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【vol.62】こころとからだの健幸タイム|ゲスト 帯津 良一 さん~後編~


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 医学博士の帯津良一先生とエヌ・ピュア代表・鳴海周平の共著『死ぬまでボケない1分間〝脳活〞法』。ホリスティック医学の第一人者である帯津良一先生は、同著の中で「脳活のコツは、3つにまとめることができる」と述べています。

 ① からだを動かすこと
 ② 食生活に気をつけること
 ③ 心にいつもときめきを持つこと

 後編の今回は、③「心にいつもときめきを持つこと」について、同著より抜粋して紹介します。
 

心が調う朝の習慣

鳴海周平(以下、鳴海)
 認知症の予防には、生活のリズム、生活の原点をつくるといい、とよく聴きます。

帯津良一先生(以下、帯津)
 そうですね。基本的に、脳は新しい体験や変化を喜びますが、毎日の生活リズムだけはなるべく変えない方がよいようです。そのためには、朝と夜の行動を、生活の原点として位置付けたらいいでしょう。私はここ数年、朝2時半に起きています。夜寝るのはだいたい22時頃。毎日18時30分からの晩酌だけは、絶対にずらせないので(笑)、仕事が増えると朝早く起きてやるしかない。だんだん早くなって、2時半になってしまったというわけです。

鳴海 帯津先生は、週末でもリズムがほぼ一定ですよね。日によって起床時間に3時間以上のズレがあると睡眠の質に影響が出る、という説もありますから、なるべく生活のリズムは一定にしておきたいものです。

帯津 ズレが大きいと、軽い時差ボケのようになるのでしょうね。私たちのからだには、サーカディアンリズムというのがあって、起床から14〜16 時間後には眠くなるようにできているんです。特に、太陽の光を浴びることで、このリズムがバッチリ調う。海外の旅行先で時差ボケになっている時、太陽の光を浴びることで容易に現地のリズムと同調できるのも、太陽光の効果でしょう。

鳴海 「お日様セラピー」を提唱している有田秀穂先生によると、太陽光を浴びることで分泌されるセロトニンという脳内物質が、心身の健康にとても有効なのだそうです。

帯津 ルクスの強さから言っても、理想は朝日でしょうね。陽明学の安岡正篤さんの言葉に「日の出とともに起きて庭の花に水をやる」というのがあって、「ああ、いいなぁ」と思います。芸術家の岡本太郎さんも、日の出に向かって「芸術は爆発だ」と叫んでいたそうですから、お二人とも朝日の恩恵を充分に実感していたのではないでしょうか。うつ病を発症した人は認知症のリスクが高まる、というデータがありますが、セロトニンには、こうしたリスクを抑えてくれる効果もあります。朝起きたらまず朝日を浴びる、という習慣は、生活のリズム、原点をつくるうえでもお勧めですね。

鳴海 サーカディアンリズムで起床後14〜16時間で眠くなる、というのも、睡眠の質が高まることで認知症の予防につながりそうです。

帯津 睡眠と認知症の関係は、様々な研究でも明らかになっています。寝ている間に、脳のメンテナンスがおこなわれていることは周知の事実ですが、近年になって、認知症の原因物質とも言われているアミロイドベータなどの有害物質が、質のよい睡眠で解消される、ということもわかってきたんです。日中に眠くなることがあったら、脳が望んでいるのだから、短い昼寝もいいでしょう。

鳴海 セロトニン効果は万能ですね。起床と就寝を原点に、生活リズムを保ったうえで、新しい体験などを楽しむ。これが、脳を健康に保つ秘訣ということになりますか。

帯津 はい、生活の原点さえ決まっていたら、あとはもうどんどん冒険したらいいんです。「楽しい」と思える趣味があったらそれに没頭したらいいし、音楽や映画、読書でも、関心のなかった分野のものを、あえて体験してみるのもいい。特に旅は、プランを考えるところから始まって、旅先では未知の光景や食べものを体験するでしょう。思わぬハプニングが起きた時などは、脳がとても刺激を受けます。帰宅後も、撮ってきた写真をみて追体験ができる。じつに、一石三鳥以上の健脳効果が旅にはあります。

