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【vol.30】こころとからだの健康タイム|ゲスト 幕内 秀夫 さん


 百万部を超えるベストセラー「粗食のすすめ」の著者としても知られる幕内秀夫先生は、管理栄養士として病院や企業など、常に第一線の現場で「食と健康」の指導にあたっています。
 「学校給食と子供の健康を考える会」の代表としてもご活躍されている幕内秀夫先生に「食と健康」についてお話しを伺いました。

鳴海周平(以下 鳴海) 「粗食のすすめ」や「体によい食事 ダメな食事」など、幕内先生の御著書はいずれもベストセラーとなっています。先生の豊富な経験から得られた食生活の提案は本当にわかりやすく、とても良く理解出来ますし、具体的な提案をしてくれているところが本当にありがたいですね。

幕内秀夫先生(以下 幕内) ありがとうございます。私はずっと現場で食事指導に携わっているので、机上の空論のような理想を申し上げることが出来ないんですね。皆さんそれぞれの家庭環境や職場環境がある中で、いかに健康的な食生活に近づけていくことが出来るか、ということを提案するのが私の仕事ですから、「健康的な食生活」を「実践しやすい段階まで落とし込んで提案する」という考えが、すべての本のベースになっています。

食生活の問題点

幕内 私は医療機関での食事指導も行なっていますが、こうしたところで日々患者さんと接していて気付いたことは「食生活の問題は予防にこそ意味がある」ということです。そこで日々感じている食生活への提案を、本という形にまとめて皆さんにご紹介しています。

鳴海 幕内先生の御著書に共通している「粗食」というキーワードは、ある長寿村の取材に行ったことがきっかけだったと伺っています。
幕内 私はもともと専門学校で栄養学を教えていたのですが、ある日の新聞に「ほろびゆく長寿村」という記事を載っているのを見て、とても興味が沸いたんです。そこで早速その村に行ってみたんですが、70、80歳の人が元気で働いているのに、40、50歳の人たちが病気になってしまう、というとてもショッキングな現実がありました。原因をいろいろと調査した結果、元気な高齢者と病気がちな中年の明らかな違いは「食べもの」でした。高齢者は若い頃から雑穀や芋類を主食に、野菜や山菜などを副食にしてきたのに対して、中年の人たちは、白米一辺倒で、パン、肉、乳製品など欧米型の食生活に子供の頃から慣れ親しんできていたのです。戦後の栄養教育を受けてきた私は、とても大きなショックを受けました。今まで教えてきた「栄養学」は、いったい何だったんだろう?、って。
 日本は世界一の長寿国ですが、100歳以上の元気なお年寄りが、身体をつくり上げる若い頃に食べてきたものは、雑穀や芋類、野菜や山菜だったわけです。そこで私はひとつの仮説を立てました。「肉類中心のおかずをたくさん食べる現代の食生活より、米を中心とした従来の食生活(粗食)の方が、日本人の体質に合っているのではないか」そして「日本人が今直面している健康問題は、風土に合わないものを日常的に食べるようになった事が原因ではないか」というものです。

鳴海 日本は気候や降水量など、米を生産するのに良い条件が整っています。逆にヨーロッパは降水量が少なく、植物が育ちにくい風土のようですね。だから穀物を主食にすることが出来ずに、肉や乳製品を多く摂取するようになったのでしょう。長い間、その土地で根付いてきた食文化には意味があるわけですから、戦後の日本のように急激な食の欧米化が進んでしまうと、弊害が出てきて当たり前、ということになりますね。

幕内 まさに「風土はフード(FOOD)」だと思いますよ。日本はずっと稲作の文化を受け継いできているわけですから、食の欧米化に伴って「米を食べなくなったこと」が、もっとも大きな問題だと思います。一人あたりのご飯の消費量は大正の頃と比べると約半分にまで減っています。米は昔からずっと日本人の主食ですから、こうした変化は食生活の根本を揺るがすたいへんなことだと思います。日本では昔から、食事の支度が出来て、お母さんが家族を呼ぶ時も「ご飯ですよー」と言いますからね。(笑)

鳴海 確かに「パンですよ」とか「パスタですよ」とは、言わないですね。(笑)またご飯と共に食卓に上がってきた味噌汁や納豆、漬物といった発酵食品も、長寿の皆さんの健康の基になっているように思うのですが、いかがでしょうか?

