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【vol.83】辻和之先生の健康コーナー|「わかりやすい東洋医学講座」 第33回 東洋医学の基礎理論32 心と肝


 
東洋医学の基礎理論32

五臓は、それぞれ影響し合って生命活動を維持しています。今回は《心と肝》についてみてみましょう。

3.心と肝

【心と肝の正常関係】

「血」について:心と肝が関わる「血」について説明していきましょう。中医学における「血」は、⑴西洋医学的な血の働き(具体的には、栄養を組織に供給する滋養作用)、⑵思考、情緒などの精神活動の働きもします。
 ①血の運行(図1):心は、血脈(血液循環)を主り、推動作用(ポンプ的な働き)により血を運搬します。心から送り出された心血が肝を栄養して肝血を補います。一方肝は、疎泄作用(体全体に気、血、津液を順調に巡らせる機能)により血の運行をスムーズに行わせ、臓血作用により血流量を調節します。
 ②精神「こころ」の活動:「こころ」の働きを「心」と「肝」の二つに分けることが出来ます。心は、* 「神」を蔵し、肝は、** 「魂」を蔵します。すなわち心は、神志(精神・意識・思惟《深く考え思う》活動など高次の精神活動)を主り、知覚、記憶、思考、意識、判断、知性、理性などの精神活動をして大脳新皮質と関係し、知能と関係します。
 さらに全ての精神活動を統率・制御します。肝は、情志(感情)を主り、情緒、感情、判断力、本能(大脳辺縁系)と関係します。
(図2)神志と肝の関係において、肝血が十分あれば、心は滋養され、神志が正常に機能し、安定した精神活動をすることが出来ます。また肝の疎泄作用により気の巡りが良いと、神志の機能がスムーズになり、精神活動が正常に維持されていきます。一方神志の働きが正常であれば、肝の気の巡りが良くなり、血も貯蔵され、肝の魂も安定して、易怒性が改善します。
 このように心と肝は、血の運行と精神(心)の活動において、相互に依存・協力関係にあります。
*  「魂」:高度な精神心理機能を介した行動をつかさどり、感情や情緒の感覚、合目的な随意運動に関わります。魂の異常は、①決断力が鈍る。②モチベーションが下がる。③強引さ。④怒り。⑤うまくビジョンを見ることが出来ず、失意になる。
** 「神」:魂よりさらに高度な中枢神経機能をつかさどります。意識を通したあらゆる体験を統合して、そのデータを記憶して学習機能によって判断を下します。衝動的な欲望を理性で制御する精神機能をします。神の異常は、①神は自発性に関わっているので、神に異常を来すと無気力になる。②不安になる。
 因みに精神活動は、五臓が分担して受け持っています。心は神を、肝は魂を、肺は魄を、脾は意を、腎は志といった精神活動を行います。

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【心と肝の病的関係】
 
(図3) もし心血虚で心の行血作用が失調すれば、血の運行が不調となり、肝は、血を蓄えられることが出来なくなり、肝血虚に至ります。逆に肝血虚で肝に血を蓄えられなくなると、心に血を運べなくなって、心を滋養しなくなり、心血虚に至ります。過度の心労や、思い悩み過ぎ、過労が続くことで心血が消耗することも心血虚の原因になります。心血虚になると、心神の活動は、安定せず、動悸しやすく、驚きやすくなります。心神の不安定症状が出現します。
 よって心血虚と肝血虚は、同時に生じ易くいずれも最終的に「心肝血虚」に陥り、心悸(動悸)、失眠(不眠)、多夢、かすみ目、手足の震え、痙攣、皮膚の乾燥などの症状を同時に生じ易くなり、それぞれの症状が合併した形になり易くなります。例えば、(図4)心血虚の心血不足の症状としての不眠や多夢の人に肝血虚の症状として目の症状や婦人の生理失調の症状が伴うことがあります。逆に婦人の過多月経や不正出血などで肝血が不足した人に、動悸、不眠などの心血虚としての症状が出やすくなります。
 このように心肝血虚では、心血虚の症状として集中力低下、健忘、動悸、不安、失眠(不眠)、多夢などの症状を、肝血虚の症状として、顔色不良、めまい、立ちくらみ、視力低下、眼精疲労、かすみ目、手足の震え、痙攣、耳鳴り、さらに過少月経や無月経などの症状を呈します。
 肝血虚から肝の魂が不安定になり、不安、驚きやすい、緊張しやすい、興奮しやすいなどの症状も呈し易くなります。
 血虚の状態が長引けば、相対的に陽が高まり、足のほてり、盗汗(寝汗)などの虚熱(陰が弱まった為に相対的に陽にバランスが傾いて生じた熱)を生じやすくなります。
 ストレスによって心臓神経症と云われる動悸を主訴とする病症を訴える人がいますが、ストレスによって肝気の巡りが悪くなり(肝気の鬱滞)、心血の運行や神志の活動に障害を与えて、心血虚の症状として動悸や精神不安、イライラして怒りっぽくなったり、不眠、煩燥(不安で手足を固定しておけず、バタバタさせる)が出現したりします。これは、(図5)ストレスが肝気の巡りを悪くさせると、肝気の上昇が多量になって、肝気が熱を持ち、肝火として上炎(身体の上部『頭部』に上昇して熱を帯びる)、怒りっぽくなり、それが心に移行して心火が上炎させる為に不眠や心煩(胸中の煩悶)を生じます。
 心火と肝火の上炎は、同時に現れやすいので、この状態を「心肝火旺」と云います。この病症が慢性化すると、心肝陰虚と云う病証に至り、ほてり、盗汗などの虚熱症状も来すようになります。
 
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【治方】
  
心と肝の血を補い、心神を安定化させ(安神)、虚熱を冷まし降ろす*補肝湯を用い、イライラ、不眠、ほてりなどの熱証が強いときに女神散、体が疲れて眠れない場合には、酸棗仁湯を、動悸には、**天王補心丹合四物湯や加味帰脾湯合加味逍遙散を用います。

*  補肝湯(四物湯+木瓜、酸棗仁、甘草)
** 天王補心丹(生地黄、人参、丹参、玄参、茯苓、五味子、炙遠志、桔梗ほか)

 
 

プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設

日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

 

 

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