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【vol.28】辻和之先生の健康コーナー|肺の病証と治療


 「肺」は、生命力を補充する重要な臓器で、五行の「金」に属します。呼吸を通して「清気」を体に補充し、「濁気」を排出する働きは、西洋医学における肺の呼吸の機能と共通していますが、東洋医学では、さらに広い意味を持ち、津液を体に散布する役割や皮膚の調節作用および外邪からの防御作用なども担っています。つまり水分代謝、汗腺機能、免疫機能も「肺」の機能と関係しています。バリアーとしての働きをして種々の内外の交通を制御しており、外に対しては、宣散(発散)、内に対しては、粛降(下降)の作用を示します。
(図1)宣散は、体表・上方に向かう動きを指しますので、主に体表を守る衛気(=免疫機能とほぼ同意)としての働きをします。粛降は、気を内側・下方へ誘導し、栄養物質(栄気、衛気、宗気など)が肺気を動力源として、各臓器に分布されて、潤され、温められ、滋養されます。津液は、肺の粛降作用によりスムーズに腎・膀胱に輸送されます。この粛降作用が不調になると、浮腫や排尿困難となります。また、肺の宣散作用が失調すると、汗が少なくなり、筋と皮膚に浮腫を生じます。
 したがって人体の津液代謝(図2)は、一つには、㈰肺の粛降作用が関与し、さらに㈪「脾」の運化作用(=食物を消化・吸収し、その栄養物質を全身の各組織に供給する機能)、㈫「腎」の気化作用《vital energy〈=生命エネルギー〉を活性化させることで、ある臓器が機能できるように活性化させる作用》が関与しております。
 呼吸については、肺の粛降作用により降りてきた清気は、「腎」により納気(気を納める)されて、「肺」と「腎」の共同作業により完全な呼吸になります。したがって「肺」と「腎」の共同作業がうまくいかないと気管支炎、喘息などの症状が出ます。したがって治療に当たっては、「肺」の治療と同時に、「腎」の治療に常に心を配らなければなりません。例えば、腎に陽気を与える八地味黄丸が喘息に有効なことがあります。「肺」の外界の出入り口は、鼻であり、鼻の機能は、「肺」と深く関係します。したがって鼻の症状である、花粉症、アレルギー性鼻炎、嗅覚異常などの治療には、「肺」の治療として考えます。例えば、肺を温める生薬であります麻黄、細辛、乾姜などを含んだ小青竜湯、麻黄附子細辛湯などがアレルギー性鼻炎に有効です。
 「肺」は、大腸と関係が深く、便秘や下痢などの排便の異常と「肺」の関係を考えます。「肺」を治すことにより排便異常を治療したり、逆に、便通をよくすることで「肺」の病変を治したりすることがあります。さらに止咳平喘・化痰作用(鎮咳 痰作用)のある杏仁(アンズの種)という生薬には、潤腸通便作用があり、便秘にも有効です。
 「肺」は「気」を補う重要な役割の一部を担っておりますので、「肺」の異常で疲れやすい、気力が出ないなどの気虚の症状もみられます。また水分代謝は「脾」、つまり消化機能との関連が深く、同時に、「肺」は「脾」の働きに助けられて育つ関係にありますから、食事の節制も大切になります。東洋医学では、これらの病気を治すときに、「肺」と「脾」の両方の機能を高めることで、原因物質があっても平気でいられる体にしようとします。肺気虚(後で詳述します。)に用いられる補中益気湯は、肺にも脾にも働く方剤です。

 「肺」は、「肺為嬌臓、畏寒、畏熱」(=肺は、華奢な臓器で、寒さをこわがり、熱さもこわがる)といわれるように、五臓の中では外邪に一番弱い臓器とされています。さらに他の臓器(腎、脾、肝、心)からもすぐに影響を受けやすい特性があります。

