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【vol.30】辻和之先生の健康コーナー|アトピー性皮膚炎《その1》


 今回から近年増加傾向にあるアトピー性皮膚炎について特集したいと思います。先ずアトピー性皮膚炎の概要と日常生活の対処方法について、今回と次回に分け、さらに東洋医学(漢方医学)から見たアトピー性皮膚炎について、次々回にお話ししたいと思います。

 アトピー性皮膚炎は、痒みを伴い慢性的に経過する皮膚炎(湿疹)です。その根本には皮膚の生理学的異常として皮膚の乾燥とバリアー機能異常があり、そこへ様々な刺激やアレルギー反応が加わって生じると考えられています。すなわち【図1】のように遺伝的なアトピー性体質に環境因子としての悪化因子が加わって発症します。

 アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎などアレルギー反応(体の中に異物が侵入した時に起きる過敏な反応が原因で起こる疾患)をいわゆる「アレルギー疾患」といいますが、近年、アレルギー疾患は世界的に増加傾向がみられています。

 厚生省が1992〜1996年に行った「アレルギー疾患の疫学に関する研究」の結果によると、何らかのアレルギー疾患を持っている人は乳幼児28・3%、小中学生32・6%、成人30・6%と、およそ国民の3人に1人がアレルギー疾患を持っていることが判明しました。

 また、アレルギー性鼻炎については、学童を対象に実施された調査では、1970年代の前半には0・8〜2・2%であったものが、70年代後半には4〜10%と、約10年の間に5倍程度増加しました。

 愛知県で行われたアトピー性皮膚炎についての調査によると、1981年に2・8%であったものが、1992年には6・6%と、約10年で2倍強に増加したとの報告がなされています。

 2001年と2002年に行なわれた厚生労働省研究班の全国検診調査では、北海道、岩手、東京、岐阜、大阪、広島、高知、福岡の小学1年生と6年生の23、719人中2、664名、すなわち11%にアトピー性皮膚炎が認められました。その内訳をみると、最重症例は0・3%、重症例は1・6%、中等症は24%、軽症は74%と、圧倒的に軽症例が多いことがわかっています。

 アトピー性皮膚炎の肌の特徴の一つに、皮膚の乾燥状態(ドライスキン)があげられます。乾燥した皮膚は外界の刺激に対して防御機能が低下しています。

 アトピー性皮膚炎の肌は抵抗力が弱いため、細菌感染やウイルス感染を起こしやすいと考えられています。細菌感染では黄色ブドウ球菌や溶血性連鎖球菌、ウイルス感染ではヘルペスウイルスや水いぼウイルスがよくみられます。ヘルペスウイルスは、口の周りなどの皮膚に2〜5ぐらいの小さな水疱があらわれる病気です。健康な人はほとんどが軽症ですみますが、アトピー性皮膚炎の患者さんでは水疱が顔中にあらわれたり、体の広い範囲に広がって重症になることがあります。

㈰乳幼児…乳児期には口の周りや頬に赤いポツポツ、ジュクジュクした発疹が出てきます。また首、肘のくぼみ、膝のうら、手首や足首などの汗のたまりやすい部分が赤くなります。

㈪幼小児期…幼小児期は治る人が増えて新しく発症する人が少ないので、全体の患者さん数は減ります。顔面の発疹が減り、関節部や体の発疹が増えてきます。アトピー性皮膚炎では皮膚が非常に乾燥しやすいのが特徴ですが、乳児期を過ぎると皮膚の乾燥がはっきりと目立ってきます。

㈫思春期・青年期…思春期・成年期はアトピー性皮膚炎が悪化しやすい時期です。乳児期や幼小児期にいったん治った患者さんが思春期以降に再発するケースもよくみられます。

 発疹は【図3】のように顔面、上胸部、上背部、肘窩など上半身に強くあらわれる傾向があり、特に顔面はいわゆる「アトピー性皮膚炎の赤ら顔」などと呼ばれます。一般に再発例は治りにくいといわれています。

