【vol.85】辻和之先生の健康コーナー｜「わかりやすい東洋医学講座」第35回東洋医学の基礎理論34　肺と脾

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【vol.85】辻和之先生の健康コーナー｜「わかりやすい東洋医学講座」第35回東洋医学の基礎理論34　肺と脾

東洋医学の基礎理論34

肺と脾

【肺と脾の正常な関係】

　気の生成と津液代謝において、脾と肺は協力・依存関係にあります。

⑴［気の生成］：後天の気は、脾の運化によって水穀から水穀の精微に変えられ、水穀の精微と肺によって取り入れられた清気が、合流して後天の気や宗気が生まれます。（図1）

⑵〔津液代謝］：脾が飲食物から水分を吸収して、運化作用により津液にし、さらに昇清作用により肺まで運び上げ、肺は粛降作用により腎まで配られます。
　津液の通路を水道と云いますが、水道を調節する肺の作用を通調水道と云います。通調水道作用によって津液を全身にうまく流れるように調節し、肺は水の巡りに重要な働きをしています。さらに肺は、津液の一部を宣散作用によって汗となって体外に排出します。このように津液の生成と配布は、脾と肺の共同作用によって行われます。（図2）

【肺と脾の病的関係】（図3）

　肺と脾は、このように密接に関係しているために、病的な状況においても相互に影響を及ぼしあい、最終的に気の生成不足や水液代謝の失調に陥りやすくなり、二つの病態が同時に発現します。そのため肺気虚と脾気虚の合併症がよく見られ、脾肺気虚証と呼ばれています。
　例えば、飲食不摂生などで脾気虚（脾気が不足）になれば、肺を養う気が不足して肺気虚（肺気不足）になりやすくなります。慢性の咳嗽などで肺気虚になると、脾の活動の活力となる宗気の生成が低下して脾気虚になります。一方、肺気虚になると津液の配布が停滞して肺内に痰飲を生じ、痰や咳嗽が出現します。また脾の昇清作用や運化作用の低下があれば、津液代謝が失調して水液が停滞し、集まって痰飲となり、肺の宣散粛降に影響が及んで喘咳（喘鳴や咳嗽）や痰多（喀痰量の増加）などの症状が現れます。
　脾気虚になると、飲食物から水分がうまく吸収されず、下痢などを生じます。

⑴肺気虚証：肺内に津液が貯留して咳嗽・　白色や水溶性の多痰・息切れ・呼吸困　難、肺気虚のため衛気が低下して、自汗（じっとしていても汗をかく）や盗汗（寝汗）、風邪を引きやすい等の症状が出現します。さらに倦怠感・顔色不　良・弱々しい声などの気虚症状も出現します。（図4）

⑵脾気虚証：消化作用が低下して食欲不振・胃もたれ・下痢・四肢のだるさを生じます。（図4）

　治療法：脾気虚が主体の場合、六君子湯、風邪を引きやすいなどの衛気の低下や中気下陥（内臓下垂など）には補中益気湯、風邪を引きやすい、寝汗の治療には玉屏風散、脾気虚証の方の感冒には参蘇飲を用います。

【水液代謝と臓腑の関係】

　水液代謝は、主に前述の肺や脾の他に腎の三臓が担っています。したがって水液代謝に異常が現れた場合、三臓のいずれかに問題があることが多いです。上焦に異常がある場合は肺を、中焦に異常がある場合は脾を、下焦に異常がある場合は腎を治療します。

⑴肺：肺に異常があると、津液が上焦に停滞するために、顔や眼瞼が急に腫れる、咽喉部が赤く腫れる、咳、発熱などの症状を呈します。このような場合、越婢湯などで肺の宣散粛降を回復させる治療を行います。
⑵脾：脾の運化作用が低下すると、津液が中焦に停滞して脾に湿が停滞し、食欲低下、下痢、腹水などの症状を呈します。このような場合、脾の運化作用を回復させて水液代謝を改善させる必要があります。代表的な方剤に実脾湯があります。
⑶腎：腎に異常があると、津液が下焦に停滞するために、下半身の浮腫や排尿異常を呈します。このような場合、腎陽を補助して水液代謝を改善させる必要があります。代表的な方剤に真武湯があります。
＊下腿や足の浮腫が主に片側に現れたら、西洋医学では、DVT（Deep Vein Thrombosis：深部静脈血栓症）を疑います。西洋医学では、アリクストラなどの抗凝固薬を用います。東洋医学では、血瘀と捉え　て、丹参、川芎、鬱金、益母草、桃仁、紅花、牛膝、延胡索（気の巡りをよくする行気作用あり）などの活血薬を用います。