鳴海 出かけることは、身なりにも氣を遣いますしね。「おしゃれな人には認知症が少ない」ということも、よく言われていることです。

帯津 おしゃれは、誰かにみられることを前提にしています。自分以外の誰かの存在を意識した時も、脳はとても刺激されるんです。朝の習慣に、おしゃれもぜひ加えて欲しいですね。
 
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耳と口を使う

鳴海 耳は、東洋医学の腎に属していて、年齢による変化がもっともあらわれやすいところ。口は、脳とからだの各所との関係を示す「ホムンクルスの図」(次ページに掲載)で、脳との関係がとても深いところです。この2つの器官に、健脳、ボケ防止のヒントがあるように思いますが、いかがでしょうか?
 
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帯津 耳と口を使うこと、すなわち「会話」ですね。コミュニケーションによって、人間は脳を発達させてきたわけですから、これは大いに脳を刺激する行為でしょう。昔から「言霊」と言って、言葉には力があると考えられてきました。『万葉集』に「言霊の幸ふ国」という言葉が出てきます。これは、言霊の霊妙なる働きによって幸福をもたらす国、という意味で、我が国のことです。言葉は生命力の発露そのものですから、美しい言葉を発するためには、高い生命力を維持していなければならない。美しい言葉の応酬は、お互いの生命力を高め、共有する場のエネルギーも高まる、という好循環を発生させますから、美しい言霊によって成り立つ「会話」には、とてつもない健脳効果があるでしょう。

鳴海 「王」という漢字の上に「耳」と「口」が乗ると「聖」という字になります。これは、権力者を示す王様よりも、耳と口を使った会話、言霊の方が大切だ、ということを示しているのかもしれませんね。

帯津 なるほど、先人たちは本当に大切なことを、上手に伝えてくれていますね。発した言葉は、そのまま観念となって、自律神経系や免疫系へ作用することも充分に考えられます。一つの口から、二つある耳へ入り込むわけですから、発した言霊は2倍の威力になって返ってくる、と言ってもいいのかもしれません。「口癖」は、とても大切ですね。

鳴海 1 0 0 歳以上の日本人200人を撮影したという写真家の方によると、百寿者の多くは「今が一番幸せ」と口癖のように言って笑っていたそうです。日頃、発している言葉が2倍の威力になって、どんどん脳にインプットされていくのであれば、健脳のためにも、よい言葉、美しい言葉を使うことは、とても大切なのだと思います。

帯津 目から入り込む文字情報も、例えば、加齢ではなく「華麗」にするとか、高齢者を「好齢者」にするとか(笑)。認知症の予防によいと言われる音読も、なるべく言葉を選んで読み上げたらいいですね。音読は、口と耳を使いますから、健脳にとても役立ちますよ。

身の周りを調える

鳴海 「思考の整理は物の整理にあらわれる」と言われます。実際に、物忘れをするようになった人が、医師の勧めで、身の周りの整理整頓をするようになったところ、症状が改善したという例がいくつもあるそうです。

帯津 思考の状態が環境に反映されることは、充分に考えられるでしょうね。脳の中は、そのはたらきによって担当があり、お互いに緻密なネットワークをつくっています。よく言う「要領のいい人」は、この脳内ネットワークの連携がいいのでしょう。そういう人は、身の周りが多少乱雑な状態でも、他の部分がカバーしますから、思考にもさほどの影響はないかもしれません。ただ、おそらくそういった人は少数派でしょうし、要領のあまりよくない人が整理整頓をきちんとすることで、脳内ネットワークが調い、要領のいい人と同じようなパフォーマンスを発揮できる可能性も高まると思います。もちろん、認知症の予防にもなるでしょうね。

鳴海 整理整頓をすると、脳内ネットワークが調う、というのは嬉しい効果ですね。昔から「心身一如」というように、思考(心)と行動(からだ)は、お互いに影響し合っていて、それはまた身を置いている環境とも、密接につながっているのでしょう。