 乳幼児期は食べ物(特に卵)がアトピー性皮膚炎の悪化因子となることがよくありますが、乳幼児期を過ぎると、ダニ、ハウスダスト、カビなどの環境的な要素がアレルゲンとなりやすくなります。この環境的な要素は生活の中の工夫や努力によってかなり減らすことができます。特に、ダニはアトピー性皮膚炎に深く関係する悪化因子です。ダニはホコリを餌に繁殖します。普段からこまめな掃除を心がけ、室内を清潔に保つことが大切です。特に寝室の掃除や換気は念入りに、また寝具のダニ対策も試してみてください。

 アトピー性皮膚炎の患者さんの肌は、健康な人に比べると皮膚の防御機能が弱いのが特徴です。皮膚の炎症を予防するには日常のスキンケアが特に重要です。皮膚を清潔に保ち、水分と油分を補給することで、皮膚をよりよい状態に保つことができます。
それには皮膚を清潔に保つことが必要です。
 それには、毎日の入浴、シャワーを心がけましょう。
 以下に要点をあげます。

㈰汗や汚れは速やかに洗い落としましょう。ただし、強く擦らないようにしましょう。強く擦ると皮膚炎は悪化し、痒みが余計に強くなります。したがってナイロンタオルは使わず、やわらかいタオルや手でやさしく洗うようにしましょう。

㈪洗浄力の強い石鹸・シャンプーを使用するのは避けましょう。(当クリニックでは、ナルミ製の手づくり石鹸を紹介しています。)
㈫石鹸・シャンプーはよく泡立て、素手でしわを伸ばして丁寧に洗いましょう。しっかり泡立てた石鹸であれば刺激が少なく脂分を余計にとり過ぎることはありませんので、掻き壊した部分も洗います。脂のたまりやすい眉間、小鼻のわきや、汗のたまりやすいわきの下や首、関節の内側などを中心に洗い、他の部位はさっと汚れを落とす程度にしましょう。

ミクロピュアタオルは通常のタオルよりも肌への刺激が少なく、使用後のかゆみが少ないことが知られています。

㈬石鹸・シャンプーが残らないように十分にすすぎましょう。

㈭かゆみを生じるほどの高い温度の湯は避けましょう。

㈮入浴中・後にほてりを感じさせる沐浴剤・入浴剤は避けましょう。(入浴剤には、当院では漢方薬湯を用いており、痒みが取れ、潤いをつける効果があります。)
㈯できれば1日2〜3回の入浴・シャワーで、皮膚表面の細菌の繁殖を防ぎましょう。

㉀入浴から上がる前に水をかぶると、体の表面温度が下がり、かゆみもおさまることがあります。

㈷入浴・シャワー後は速やかに保湿外用薬を塗りましょう。入浴後の乾燥防止に有効です。保湿外用薬は市販のものでも構いません。使用感のよい保湿外用薬を選びましょう。

㉂その他に、引っ掻かないようにすると、皮膚炎は軽くなります。引っ掻くことがいかに皮膚炎を悪化させ、かゆみを悪化させるかがわかります。そのためには、以下のような工夫が効果的です。

●爪は短く切り、引っ掻きによる皮膚のダメージを防ぎましょう。
●引っ掻きやすいところにガーゼ・包 帯・ネットなどを巻きましょう。チュビファーストのような筒状の包帯をはめるのも効果的です。
●寝る時に長袖・長ズボン・手袋を着用すると、直接爪で引っ掻かなくてすみます。
●袖や裾がまくりあがらないようにテープやひもで結ぶと、直接爪で引っ掻かなくてすみます。幼小児には有効です。
●手袋をはめたり、患部を包帯で保護して、引っ掻き傷をつくらないようにしましょう。
●室内を清潔にし、適温・適湿を保ちましょう。
●新しい肌着は使う前に水洗いし、チクチクしないようにしましょう。また、洗剤はできるだけ界面活性剤の含有量の少ないものを使用しましょう。


プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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