幕内 大豆は「畑の肉」といわれるくらい、タンパク質が豊富な食べものですが、消化吸収があまり良くないんです。そこで、発酵という技術を用いて消化吸収を良くしたものが味噌であり、醤油であり、納豆です。昔の人たちの智恵には本当に感心させられますね。

食生活改善7か条

幕内 食生活というのは、家を建てるのとよく似ています。大事なのは、土台の部分なんですね。ここがしっかりしていないと、本当に健康な身体はつくれません。私は食生活を見直すための7か条というのを提唱していますが、わかりやすいように、優先順位をつけて土台側から提案をしています。
 先ず1つめは「1日に2回はご飯を食べること」です。
 現代の食生活における一番の問題点は、砂糖と油脂類のとり過ぎです。食の欧米化により、ご飯以外の主食(パンやパスタなど)が増えたことで、砂糖と油脂類をとる機会がぐっと増えてしまいました。主食は文字通り「主な食事」ですから、砂糖や油脂類が使われていない「ご飯」を食べることがとても大切です。

鳴海 主食がご飯の時と、パンの時では、副食(おかず)も違ってきますね。ご飯には味噌汁や納豆、海苔、漬物などがよく合いますが、パンだとバターやマーガリン、ジャムを塗って、ハムエッグやベーコンなどがつきます。サラダにかけるドレッシングのことも考えると、どちらを主食にするかによってたいへんな差が出来てしまいますね。

幕内 ご飯のおかずには、焼き魚やお浸し、漬物などのように、素材にあまり手を加えていないものが多いですね。添加物という面から見ても、身体に良い食事となるわけです。
 2つめは「飲み物で熱量(カロリー)をとらないこと」です。
 清涼飲料水やスポーツドリンクを飲むと、一時的にお腹がいっぱいになった感じがするでしょう。これはこうした飲み物に熱量(カロリー)が含まれているからです。また咀嚼して食べる固形の食べものに比べて体内における吸収が速いので、それを処理するためのインシュリンをその都度大量に浪費することになります。これは糖尿病の原因にもなりかねません。
 水分を補給する時は、熱量(カロリー)のない水かお茶がいいでしょう。

鳴海 人間の臓器に無駄なものはひとつもない、と言われています。「歯がある」ということは「咀嚼する」という行為が、自然の摂理にかなっている、ということなのでしょうね。

幕内 「良く噛む」ことで、腹八分目も比較的実行しやすくなります。ひと口20回以上は噛むようにしたいですね。
 3つめは「夕食は8時までに食べる」ということです。
 夕方に食べるから夕食であって、8時過ぎたら夜食ですよ。(笑)身体のつくりからみても8時以降の食事は肥満の基になります。仕事柄難しい人は、主食(でんぷん)だけでも8時前に食べて、夜食は軽めにするといいですね。
 4つめは「外食は上手に選ぶ」です。
 たまに食べるくらいなら、好きなものを食べてもいいのですが、毎日外食という場合には工夫が必要でしょう。パスタ、ラーメン、ピザなどの「カタカナ主食」は出来るだけ避けて、ご飯、そば、うどん、すしなどの「ひらがな主食(和食)」を心がけるようにするといいですね。

心には「一服」が必要

幕内 5つめは「間食は食事に影響しない程度に」ということです。
 大人はストレスを解消するために「心に一服」が必要です。ここがまた難しいところなのですが、どうやら「心は身体に悪いものが好き」らしいのです。(笑)「酒・タバコ・甘いもの」私はこれを心の3大栄養素とよんでいます。皆さんきっとどれかでストレスを解消しているのではないでしょうか。この3つのどれにも当てはまらない、という人は買い物かギャンブル、もしくは異性でしょう。(笑)3大栄養素は、どれも過ぎると病院に近付きますが、後の2つは過ぎると裁判所に近付きますので注意が必要です。(笑)

鳴海 私は甘いものが好きですね。お酒は少々、タバコは吸いません。3大栄養素に当てはまっていて良かったです。(笑)
幕内 私はタバコとお酒です。お互い良かったですね。(笑)精神的なリラックスというのは、ある程度必要だと思うんですよ。算数では「1+1=2」という正解しかありませんが、人間の身体に関しては「1+1」が10になったり、マイナス8になったりもするのではないでしょうか。食生活や環境、風土などと共に、精神的な作用も大きな影響を与えていると思います。
 6つめは「副食には旬のものを食べよう」ということです。
 旬のものは、自然界でもっともエネルギーが高まっている状態です。これを新鮮なまま食することで、私たちのエネルギーも高まります。旬がわかりづらくなっている時代だからこそ、大切にしたいことですね。

鳴海 「身土不二(しんとふじ)」といって、身体と住んでいる土地は分けて考えることが出来ない、一体である、という考え方が昔からありますね。季節ごとに気候や環境が変化し、それに伴って服装も着替えていかなくてはなりません。その土地にある「旬のもの」を食べることで、身体の中も上手に着替えが出来るのでしょうね。

