アルファ波のなかでもスローアルファ波と呼ばれる7.8Hzの脳波が増えることもわかってきたんです。
鳴海 先ほどの表でみると、休息しているときや、ぼんやりしているときの脳波ですね。
志賀 はい、このスローアルファ波が、じつは「明るく幸福で、クリエイティブな人生」に欠かせないとても重要な脳波、つまり明るい脳」を実現するための鍵だったんです。
明るい脳
・世界が明るく感じられるようになる
・幸せを感じやすくなる
・よく眠れる
・疲れがとれる
・やる気が出る
・頭が冴える
・クリエイティブ思考が強まる
・慢性痛などの不調が改善する
この「明るい脳」の特徴であるスローアルファ波は、赤ちゃんから強く出る脳波です。
ふつう、脳波は右脳と左脳で別々の波形をしているのですが、生後1ヶ月の赤ちゃんが喜んでいるときの脳波をみると、右脳と左脳がいずれも7.8Hzのスローアルファ波できれいにそろっていることがわかります。
きわめて好奇心旺盛で、なにをみてもキャッキャッと喜ぶのは「明るい脳」が活発に働いている証拠。喜びとか幸福に、スローアルファ波が深く関わっているということです。
「よかった・ありがとう」呼吸法
志賀 生理学者で脳の専門家でもある大木幸介先生の書籍を参考にした図をみていただくと、不安や不満を持つと脳幹のA6神経核が働いて、ノルアドレナリンと呼ばれる神経ホルモンが分泌されることがわかります。逆に、希望や期待感を持つと、下垂体からチロトロピンやコルチトロピンが出て集中力が高まります。これは、喜びや満足を感じる脳幹のA10神経核が活性化してドーパミンが分泌され、A9神経核が刺激されるということです。すると、人はにこやかになったりして「喜びを表現」します。つまり、脳幹にあるA10神経が「よかった」と感じる部分、A9神経が「ありがとう」と表現する部分ということになるわけです。
鳴海 「よかった」「ありがとう」という順番なんですね。
志賀 10→9と数字は逆ですが、脳の神経回路の順番では「よかった」「ありがとう」です。喜ぶべき理由があって、そのことに感謝する。理論的にも理にかなっていますね。
そこで、先ほどの「呼吸」と、この「言葉」を結びつけてみます。
息を吸いながら 「よかった」
息を吐きながら 「ありがとう」
この呼吸と言葉のセットを、生活のなかで繰り返していると、どうなるか。
まるで「パブロフの犬」の条件反射とおなじように、どんな状況にあっても「息を吸って・吐いて」という行為とともに、ドーパミンが分泌されるようになってしまうんです。つまり、なにをするにしても「呼吸をするだけで、勝手にやる氣が出てくる」という「明るい脳」体質になるんですね。
鳴海 はじめて志賀先生から「よかった・ありがとう」呼吸法を聞いたのは、もう20年以上前ですが、おかげさまで周りからなかばあきれられるほど(笑)楽天的にものごとを捉えられているように思います。
志賀 私もおなじくなので、よくわかります(笑)。
「よかった・ありがとう」呼吸法は、習慣化しやすく潜在意識にも働きかけやすい「就寝前」におこなうのがお勧めです。もう、今夜からでも、寝床に入ったらなにも考えずに、息を吸いながら「よかった」息を吐きながら「ありがとう」を、ただただくり返す。たったそれだけで、1週間もしたら「明るい脳」へと近づいていることに氣づくでしょう。
寝る前の「よかった・ありがとう」は、これまで数えきれないほどの人たちに実践してもらいましたが「5、6回くり返しているうちに眠ってしまった」という人がとても多いんです。寝つきがよくなったとか、翌朝起きたときに身体が軽くて驚いたとか、すっきりと目覚められるといった感想もよくいただきます。
これは「よかった・ありがとう」呼吸で分泌されるドーパミンが、寝ている間の数時間に分解されながら作用し続けるからです。働き続けるドーパミンによって全身の細胞が修復されることが「身体が軽い」「目覚めがよい」として自覚されるということですね。
鳴海 息を吸いながら「よかった」息を吐きながら「ありがとう」を、ただただくり返す。シンプルイズベストの代表のような健幸法ですね。
志賀 日中なにかいいことがあったら、そのことを思い浮かべて「よかった・ありがとう」。なにも思い浮かばなかったら、ただただ呼吸とともに「よかった・ありがとう」。嫌なことがあっても、心配なことがあっても「よかった・ありがとう」でいいんです。
言葉を意識すると、脳は勝手にその理由を探し出してくれますから、寝ている間に健幸で「明るい脳」が勝手につくられていきます。
鳴海 赤ちゃんの頃は誰もが「明るい脳」だったということは、人間はほんらいそういうものだということなのでしょう。
プロフィール
志賀 一雅さん
1937年東京生まれ。脳力開発研究所相談役・工学博士
「アルファ波」研究の第一人者。
電氣通信大学卒業後、松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)に
入社し東京大学物性研究所で半導体の研究に従事。
1976年から松下技研主任研究員と東京大学工学部計数工学科研究員を兼務し
「脳波」の研究を開始。「アルファ波」の解明をおこなう。
2011年に脳力開発の発展に貢献したことにより米国HHS(保険社会福祉省)
大統領諮問機関認定の「GOLD AWARD(金賞)」を受賞。
著書に『奇跡の《地球共鳴波動7.8Hz》のすべて』(ヒカルランド)
『聞くだけで脳の疲れがとれるCDブック』(ダイヤモンド社)ほか多数。