Vol.258 10月 なにごとにも、タイミングがある
なにごとにも、タイミングがある
このコーナーでも何度か紹介したことがある『養生訓』。江戸時代の儒学者・貝原益軒さんが書いたこの本は、なんと300年も読み継がれている超ロングセラーです。
健幸・長寿を自ら体現した益軒さんの「健幸のコツ」を、あらためて学んでみたいと思います。
病が治癒するタイミング
いくら健幸に氣をつけていても、体調を崩してしまうことはあるでしょう。
そんなとき、益軒さんは「いったん病氣になってしまったら、くよくよ考えず、養生に専念しなさい」と述べています。
「くよくよしていると、氣がふさがってしまう。治るときがきたら治るのだから、とにかく養生しなさい」というわけです。
そして、それでもダメなときは「天がさだめた寿(授)命なのだから、しょうがない」として「自然界の摂理におまかせしたらよい」と説いています。
誰もが「生老病死」というステージをとおるのだから、できるだけのことをやったら、あとは「自ずと然るべき状態=自然の摂理」にゆだねる、そんな「おまかせの心境」のたいせつさを訓えてくれているのではないでしょうか。
医学者の杉田玄白が、85歳でこの世を去るとき「医事は自然に如かず」と書き残しているように、自然治癒力は、益軒さんのいう「治ることを急がず、自然にまかせておく」心境で、自然界の摂理におまかせして(ゆだねて)しまったとき、もっともその力が顕現されるように思います。
すべてに「定まったとき」がある
旧約聖書に次のような一文があります。
「天の下では、なにごとにも定まったときがあり、すべての営みにはときがある。生まれるのにときがあり、死ぬのにときがある」(伝道者の書第3章1-8節より)
病にかぎらず、起こることすべてに「定まったとき」があると考えれば、いろいろなことに対して氣持ちがやわらかくなるのではないでしょうか。
養生の秘訣として益軒さんがくりかえし述べている「こころがやわらかい」状態です。
なにごとも急がず、ときの流れに身をまかせ(という歌、ありましたね)、マハートマー・ガンディーの「よいものはカタツムリのように進むのです」という言葉のように人生を楽しみたいものです。
〈『養生訓』関連箇所(現代語訳)〉
はやく治そうとして急げば、かえって病は重くなる。養生でできるだけのことをしたら、治ることを急がず、自然にまかせておくのがよい(巻第六)
いたずらに病を憂いて苦しんでもしょうがない。心配すれば氣がふさがって病は重くなる。重い病でも、養生を続けていれば思ったよりもはやく治るものである。もし、死ぬと決まった病であれば、天の定めるところであるから、なおさら心配してもしょうがない(巻第六)
参考文献
『養生訓』 貝原益軒
『1分間養生訓』帯津良一・鳴海周平 著(ワニ・プラス)