(a)肺気虚
 風邪などにより肺の宣散作用が傷害された場合や脾虚(脾の働きが低下)により肺気が養われない場合に生じます。
〈主 証〉
 疲れやすい、声も小さく、ボソボソとしゃべる。顔色がすぐれず、風を嫌い、寒がりで、すぐ風邪を引いてしまう。
〈治療法〉
 生薬は、人参、黄耆、党参、炙甘草で方剤は、補中益気湯や玉屏風散(黄耆、白朮、防風)、十全大補湯、桂枝加黄耆湯などを用います。

(b)肺陰虚
 肺は、潤(湿り)を好み、燥(乾き)を嫌う性質がありますので、肺気虚が悪化した場合や燥熱(乾燥や熱の外邪)に曝されると、容易に肺の陰(津液)が不足します。陰が不足して陽を抑えることができなくなると、熱(虚熱)を生じ、血痰を生じるようになり、さらに重くなると、午後に発熱するようになります。
〈主 証〉
 乾いた咳をする。痰はあってもその量は少なく、粘っこい。常にノドがカラカラに乾き、声はかすれてしまう。身体はやせている。舌は赤い。
〈治療法〉
 生薬には滋陰作用(潤す作用)のある生地黄、熟地黄、麦門冬、百合・貝母などがあります。方剤としては、百合固金湯や滋陰降火湯、麦門冬湯などを用います。

(a)風寒束肺
 風寒が肺を取り囲み、宣散と粛降する肺気の動きを止めてしまった場合に生じます。
〈主 証〉
 ゼイゼイした咳をしますが、痰は、清く、うすい。時に泡を混じる。悪寒がして発熱します。鼻がつまり、鼻水が出ます。
〈治療法〉
 生薬は、肺を温める、麻黄、蘇葉、細辛、乾姜などを用います。エキス剤は、麻黄附子細辛湯、小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯などを用います。
(b)風熱犯肺
 熱邪のために津液が不足して粘調な黄色の痰を生じます。その結果、肺の粛降作用が障害されて、喘鳴を生じます。
〈主 証〉
 ゼイゼイした咳をしますが、痰は、黄色をして粘っこく、出しにくい、頭痛、発熱して、ノドが痛みます。鼻がつまり鼻水が出ます。
〈治療法〉
 肺熱を取り去る桑葉、黄 、知母、山梔子、石膏、枇杷葉などを用い、エキス剤には石膏を含んだ麻杏甘石湯などを用います。

(c)燥邪犯肺
 燥邪が「肺」を傷め、肺陰(肺の潤い)を損なうため、肺の宣散と粛降がうまくいかなくなり、乾いた咳が出現します。
〈主 証〉
 痰は少なく、粘っこい、痰が出てもすっきりしない、乾いた咳をする。
〈治療法〉
 前述の桑葉、黄 、知母、石膏などの肺熱を取る生薬に、肺陰を補う(肺を潤す)沙参、麦門冬、貝母、阿膠などを用います。方剤は、清燥救肺湯(石膏8g、桑葉6g、党参・麦門冬各5g、麻仁・杏仁・枇杷葉各4g、甘草・阿膠各3g)などを用います。

(d)痰濁阻肺
 肺に痰飲(水毒)が貯留して気道が阻まれて、肺気の宣散が障害され、喘鳴(気道がぜいぜいとした雑音を発する苦しい呼吸)を来した状態を指します。
〈主 証〉
 咳が出て、ゼイゼイするが、痰の量が多く、白色で出しやすい。
〈治療法〉
 二陳湯(半夏、陳皮、茯苓、甘草、生姜)などを用います。

 体が一日の変化、四季の変化を明確に感ずるようにすることです。夏は夏らしく暑い環境で発汗を意識して過ごし、クーラーに一日中、身をゆだねないことです。冬は冬で、衣服で被い、肺の負担を減らすようにし、暖房を利かせすぎないようにします。肺の機能の刺激と保護とをそれぞれ、ふさわしい状況の中で提供することが大事です。


プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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