幕内 仰るとおり「その土地のものを食べること」も私たちのエネルギーを高めてくれます。「旬のものを食べること」と一緒に心がけたいですね。
 春にとれる山菜は、アクが強いので生で食べられるものは多くありませんが、夏はきゅうりやトマト、すいかなど、生で食べられるものが美味しいですね。汗をかく季節なので水分が多いものが多くなります。秋には米や麦、いも類など冬に備えてエネルギーを蓄えておくようなものが多いですね。冬にはれんこんやごぼう、大根など根のものが多くなります。火を通して食べる食材が多いのも寒い冬を乗り越えるためでしょう。自然は実に上手く出来ているものだと思います。
 最後の7つめは「動物性食品は魚介類を中心に」ということです。
 戦後の栄養教育は「タンパク質が足りないよ」というスローガンのもとで、肉や牛乳、乳製品の消費を増やしてきました。でも、もともと日本人は、豆類と少々の魚介類で充分なタンパク質を摂取してきたのです。
 私は、肉はまったく食べなくても何の問題もないと思っています。どうしても食べたい人は、安全な飼料を与えられて育った、安心できるものを食べてほしいと思います。というのも、餌となる飼料や育てられている環境などが原因で、肉の安全性がとても低くなっているからです。もちろん安心できるものは値段が高くなりますが、肉類に関して言えば「高いからたまに食べる程度」で良いのではないでしょうか。
 こうした安全性という観点からみても、動物性のタンパク質をとるのであれば、断然魚介類をおすすめします。選び方は簡単で、野菜と同じく旬のものを選ぶと良いのです。旬のものは基本的にその時期たくさんとれますから、経済的にも優しい、という嬉しい効果もあります。(笑)

鳴海 「食生活改善7か条」は、具体的で、とてもわかりやすい内容ですね。しかも優先順位の高いほうから並べて頂いているので、迷うことなく行動に移せそうです。

心が身体に及ぼす影響

鳴海 幕内先生から以前お伺いして、とても興味深く思ったのは「健康のために3日間断食をすると健康になるが、災害などで3日間食べられない状態が続くと衰弱してしまう」というお話です。「食べていない」という状況は同じなのに「あえて食べない」というのと、「食べたくても食べられない」というのでは、身体に及ぼす影響が違ってくる、ということでしょうか?

幕内 その時の精神状態によっては、食べものの身体への吸収率とか、及ぼす影響などが変わる可能性は充分考えられると思います。「不食」といって、何年も食べずに元気で暮らしている人もいるくらいですから、精神が肉体を凌駕してしまうことはあるでしょうね。例えば「大勢で食べた方が美味しく感じる」という人は、きっと楽しく食べることで栄養の吸収率も変わってくるでしょう。

鳴海 そう考えると「何を食べるか」ということと共に「どんな環境で食べるか」とか「誰と食べるか」ということも、健康のための大切な要件かもしれませんね。

幕内 それはとても大切なことだと思います。
 また精神が肉体に大きく作用するように、肉体も精神状態を左右すると思うんですね。普通に社会生活を営みながら、食べものの影響をまったく受けないほど、精神状態を崇高な状態に維持し続けることは、今の時代なかなか難しいと思いますが、食べものや生活習慣に注意して身体を健康な状態に保つことは、それほど難しいことではないでしょう。毎日の食生活を見直すことで肉体を健康にし、精神にも良い影響を及ぼすことが、私たちにとって「心身共に健康な生活」への早道のように思いますね。
 私は「戻れる場所のある食事」というのがとても大事だと思うんです。生涯に亘って影響を及ぼす食の基本は「つ」がつく年齢までで決まる、と言われています。「ひとつ」から始まって「ここのつ」まで。9歳までということですね。子供の頃母親が作ってくれたおにぎりや惣菜の味は、ずっと「おふくろの味」として味覚と心が覚えています。何か辛いことがあっても、その料理を食べると懐かしい感じがして安心出来る、という食事。日本にはもともとそうした素敵な食文化が、地域ごとに伝えられているんです。「欧米の食生活が理想」という戦後の栄養教育から、もう一度原点に返って、日本の伝統的な食生活の智恵を見直す時期に来ているのではないでしょうか。

鳴海 日本の伝統的な食生活には、親から子へと何代にも亘って受け継がれてきた智恵が凝縮されているんですね。
 今日の先生のお話から「食」という生きるための基本を、改めて考える機会を与えていただきました。
 今日はたいへん貴重なお話をどうもありがとうございました。

幕内 秀夫・プロフィール

1953年茨城県生まれ
東京農業大学栄養学科卒業。管理栄養士。
フーズ&ヘルス研究所代表、学校給食と子どもの健康を考える会代表
山梨県の長寿村を知って以来、伝統食と民間食養法の研究をおこなう。
日本列島を歩いての縦断や横断、また四国横断、能登半島一周などを重ねた末に「FO
ODは風土」を提唱。
現在、帯津三敬病院、松柏堂(しょうはくどう)医院などにおいて食事相談を担当。
保育園、幼稚園の給食改善、社員食堂の指導、プロスポーツ選手の食事指導などをおこなう。
著書に「粗食のすすめ」(東洋経済新報社、新潮文庫)、「病気にならない食べ方」(主婦の友社)などその他多数。

フーズ&ヘルス研究所ホームページ http://www8.ocn.ne.jp/~f-and-h/

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