帯津 能の世阿弥の言葉に「音曲は体なり、風情は用なり」というのがあります。現象としてあらわれている風情は、本質的な実体の音曲から出ている。だから、よい感じ(風情)を出すためには、元の形(体)を調えることが大事だ、というんですね。これは、身の周りを整理整頓することが、思考の整理や脳の健康状態に影響することにも通じます。「能は脳に通じていた」ということですね(笑)。

情報はアウトプット(出力)する

鳴海 帯津先生が原稿を執筆するスピードには、いつも驚かされます。毎日、患者さんの診察をして、週末には講演会の予定がびっちり。そうしたスケジュールの中で、1年間に10冊もの本を書き上げる。特に、ここ数年は「月刊 帯津」と呼ばれているとか(笑)。

帯津 ありがたいことに、原稿の依頼はひっきりなしです。毎朝2時30分に起きて、3時30分には病院に着いていますから、そこから診察前におこなう氣功までの数時間が、執筆タイムになります。脳は、使っている箇所がどんどん鍛えられて、成長していきます。だから、原稿も書けば書くほど早くなる。週末は、朝からビールを飲みますから、余計にはかどります(笑)。入力した情報は、出力することで、脳全体をバランスよく使うことにもつながります。私はつけたことがありませんが、日記をつける、ということも、同じく文章を書く行為ですから、脳にはとてもよい刺激になるでしょう。

鳴海 日記を書くことが脳によい、というのは、よく言われるところですね。これは、起こった出来事を想い出す、という「記憶をたどる作業」と、文章を書くという、それを「出力する作業」との、相乗効果のようなものなのでしょうか。

帯津 脳の中の役割分担として、情報を記憶するなどの「入力系」は、側頭葉や頭頂葉に関係し、そうした記憶を引き出す「出力系」は、前頭葉に関係しています。前頭葉は、創造性や自発性、感情などにも関わるところですが、年齢とともに、だんだん使われる頻度が少なくなってきます。よく「人は感情から老いる」と言われますが、これは、前頭葉を使う機会が少なくなる、ということでもあるんです。文章を書く、という行為は「出力系」なので、その前頭葉が活性化する。年とともに衰えがちな、脳の「出力系」を鍛えて「入力系」とのバランスをとる、というところに、健脳効果の理由があるのだと思います。

鳴海 そう言えば、「最近、よく物忘れをするようになった」という、あるシステムエンジニアの方が、お医者さんからの勧めで、万歩計とカメラを持って歩くようになったところ、物忘れの頻度が激減したのだそうです。これは、「歩く」という運動効果とともに、「何か面白いものがあったら、カメラで撮ってみよう」という「出力を意識した行動」の効果があったのかもしれませんね。

帯津 脳は、自分のことよりも、自分以外の人のことを考えている時に活性化する、という特徴があるようです。相手の立場になっている時、脳、特に前頭葉はとても活性化しています。「出力する」ということは、それを受け取る相手を想像した行為です。出力を前提として入力する、という循環が繰り返されることで、脳はどんどん活性化するでしょう。

鳴海 物事を習得するには、誰かに教える前提で覚えると早い、というのも、脳の中で「出力系」と「入力系」がバランスよく活性化しているからなのでしょうね。

帯津 まったくそのとおりだと思います。それと、先ほどのお話で、カメラを持って歩くといい、というのがありましたね。これは、周りをよくみて歩くようになる、という効果もあるでしょう。第1章で「認知症の患者さんは、目をあまり動かさない」という話をしましたが、これは、目を動かしていると認知症になりにくい、ということでもあります。シャッターチャンスを探してキョロキョロして歩くのは、脳にもよい刺激になるでしょうね。

