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【vol.38】鳴海周平の全国ぶらり旅|北海道 旭山動物園編


 NHK「プロジェクトX」やフジテレビのスペシャルドラマ「奇跡の動物園〜旭山動物園物語」映画「旭山動物園物語〜ペンギンが空をとぶ」など数々のメディアで、その感動的な物語が紹介されている北海道旭川市の旭山動物園。
 初夏の風が心地よい7月に「奇跡の動物園」とも呼ばれている旭山動物園を訪れました。

「こんなに混んでるんだ!!」
 午前9時。開園時間の30分前に到着すると、もうすでにたくさんの人、人、人…。噂には聞いていましたが、本当に凄い人気です。列に並んでいるだけで、何だかとてもワクワクしてきました!!

「どちらからですか?」

「福岡からです。ずっと来たいと思っていて、念願かなってやっと家族で来ることができました。」

「私は地元なんだけど、東京から遊びに来ている孫を連れてきました。年に何度も来るけど、飽きないんですよね。」

 入園前から皆、本当に楽しそうです。

 1967年に開園した旭山動物園は75種505点の生き物からスタートしました。

 高度経済成長期ということもあり、この頃各地で開園された動物園はどこも盛況で、旭山動物園も初年度から約40万人の入園者があったそうです。

 ところが1983年に約59万7千人を記録したことをピークに入園者数は減少の一途をたどり、1996年には約26万人にまで落ち込んでしまいました。

「僕が勤務したのが1986年ですから、ちょうど入園者数が減少していた頃ですね。1994年にはエキノコックス症が園内で発生したことも追い打ちをかけて、本当に閉園寸前のところでした。」

 そう言って当時のことを教えてくれたのは旭山動物園の坂東元園長。

 動物の行動や生活を見せることに重点をおいた「行動展示」という考え方でそれぞれの生き物たちの施設を設計し、旭山動物園を「奇跡の動物園」とまで言わしめた立役者です。

「当時はどこの動物園も、動物の姿形を見せることに重点をおいた『形態展示』をしていました。ふだんあまり見ることのできない希少な動物や珍しい動物の姿形を見に来る、ということですね。でも僕は、どんな動物でもその生活行動自体がとても面白いということを子供の頃から感じていました。だから我々ヒトとは違う生き物の生活や行動そのものを見てもらって、どの生き物にも同じように尊い価値があるんだっていうことを、知ってもらいたかったんです。」

 子供の頃から様々な生き物に興味を持ち、実際にたくさんの飼育を体験してきた坂東園長は「それぞれの生き物がもつ個性そのものが面白い」と言います。

「小さいころから生き物が大好きでしたから、勤務当初から本当に楽しい毎日でした。獣医兼飼育係として触れあう動物たちの凄さには連日感動のしっぱなしですよ。でもお客さんはそうじゃないんですね。例えばカバの生態を見て僕らはいつも『凄い!!』と思うわけです。ところがお客さんはただ眺めるだけで終わってしまう。これはもったいない、もっとカバの生態を知ってもらいたい。そんな想いから、前園長の小菅さんたちが考えたのが『ワンポイントガイド』です。カバの生態について、飼育係がお客さんに話をしよう、という試みです。これならお金もかからないでしょう(笑)。最初はしどろもどろだった飼育員もだんだんと慣れてきて、お客さんも楽しみにしてくれるようになりました。」

 動物たちの生態をもっと知ってもらいたい、という想いはやがて、動物たちの本来の動きを引き出して自然の姿を見てもらいたい、という発想へとつながっていきました。

「動物たちの本来の姿は『野生』です。だから野生の本能を目覚めさせて本来の動きを引き出してあげる場所を創ることは、動物たちにとっても住みよい環境になるはずなんですね。そしてその行動の様子を見たお客さんも、動物本来の魅力を知って我々人間とは違う凄さ、尊さを感じることができると思うんです。

 例えばこの「もうじゅう館」。アムールヒョウはネコ科ですから、昼間は寝ています。でも見に来る人たちはそれじゃつまらない、と思うわけです。だったら寝ていても楽しんでもらえるような施設にしよう、という発想で設計しました。」

 園長に案内されるままにもうじゅう館の檻を覗いてみましたが、主であるアムールヒョウがなかなか見つけられません。
「あれ?どこにいるんでしょうかねぇ…。」とゆっくり上方へ目をやると…、何とすぐ頭上にいるではありませんか!!「うわっ、これは驚きますね。こんなに近いところに、しかも頭の上にいるなんて。」

「動物は自分が優位な場所にいると安心していられるんです。アムールヒョウにとってはそれが高い位置なので、行きかう人間たちを眺めながらストレスを発散しています。それに昼間は寝ていることが多いから、下からその姿をじっくりと見ることができる。動物にもお客さんにも喜んでもらえるわけですよ。」

 人間と動物の距離感にもこだわっているため、塀などで仕切ることをせず、あえて檻にして咆哮や匂いを間近で感じることができるのも旭山動物園の大きな魅力です。

「今までいた動物たちなのに、本来の動きを見てもらおうと施設を変えたとたんにお客さんの反応がガラッと変わりました。皆やっぱり本来の生き生きとした動物たちの姿を見たかったんですね。

 この施設の後に建てたぺんぎん館やオランウータンの空中放飼場、ほっきょくぐま館、あざらし館なども、同じ想いから設計しました。

 身近な動物たちをいかに見せられるか、生き物はみんな凄いんだ、っていうことをいかに知ってもらえるか、ということが、これからも旭山動物園の大きな柱になります。そしてそこから生命の尊さを感じてもらえたら嬉しいですね。」

「野生動物はペットじゃない。人間とはまったく異なった存在だから、互いの尊さを感じることができるんだ。」という明確なポリシーを持つ坂東園長の言葉に、旭山動物園が持つ無限の可能性を感じました。

 これからも私たちにたくさんの気付きを与えてくれそうな旭山動物園から、ますます目が離せなくなりそうです。

 今回のぶらり旅にあたって、旭山動物園様、坂東元園長に多大なる御協力をいただきました。

 どうもありがとうございました。

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