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【vol.29】辻和之先生の健康コーナー|「腎」について


 「腎」は、成長、発育、生殖に関する働きを生涯にわたって支える重要な臓器で生命力の元になります。すなわち生命力を蓄える臓器と考えられます。

 「腎」は、五行の「水」に属し、色は「黒」、塩辛いに相当した「鹹」という味、「恐」と関係しています。

 「腎」は、西洋医学的には、血液を濾過して尿を作るいわゆる腎臓としての機能も含み、水液を主り、体内の水の動き全体に影響を与えますが、それ以外にも多くの働きを持っています。

 東洋医学の「腎」の調節によって、幼児期から思春期・壮年期への成長や機能の発達が促されます。したがって「腎」は、性機能や排卵・月経などの生殖機能と関係が深いほか、骨の発育や維持、歯・髪などとも深く関わっています。やがて「腎」の勢いの衰えとともに、老年期に移行します。幼児期頃には、髪も少なく歯が生えていないのが、「腎」の充実と共に生えそろってきて、加齢による「腎」の衰えと共にまた抜けてくる現象と一致します。

 骨においても同様で、老年期になると「腎」が衰え、骨粗鬆症になります。背筋や腰の筋肉、下半身の力と関係しているので、老年期になると、「腎」の衰えと共に腰が曲がったり、足腰が弱くなってきます。尿閉、排尿の勢いが悪い、頻尿、夜尿、失禁、などの排泄異常、難聴、耳鳴り、眩暈、白内障、排尿異常や夜間尿なども「腎」の機能と関係します。「腎」の外界との連絡口は、まず耳であり、老人性難聴や耳鳴りも
 「腎」の衰えと関連します。ほかに「二陰」があります。「二陰」とは尿道を含む外性器と肛門の二つの口を指します。

 「腎」は、排尿排便の調節に関係します。すなわち括約筋の収縮作用と関連し、「腎」の漏らさないようにする「腎の固節作用」があります。腎の固泄作用が低下すると、早漏や夢精、夜尿症を呈したり、年と共に尿を我慢しにくくなったり、高齢者の大小便の失禁というのも「腎の固節作用」の低下と捉えることが出来ます。固節作用のある生薬を収斂薬と云い山薬(やまいも)、山茱萸、杜仲、五味子、枸杞子、菟絲子、覆盆子(ラズベリー)などがあります。

 処方としては、金鎖固精丸(炒 藜、 実、蓮鬚、竜骨、牡蛎)があります。

 腎精は、狭義の意味では、生殖に関係する精を指し、不足すると、無月経、子宮発育不全、排卵異常、不妊、無精子症、精子過少症、インポテンツ、早漏、精力減退などの生殖機能異常の症状を呈します。広義の意味では、人体の成長、発育活動を維持する精微物質を意味し、不足すると、知力の減退、骨格の発育異常、耳鳴り、骨粗鬆症、歯が抜ける、白髪、脱毛などが挙げられます。子供では、知能の発育不全などが見られます。生薬には、紫河車(ヒトの胎盤)、鹿角、亀板、杜仲、枸杞子、肉 蓉、鎖陽、熟地黄などがあります。処方としては、左帰丸(熟地黄、山薬、山茱萸、枸杞子、菟絲子、牛膝、鹿角膠、亀板膠)、六味丸などがあり、寒証では、右帰丸(熟地黄、山薬、山茱萸、枸杞子、杜仲、肉桂、附子、菟絲子、鹿角膠、当帰)、八味丸、熱証には、知柏地黄丸などを用います。

 「腎」の陰陽は、体全体の陰陽を左右することが多く、「腎」の異常によって陰陽失調による全身症状も起きます。

 腎陰は、人体の各臓器に滋養作用をする物質で、腎陰が不足して腎陰虚になると、肝、心、肺などの臓器に波及し、肝陰虚から肝陽上亢(肝腎陰虚によって陰が陽を抑えることが出来ず肝陽が亢進する状態で、めまい、目の乾燥、のぼせ、頭痛など)、心陰虚から心火上亢(不眠、夢が多い、動悸など)したり、肺陰虚(空咳など)の状態になります。相対的に腎陽が亢進して、皮膚や唇の乾燥、口渇、熱感、足の火照りなどの熱症状が加わります。さらに煩燥(不安で手足を固定しておけない状態)の症状がみられます。舌は、やせて紅くなり、舌苔がなくなり、きらきら光る「鏡面舌」となります。腎陰虚では、容易に肝血虚(皮膚の乾燥、目の乾き、月経量の減少など)を伴い、腎陰虚の症状に肝血虚の症状が随伴することがあります。日本では、「重要である」という意味で「肝腎である」「肝腎要」という言葉が使われています。

 これは、肝と腎が互いに密接な関係にあり、どちらも人体の臓器の中で重要な役割を果たしていることから派生して、このような用語が用いられてきたものと思われます。生薬としては、山茱萸、桑寄生、枸杞子、亀板、鹿茸などを用い、方剤としては、六味丸、知柏地黄丸を用います。

腎陽は、各臓器の生理活動を推し進める作用を指し、腎陽が不足する腎陽虚では、肺が腎陽の推し進める活力を失い、肺自体の機能も弱くなり、息切れ、呼吸困難を生じます。この状態は、腎が気を収めることが出来ない【腎の不納気】の状態です。脾の機能も低下(脾気虚)し、元気が無くなります。心が腎陽の活力を受けられないと、心陽虚の症状として胸苦しい、等の症状を呈します。腎自体が腎陽不足になると、早漏、インポテンツや腰に力が入らないなどの症状を呈します。腎陽のパワーダウンにより津液の動きも悪くなり、浮腫を生じます。腎陽の不足は、寒証の症状を呈し、寒がる、手足が冷える、多尿、頻尿、夜間尿などの症状がみられます。生薬としては、附子、肉桂、淫羊 (イカリ草)、杜仲、冬虫夏草(昆虫の幼虫体内に寄生するキノコの一種で、冬に虫体の養分を吸収し、幼虫を枯死させて、夏に虫体の頭部から棒状の菌核を形成し、草になることから、名付けられ、病後の衰弱を改善し、抵抗力を強める作用があります。)などがあります。方剤としては、八味丸、牛車腎気丸などがあります。このように「腎」の異常では、加齢によってみられる変化と関連した症状が多くみられます。腎陽は、真陽とも言われるように、他の臓腑の陽気に影響を与えています。すなわち腎陽の不足では、脾の陽虚、肺の陽虚、心の陽虚を引き起こし、腎陽は、他の臓腑の働きに影響を与えます。また逆に脾、肺、心の陽虚が長引けば、腎陽虚を引き起こします。

 「腎」は、「先天の本」として、生命力の根源と深く関わりますので、喘息をはじめとした多くの慢性病や自己免疫性疾患はじめとした多くの難病の中で、「腎」の関わりを考慮して治療を進める場合が多くあります。「腎」を温存するためには、睡眠不足、過労や精神の酷使など、体に苛酷な状況を作らないことが重要です。


プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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