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【vol.79】こころとからだの健幸タイム|ゲスト 吉川 竜実さん 後編


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 日本人の心のふるさと「お伊勢さん」として親しまれてきた伊勢神宮。その2000年という長い歴史と文化を総合的に展示する神宮徴古館・農業館の館長を勤め、せんぐう館館長でもある伊勢神宮・禰宜の吉川竜実さんに、伊勢神宮の歴史や魅力、神道の持つ宇宙観や人間観などについてお話を伺いました。
 
 

「神道」は宗教ではない?

 

鳴海周平(以下、鳴海)
 吉川さんのお話を伺うたびに感じるのは、神道の「ゆるさ」というか、自由さのようなものです。僕は、ゆるいのが大好きなので(笑)とてもシンパシーを感じてしまいます。

吉川竜実さん(以下、吉川)
 私もゆるいのは大好きです(笑)
 30年以上も伊勢神宮にお仕えしてきて思うのは「神道は自由で任意的」だということ。作法としての、ゆるやかな決まりごとはあっても、厳しい教義はないんです。
 宗教とは一般的に「戒律」「経典」「教祖」の3つを兼ね備えているものを指しますが、神道にはこの3つがありません。だから、便宜上は神道も宗教になりますが、厳密にいうと宗教とはいえないわけです。
 ちなみに、宗教を意味する「religion」はラテン語の「religo」(きつく結ぶ)が語源で、「re」(きつく・再び)「ligo」(結ぶ・縛る)という意味があることから「厳格な契約によって神と人が強く結ばれること」「厳しい戒律によってきつく縛られること」が宗教というものであることを示唆しているようにも考えられます。
 そうした視点からみても、神道は「宗教」というより「信仰」( f a it h ,belief)と呼ぶのがふさわしいのではないかと思います。「ゆるさ」自由さ」は、神道のこうした特異性に関係しているのかもしれませんね。

鳴海 たしかに、日本と西洋では「神さま」の概念が異なっているように感じます。広島県・宮島の厳島神社を訪ねたときに、観光友好都市としてフランスのモン・サン=ミッシェルが紹介されていたのですが、「海に浮かぶ世界遺産」「長い歴史を持つ信仰の聖地」という共通点がありながらも、周りを囲む海(自然界)との関わり方に大きな違いがあると思いました。木造で海と調和しているような厳島神社と、石造りで海を割って建つようなモン・サン=ミッシェル。これも、日本と西洋の「神さま観」の違いでしょうか。

吉川 聖書には「自然を人間が支配するように」という記述があります。西洋では、唯一絶対神が君臨する下に人がいて、自然界は「人がコントロールするべきもの」とされているんですね。いっぽう、神道では自然界をひとつの「小宇宙」としてとらえます。人間も動植物もその一部として、全体が調和しながら生きているという世界観です。神も人も動植物も自然界のなかで対等な関係として存在している。日本庭園は自然界をそのまま凝縮したような「左右非対称」が多いのに対して、西洋では規則正しさを人工的に造った「左右対称」の庭園が多いのも、そうした考え方の違いがあらわれているのではないかと思います。
 また「八百万の神々」という表現も、日本における神さま観をあらわしていて「暮らしのすべては自然の力(神さま)が支えてくれている」という考え方です。井戸から水を汲むときは井戸の神さま、火をおこすときには火打石に宿る火の神さま(カグツチの神)、山には山の神さまがいて、そこにある11本の木にもすべて神さまが宿っていると考えます。

鳴海 神さまは唯一絶対神だけとする西洋とは考え方がまったく違うんですね。日本人のような信仰は、世界的には「アニミズム」に分類されると聞いたことがあります。

吉川 はい、私もそのように認識しています。アニミズム的信仰を持つ人の割合は、世界の約1割といわれていて、オーストラリアのアボリジニや、アメリカのネイティヴアメリカン、アフリカのマサイ族なども含まれます。日本人と同じく、その土地に根づいた自然のなかに「神」を見出し信仰してきた歴史を持つ民族ですね。
 興味深いのは「カフナ」というハワイ先住民の神官ともいえる存在が伝統的におこなってきた問題解決法が、日本におけるご祈祷と同じく言葉のエネルギー「言霊」によってなされてきたことです。
 

神さまに喜ばれて愛される生き方とは

 

吉川 日本のご祈祷は、お祓いをした空間で意識をクリアにした後、神さまへの「祝詞」を奏上して、インスピレーションという恩恵をいただきます。このとき読み上げられる祝詞に否定的な言葉がいっさい入っていないのも、言葉のエネルギーを重要視しているからだと思われます。
 この「言葉の作用で空間や意識をクリアにする」という祓い清めが、ハワイのカフナで「ホ・オポノポノ」として伝えられてきたんです。その方法は、近年になって誰でも簡単にできるSITHホ・オポノポノとして広がりました。「ごめんなさい」「許してください」「ありがとう」「愛しています」という4つの言葉を唱えるだけで、すべてのものがクリーニングされるというものです。

鳴海 言葉のエネルギーで問題の原因をクリーニングするという考え方は、日本の「祓い清め」と通じるものがありますね。海の向こうでも言葉のエネルギーを用いた方法が伝統的に活用されてきたというのはとても興味深いことです。

