Vol.248 12月 健幸には少しの「飢えと寒さ」がよい
健幸には少しの「飢えと寒さ」がよい
このコーナーでも何度か紹介したことがある『養生訓』。江戸時代の儒学者・貝原益軒さんが書いたこの本は、なんと300年も読み継がれている超ロングセラーです。
健幸・長寿を自ら体現した益軒さんの「健幸のコツ」を、あらためて学んでみたいと思います。
冬でも、からだをあたためすぎない
益軒さんは『養生訓』のなかで、春夏秋冬それぞれの過ごしかたについて次のように述べています。
「春は陽氣が発生して、肌がやわらかく開くので、風や寒さにあたらないように」
「夏は腹のなかに陰氣があって消化が遅いから、暑さとともに飲食に氣をつける」
「秋は夏に開いた肌がそのままなので、涼しい風に当たりすぎないよう用心する」
そして冬については「寒くてもからだをあたためすぎてはいけない」と書いています。
むしろ「すこし飢えたり、すこし寒かったりするほうがよい」とも書かれているので、負荷がすこしかかるくらいが、免疫力や自然治癒力といった「内なる力」を発揮しやすくなるということなのでしょう。
日に日に寒さが増してくるこの時期には、とくにこころしたい言葉ですね。
水や肥料をできるだけ少なくして農作物を育てる「永田式」という農法があります。
石が混ざった土で、あえて乾燥氣味に栽培するこの農法。水や肥料も葉がしおれかけた(飢えた)タイミングに与えることで、一種の飢餓状態となった作物は本来の力を最大限に発揮するのだそうです。
永田農法で栽培された野菜は、じっさいに栄養価が高く、アクのすくないことなどが評判になり、新潟県の米作にも活用されるようになりました。
「すこし飢えたり、すこし寒かったりするほうがよい」というのは、農作物を育てるときにも、人が健幸をたもつうえでも、たいせつなことなのかもしれません。
「心地よさもほどほどがよい」
中庸(ほどほど)を健幸の秘訣とする益軒さんらしい訓えだと思います。
〈『養生訓』関連箇所(現代語訳)〉
あたためすぎて、陽氣を発して外にもらしたり、のぼせさせてはいけない。衣服をあたためるのも少しでいい。厚着や火氣でからだをあたためすぎてはいけない(巻第六)
子どもを育てるには三分の飢えと寒さを与えるとよいと古人はいう。それは、すこし飢えたり、すこし寒かったりするほうがよいということである。これは大人もおなじである(巻第八)
参考文献
『養生訓』 貝原益軒