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【vol.83】こころとからだの健幸タイム|ゲスト 帯津 良一さん 前編


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 ホリスティック医学の第一人者である帯津三敬病院名誉院長・帯津良一さんとエヌ・ピュア代表・鳴海周平との共著『1分間養生訓』(ワニ・プラス)からお二人の健幸対談を抜粋し、3回シリーズでご紹介します。
 
 

人生は、後半になってからが本番

 
鳴海周平(以下、鳴海)
 人生のお手本として尊敬する帯津先生と「人生の後半を幸福に生きる」というテーマをご一緒させていただき、あらためて年齢を重ねていくのが楽しみになりました。
 本書を書き進めるにあたって、各界で活躍する諸先輩がたの著作も参考にしましたが、皆さん口を揃えたように「人生の幸福は後半にあり」とおっしゃっているんですよね。
 100歳を過ぎてからも日本画家として活躍された篠田桃紅さんは「若いうちは考えられなかったことを、老いてずいぶん色々感じたり、知ることができたから、やっぱり長生きしてよかったと思いますよ」と書いていますし、作家の森村誠一さんも88歳のときに書いた本のなかで「老後や余生とは、ある意味、『ご褒美』のようなものである」とか「余生ではなく、誉生」として「60歳、70 歳といった年齢になってからこそが、本番なのだとみなしてしまっていいのではないか」とも述べています。

帯津良一さん(以下 帯津)
 本当にそのとおりだと思いますね。私も、人生が華やかになってきたなぁと感じたのは60歳を過ぎてからです。いろいろなことが見えてきて、生きることが楽しくなってきました。女性にもモテるようになりました(笑)
 だから、まだ人生の道理や本当の楽しみを知らない状態を望むようなアンチエイジングという言葉はどうも好きになれません。夏の若葉もいいですが、秋の紅葉や冬に落葉した木々には、より大きくこころを打つものがある。歳を重ねて道理や楽しみがわかってくるにつれ、幸福感もまた増していくものなのだと思います。
 作家の五木寛之さんは50歳になってから大学に通いはじめたそうですが「勉強がこんなに面白いと氣づくことができたのは、若いときにはみえていなかったことがたくさんあるということだ」と仰っていました。古典を読んで、腹の底から納得し、つくづく共感できるようになったのも50歳を過ぎてからだそうです。
 学ぶことの面白さに氣づくことも、人生後半の楽しみのひとつですね。

鳴海 前述の篠田桃紅さんも「若いときにはこういうお皿だと思っていたのが、歳をとったら別の面白さを見出すようになる。ひとつの花が咲いているのをみる目も、若いときと全然違ったものにみえる」と述べています。
 諸先輩のお話を伺っていると、年齢を重ねるごとに培われていく感性が、どんなことを「楽しい!」と感じてくれるようになるのか、とても楽しみになります。

こころとからだの健康にたいせつなこと

 
帯津 人生の後半を楽しむにあたって意識したいことのひとつに「足腰を鍛えておく」ということがあります。というのも、この人は素敵な歳の重ね方をしているな、と思う人はみな凛としていて姿勢や歩き方がとても格好良いのです。
 青森で「森のイスキア」を主催していた佐藤初女さんは90歳を過ぎても背筋をスッと伸ばして音もなくリズミカルに足を運ばれていましたし、伊那谷の老師こと加島祥造さんは私よりひと回りも年上なのに、天竜川の土手を一緒に歩いていてどんどん置いていかれました。後ろ姿は、サン=テグジュペリの『星の王子さま』を彷彿とさせましたね。

鳴海 たしかに、歩き方が格好良い人はお元氣ですね。
 ウォーキングには、足腰の筋肉を鍛える効果の他にも、リズミカルな動きが脳内物質のセロトニンを分泌させて心身のバランス(自律神経)を調えたり、脳への血流促進が認知症予防につながることなどもわかっているそうです。
 糖尿病の薬を服用していた知人は、1日1万歩のウォーキングをするようになってから自然に血糖値が下がって薬が必要なくなったと言っていました。

帯津 歩くことの効用は大きいですね。私の場合は診察のときの、立ったり座ったり移動したり、というこまめな動きが筋力を維持してくれていると思っています。掃除や洗濯といった家事全般も、こまめにからだを動かす良い機会になるのではないでしょうか。

鳴海 益軒さんも「からだをこまめに動かしていれば、氣はめぐって滞らない」と述べていましたね。エレベーターやエスカレーターではなく階段を使うとか、買いものする場所を何箇所かに分けてみるなど、日常生活でも「からだをこまめに動かす」機会を意識して増やすといいかもしれません。