吉川 言霊的な観点からみると「神さまに喜ばれて愛される生き方」についてもわかってきます。平安初期の文献に次のように記されています。

 その昔、スサノオノミコトの乱暴な行いに心を痛めた天照大御神は「岩戸」に閉じこもって隠れてしまわれました。
 太陽の神さまでもある大御神がずっと隠れてしまわれると世界は闇に閉ざされてしまいますから、八百万の神々はなんとかして、再び大御神に岩戸から出てきてもらおうと対策を練ります。
 そこで、知恵袋である思金神は岩戸の前で賑やかな祭りと神楽を行い、その様子が気がかりな岩戸の中の大御神の手を掴んで外へ引っ張り出すという案を考えました。
 神々のチームワークで作戦は見事成功!!
 大御神が岩戸から姿を現したとき、「八百万の神々すべての顔が白く(はっきり)輝いて見えた」つまり「顔(面)が白く見えた」とあるのが「面白い」の語源です。

 だから、神さまたちは「おもしろいこと」が好きなんです。さらに、このとき天照大御神が岩戸から出てきたことをたいへん喜んだ神さまたちが「手(た)を伸ばし(のし)て」つなぎあって踊ったことが「楽しい」の語源とされています。神さまたちは、「楽しいこと」も大好きなんですね。
 こうしたことから「神さまに喜ばれて愛される生き方」とは「なにごともおもしろがって、楽しく生きること」ひと言でいえば「笑って生きる」ということになるわけです。

鳴海 「おもしろい」も「楽しい」も、天照大御神が岩戸から出てきて「世界が明るく照らされた喜び」からはじまった言葉のエネルギー(言霊)だったんですね。
 近年の研究でわかった「口角をあげる(笑顔になる)だけで、氣持ちが明るくなって、自律神経のバランスも調う」ということが、すでに神話に記されていたことにも驚きです。
 健幸のためにも「なにごともおもしろがって、楽しく生きること」「笑顔でいること」そのために「おもしろくて、楽しい言葉を使うこと(言霊の活用)」もたいせつですね。

吉川 天岩戸は最終的に天手力男命が腕力で開きましたが、私たちの人生の扉は「笑顔によって開く自動扉」といってもいいでしょう。

答えは、自分自身のなかにある

 
吉川 「なにごともおもしろがって、楽しく生きること」をこころがけると、日常生活のすべてが「神さまに喜ばれて愛される生き方」につながってきます。江戸初期の伊勢神宮・神官である出口(度会)延佳は「神道とは、人々の日用の間にあり」と述べています。これは、神道が私たちの生活に深く関連していることを示していて「いまいる場所、いま身近にいる人をたいせつに」ということでもあると思うんですね。
 ときどき「神社では自分のことではなく世界平和を願う」という方がいらっしゃいます。社会に関心を向けて他者を思いやるその氣持ちはすばらしいと思いますが、そのような大きなことは神さまたちがより大きな視野で平和と繁栄を見守ってくださっていますから、まずは自分の幸せをお祈りしてはどうでしょうとお伝えするんです。
 何より優先すべきは日常生活。周りの人と調和しながら、毎日をほがらかに楽しく過ごすことで、笑顔になる回数も自然と増えてくるのではないでしょうか。

鳴海 一人ひとりが自分と自分の周りの人をたいせつにすることで調和が広がると、地球全体が「おもしろくて楽しい星」になりそうですね。

吉川 神社の拝殿正面に鏡がしつらえてあるのをご覧になった方も多いと思います。鏡はすべてを反射させて跳ね返しますから、自分が発した言葉や行動、エネルギーは、すべてそのまま自分に返ってくるわけです。
 思想家としても知られる新渡戸稲造は『武士道』という著作のなかでこの鏡について触れ「神社に参拝する目的は自分自身を知ることにある」と書いています。神さまという「鏡」に自分をうつすことは、神さまの視点を通していまの自分を見つめ直すことでもありますから、やはりたいせつなのは「自分自身」なんですね。
 答えをわざわざ遠くに求める必要はなく、自分自身のなかに答え(神さま)はあります。
 だから、神さまの分身である自分にやさしい生き方をすることがたいせつなんですね。

鳴海 ちなみに僕のモットーは「他人にやさしく、自分にはもっとやさしく」です(笑)

吉川 すばらしい!(笑)他人にも自分にもやさしくなると、笑顔になる機会も自然に増えてくるでしょう。
 神さまがいつも温かく迎えてくださる伊勢神宮も、やさしい氣持ちになれる場所です。
 田舎のおじいちゃん、おばあちゃんに会いに行くような氣持ちで、氣軽に遊びにいらしていただけたらと思います。

鳴海 本日もこころがやさしくなるおもしろくて楽しいお話をどうもありがとうございました。

 

プロフィール

吉川 竜実さん

伊勢神宮禰宜、神宮徴古館・農業館館長、式年遷宮記念せんぐう館館長。
大阪府生まれ。皇学館大学大学院博士前期課程修了、平成元年から
伊勢神宮に奉職。
平成31年、御退位につき天皇(現上皇)陛下神宮御親謁の儀、
令和元年、即位礼及び大嘗祭後の天皇(今上)陛下神宮御親謁の儀に奉仕。
平成29年、神道文化賞受賞。
著書に『いちばん大事な生き方は、伊勢神宮が教えてくれる』(サンマーク出版)
などがある。

 

 

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