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【vol.32】辻和之先生の健康コーナー|アトピー性皮膚炎の漢方治療


 前号まではアトピー性皮膚炎の概要と日常生活の対処方法について説明してきましたが、今回は漢方治療についてお話ししたいと思います。

 西洋医学のアトピー性皮膚炎の治療は、ステロイド療法で代表されるように、免疫を抑制するという抑え込む治療が基本であります。一方、アトピー性皮膚炎の漢方治療は、本人の自然治癒率を高める治療をします。

 皮膚は、体の中で一番表層の位置にあり、五臓(肝、心、脾、肺、腎)のうち、肺の領域に属しています。

 アトピー性皮膚炎の本治的治療(病態の本質を見極めて治療をする)は、基本的には、皮膚の気・血・津液の巡りを良くすることにあります。図1のように、特に㈰体の深層から表層(腎↓脾↓肝↓肺)へと正気(元気を盛んにさせる陽気)を導くことが重要となります。(外向きのベクトル)㈪さらに体の表層から深層に正気を降ろすようにする必要があります。(内向きのベクトル)

 まず本治を行ってから、標証の対応=標治(表に現れた症状の状態を把握して治療する)を行います。

 腎気(腎の機能活動)や脾気(脾の機能=栄養を全身に行き渡らせたり、気を持ち上げる機能)によって充実した正気を表層の皮膚まで運び、衛気(体表を保護し、外邪の侵入を防衛する気)を充実させて、さらに皮膚への栄養と潤いを供給するために、血や津液も伴いながら表層の皮膚まで届ける必要があります。
● その主薬には、気・血・津液の全てを 運搬する麻黄が挙げられます。
● 同様の外向きベクトルを持った生薬 には、黄耆、桔梗、升麻、桑葉などが あります。
● 黄耆には、強力に衛気を増強する 作用があり、身体の抵抗力、回復力、 免疫機能などを高め、血行促進・肉 芽形成促進作用を有します。
● 外向きの生薬同士の麻黄と黄耆の 併用がより効果的です。
● 活血薬(血 〈血の巡りの悪い状態〉 を改善する薬)で陰血を表層に導 くのには、川 があります。

 但し、㈰腎(腎陽〈腎の陽気=臓腑の働きを促進させたり、温めたりする〉によって脾や肝などの他の臓腑の働きを促進させる作用)・㈪脾(升堤作用=内から外に引き上げる作用)・㈫肝(発揚作用=気の巡りを促進させる作用)の機能が低下していては、外向きベクトルの生薬を用いても機能しにくくなります。腎陽虚や脾気虚あるいは肝鬱気滞では、それらの対応を十分に行う必要があります。例えば、
● 腎陽虚証(腎陽不足)には、生薬で は、附子、細辛、桂皮など、エキス剤 では、八味地黄丸など
● 脾気虚では、白朮、茯苓、人参など、 エキス剤は、補中益気湯)、四君子湯 などの健脾剤(脾を助ける薬)
● 肝鬱気滞(肝の疎泄機能が低下し て気の巡りが悪くなった状態)では、 四逆散、加味逍遙散、大柴胡湯な どの柴胡剤などを用いる必要があ ります。

 皮膚が属する肺の領域の失調を改善させるには、㈰深層から表層までの巡りを良くするばかりではなく、㈪粛降(下方向、内方向に向かわせる)を助けることによって、気・血・津液を円滑に内向きに降ろすことも重要です。
● 表層の気や邪熱を引き下ろすには、 石膏、枳実、杏仁、縮砂
● 気と共に湿邪を引き下ろすには、  芍薬、蒼朮、木通、桑白皮、陳皮、半 夏、車前子など
● 熱を帯びた表層の湿濁(湿の過剰 状態で陽気の活動を阻害する病態) を引き下ろすには、山梔子、滑石
● 活血が必要なときは、下降性の大 黄、牛膝
● 津液の巡りを良くするには、茯苓
● 中焦の巡りを良くするには、白朮な どがあります。

 表1のように、麻黄剤は葛根湯から麻黄附子細辛湯など病態によって使い分けます。
 黄耆剤は、黄耆建中湯を比較的多く用います。
 表2のように、皮膚の症状を見て、その証候への対応をします。
● 発赤であれば、熱の状態と考え、冷 やす効果のある清熱剤の黄連解毒 湯など
● 白っぽい皮膚には、血を増やす養血 の当帰芍薬散など
● 暗赤色、紫色では、血の巡りを良く する活血をする桂枝茯苓丸など
● 乾燥、落屑には、潤す効果の滋陰の 当帰飲子など
● 角化、亀裂には、養血活血の温清飲 など
● 掻痒が強い場合、風邪を取り去る、  風剤として消風散、荊芥連翹湯、 荊防敗毒散などを用います。

 私の15年前頃の経験談ですが、アトピー性皮膚炎で肘窩(肘の内側)の発赤を伴った方に、標治的治療の黄連解毒湯から処方しましたが、改善しませんでした。発赤して熱があるタイプに拘わらず、標治的には逆である、温める処方の麻黄附子細辛湯を投与して改善した例がありました。この方は、腎陽虚の方で、附子で腎陽を補い、麻黄や細辛で外向きのベクトルを強化したことが功を奏したケースです。標治的に皮膚の状態だけにとらわれずに、まず皮膚への巡りを十分に考慮しつつ、体質を吟味してから、標治的治療を行うことが重要です。


プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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