帯津 日常生活で外に出る機会を増やすと自然に運動量も増えるでしょう。外食で行きつけのお店をつくっておくのもいいですね。私は定期的に行く鰻屋さんや中華料理のお店などがあります。移動は運動になるし、馴染みのお店だと会話もできる。そして、たまには飛び込みで新しいお店を開拓するのも楽しい刺激になるでしょう。

鳴海 エッセイストの島敏光さんは『爺の暇つぶし』(ワニ・プラス)という本のなかで「飛び込みで美味しい店を見分ける方法」について「門構えがきれいすぎないが汚すぎない、お洒落すぎないがダサくはなく、ゴテゴテしないがある種の風格があるお店」と述べていました笑)。旅先などでは、とくに楽しい刺激になりそうですね。

帯津 外食をしたり、旅に出かけたり、映画や演劇などを観に行くなど、外に出ることは、こころにもからだにもよい刺激を与えてくれるでしょう。

鳴海 現在は年に1000本以上の映画が封切りされていると聞きました。前述の島敏光さんは「いい映画の見分け方」についても教えてくれていて「安全策としては『午前十時の映画祭』からはじめる」という手もあるそうです。名画をデジタル版で甦らせているのでまずハズレがないと。しかも、60歳以上だと千円で入れるところがほとんどなので手軽に出かけられます。「からだは動かさないとナマるように、こころも感動がないとサビつきます。映画はこころの健康を保つためのトレーニングです」とも述べていました。

帯津 私も映画少年でしたから、名画からたくさんの感動をもらいましたよ。素晴らしい思い出が余韻として残っていくことも人生の後半を豊かに生きることにつながるでしょう。
 楽しいことを探したり、美味しいものを食べたり、趣味を見つけて楽しんだりといったことは、こころの健康を保つ方法でもありますから、映画でも外食でも、外に出る機会をどんどん増やすことをお勧めしたいですね。

鳴海 年齢を重ねるほど、自由になる時間も増えてくるでしょう。五木寛之さんは「退屈な時間をどうすごすか、などと考えることは、本当は素晴らしく幸福なこと」と仰っていましたが、タイム・イズ・マネーと考えたら、たいへんなお金持ちということになります。

帯津 まさに「時は金なり」ですね。お金といえば『養生訓』の研究家としても知られる立川昭二さんが、人生の後半を幸せに生きる条件として「生活費」「健康」「生きがい」の3つをあげていました。たしかに、現実として生活費がないとたいへんです。私の場合は毎日の晩酌代がないと生きていけません(笑)。
『わが谷は緑なりき』という映画の冒頭で、炭鉱夫たちがその日の給金をもらって家路に着くシーンがあるのですが、これを観てから、私も日銭を稼いで、その稼ぎで晩酌をして1日を終えるという生き方にあこがれてきました。講演会でいただいたお金を内ポケットに入れて、帰りの空港や駅の居酒屋で一杯やるときの幸福感は最高です。そもそもお金は使うためにあるものですから、将来のことを心配して溜め込むよりも、喜びやときめきのために活かすことで、こころもからだも健康を保つことができる。せっせと日銭を稼ぎ、それで晩酌をするというのが、私の健康法であり、生きがいでもあるんです。

鳴海 帯津先生は「生活費」と「生きがい」がセットになっていて、そのことが「健康」にもつながっている。立川昭二さんが仰る「人生の後半を幸せに生きる3つの条件」が、そのままライフスタイルになっているんですね。
 今年90歳になった評論家の樋口恵子さんは「どんなささやかな仕事でも、人と接する機会が生まれて、人の役に立てて、現金収入が得られる」という理由で「月にわずかでもいいから、働いて収入を得ること」を勧めています。働くとからだを動かすことになるし、新しい出会いや仕事も、よい刺激になりそうです。

帯津 益軒さんも「家業に励むことが養生の道」と説いていますね。家業とは、先祖伝来のものに限ったことではないので、何歳になってもなにかしら働いていることが、こころとからだの健康にはたいせつだということでしょう。

(次号の中編へ続きます)

 

プロフィール

帯津 良一さん

1936年埼玉県生まれ。日本ホリスティック医学協会名誉会長。
日本ホメオパシー医学会理事長。
1961年東京大学医学部卒。現在、帯津三敬病院名誉院長。
西洋医学に中医学やホメオパシーなどの代替医療を取り入れ、
ホリスティック医学の確立を目指している。
『健康問答』(五木寛之氏との共著/平凡社)ほか著書多数。

 

 

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