鳴海 特に、それまで写真に興味がなかったような人だと、新しい体験をすることになるので、さらに脳が喜びそうです。

帯津 脳は、新しいもの好きですからね。だから、せっかく文章を書くのであれば、短歌や俳句などに挑戦してみるのもいいかもしれません。限られた文字数の中で、これまで入力してきた情報から、適切な語句を厳選して組み合わせる。出力系も鍛えられるし、今まで詠んだことのない人であれば、脳が喜ぶ初体験の刺激も得られるでしょう。

鳴海 その日の出来事を、毎日1句にまとめていたら、日記代わりにもなりますね。
 
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心穏やかな時間をつくる

鳴海 ボーッとしている時こそ、脳が大量のエネルギーを消費している、というデータがあるようです。この状態は、MRI(機能的磁気共鳴画像装置)にも映し出されていて、ボーッとしている時の脳が、意識的に何かをしている時に比べて、15倍ものエネルギーを使っていたことがわかったのだそうです。「何もしていない時」は、脳にとって大切な時間だった、ということですね。

帯津 脳科学で言う「安静時の脳活動」ですね。私も、仕事中に「少し疲れたなぁ」と思った時は、自分の机に足を乗せて、そのまましばらくボーッとするんです。時には5分ほど眠ってしまうこともありますが、その後はスカッとした氣分で、また仕事にとりかかることができます。瞑想が認知症の予防によい、というのも「安静時の脳活動」効果でしょう。

鳴海 ユダヤ系の人にノーベル賞受賞者が多いのは、こうした脳の仕組みを日常に取り入れているからではないか、という説があります。『頭の体操』で知られる多湖輝先生は、ユダヤ人の「休息日」に現地を訪問したことがあるそうです。ホテルは「エレベーターのボタンを押すことも仕事だから」という理由で、すべて各階止まりに設定されており、扉が自然に開くのを待つしかない。ユダヤ人の家を訪ねた時も、「いいところへ来てくれました。ちょっとこのスイッチを押してくれませんか」と、休息日に入る前にうっかり入れ忘れたスイッチのボタンを押すように頼まれたとか。こうした習慣に触れて「頭をまったく空にする時間を持つこと」が、脳にいかに大切なのかを実感した、とご自身の著書で述べています。

帯津 それは、徹底していますね。頭を空にする時間、ボーッとする時間を意識的に持つことの大切さが、よくわかるお話です。こうした習慣を持つことは、うつ病の予防にもよいことがわかっています。うつ病は、認知症のリスクを高めますから、日頃から予防する策を講じておくことは、脳の健康を保つうえでも大事なことでしょう。

鳴海 うつ病の人は、姿勢にもその兆候があらわれると言いますね。その名のとおり「うつむく」ことが、多くなるのだそうです。行動は心に作用する、という原理から考えると、うつむくのと逆の行動、つまり、見上げるような姿勢をとることも、予防策になるのではないでしょうか。

帯津 それは、とてもシンプルでいいですね。まさしく、心は行動からもアプローチできますから、見上げるような姿勢を、ふだんから意識して取り入れるのも、うつ病の予防策として有効かと思います。他にも、自分なりの「心を穏やかに保つ習慣」のようなものを持つことは、脳の健康にも大切なことでしょうね。江戸時代に山口素堂が詠んだ「目に青葉、山ほととぎす、初鰹」という俳句がありますが、私にとっては「目に青葉、朝の氣功に、夜の酒」が、何より心が穏やかになる習慣です。嫌なことは水に流す、と言いますが、私の場合は、酒に流して終わりですね(笑)。
 
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参考文献
「死ぬまでボケない 1分間“脳活”法」帯津良一・鳴海周平著(ワニ・プラス)
 

 

帯津 良一

日本ホリスティック医学協会名誉会長。
日本ホメオパシー医学会理事長。
1961年、東京大学医学部卒業。
東京大学医学部第三外科、都立駒込病院外科医長を経て、
1982年、帯津三敬病院を開院、現在は名誉院長。
西洋医学に中医学やホメオパシーなどの代替医療を取り入れ、
ホリスティック医学の確立を目指している。
『健康問答』(五木寛之氏との共著 平凡社)ほか著書多数。
 

 

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