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【vol.16】辻和之先生の健康コーナー|「肝」について


 前号の復習になりますが、「五臓六腑」は、食べ物や空気から気・血・津液を作ったり運んだり、貯蔵したりする各器官といえます。食べ物や飲み物の栄養が気や血に変わる過程をたどると、まずは六腑が消化吸収を行い、その栄養を五臓が受け取って、気・血・津液を生みます。  
 今回から五臓の内、一つの蔵について詳しく説明させていただきます。先ずどの順番で、どの蔵から始めたらよいかですが、五行説の中で、季節を5つの季節に分けています。木、火、土、金、水にそれぞれ対応するのが、春、夏、長夏、秋、冬です。方位については、東、南、中、西、北で、気については、風、暑、湿、燥、寒です。蔵でいえば、それぞれ肝、心、脾、肺、腎です。すなわち春、東に対応するのが、肝であります。したがってスタートとしては、肝がよろしいと思われますので、今回は、肝について、お話ししましょう。(次回以降は、心、脾、肺、腎の順番でお話しさせていただきます。)

 肝は、西洋医学の肝臓と作用が全く異なっています。肝は、樹木の性質に例えられ、大地の養分を吸い上げて、太陽のエネルギーを吸収して育ち、空に向かって、枝葉を伸ばし、広げる性質を持っております。
大地の養分は、腎や脾が作り出す精に該当し、太陽からのエネルギーが、心の陽気に該当します。気血を体の内部から体の隅々まで配り、発散力を供給する機能を肝臓が担います。肝の役割は、常に外に伸びやかに広がる力を提供します。発汗における外に向かう力、排尿の際の外に向かう力、射精時の外に向かう力を肝が提供し、発汗において肺が、排尿や射精において腎が、肝の外向きの力に拮抗して、調節を行います。

1.《疎泄を主る。》
 疎泄とは、体全体に気、血、津液を順調に巡らせる機能をいいます。目的に応じて、必要なところに必要なだけ配分する調節機能を担っています。肝の疎泄は、全身気の機能・消化器機能・気持ちの調節をします。

㈰〔気機を暢達(伸びやかに)する。=気の巡りを順調に保つ〕
 気機とは、昇降したり、出入りしたりする気の運動です。身体の臓腑や経絡の活動は、すべて昇降と出入りする気の運動によって行われます。肝の生理的特徴は、上昇と動きでありますが、これは、気機の流通、ノビノビする、上昇するなどの面で、重要です。
 肝の疎泄機能が異常になると、2つの異常現象が起きます。一つには、肝の疎泄機能が減退した場合、気の上昇が不足して、気の流れが悪くなったり、気が悶々としたりして、気機不暢や気機鬱結などが起きます。気機鬱結により血行が障害され血 (女性では、生理不順を生じたりします。)をきたしたり、津液の流れが悪く(湿蘊)なり、痰を生じたり、痰が経絡を塞ぎ痰核ができたりして、のどが詰まった感じ(梅核気)が生じます。もう一つには、腎陰が不足したりして、肝気があおられると、肝火上炎といって、目頭が腫れて痛む、顔や目が赤い、怒りっぽいなどの病理現象が発生します。

㈪ 〔肝と脾胃〕         脾は、清らかな物を上昇させる昇清作用、胃は、不純物や混ざり物を下に押し流す降濁作用があって、この二つの働きのペアーで、食べ物から体に必要な物を取り込んで不要な物を体外に排泄します。肝の疎泄機能は、脾胃の気の昇降を助けますので、肝の異常は、脾胃の動きにも影響を与えます。肝と脾の連携が乱れて、脾から肝への受け渡しがうまくいかない状態を「肝脾不和」といい、必要な物を上昇させられずに、眩暈やふらつき、倦怠感、胃重感を起こすとともに、吸収の流れが押し戻されて、下痢になります。肝の上昇の気が胃に悪さをすると、降濁するべき物が降りませんから、便秘や服満感を生じ、さらに肝気が胃気を押し上げると、むかむか、ゲップ、嘔吐といった症状につながります。
これを「肝胃不和」といいます。

㈫〔情志(気持ち・情緒)を暢達する。〕
 肝の疎泄がうまく働いている時には、感情を伸びやかに保つといった機能に反映されます。
精神が、ゆったりした状態で情緒が安定し、気がスムースに流れ、気持ちが晴れ晴れし、精神状態が快適な状態を保ちます。しかし肝の疎泄機能が減退すると、肝気が鬱結し、抑鬱状態になります。鬱症には、中医学では、疎肝という肝の機能を調整する方剤を用います。(例えば、小柴胡湯などの柴胡剤)肝気亢奮すれば、怒り易くなり、失眠多夢などの症状が出現します。過度の精神刺激(例えば大怒、極度の抑鬱)は、肝の疎泄を障害し、肝気抑鬱、気機不調などを来します。

㈬ 〔肝と排卵・射精〕
 排卵は、包蔵するものを放出する機能ですから、肝の疎泄の性質と一致します。肝鬱になると、卵を引き出す力が作動せず、無排卵になります。肝気が旺盛になると、排卵が促進され、月経周期が短くなります。このように、排卵は、肝気によって調節されていますので、単なる時間的周期だけでなく、性行為や感情によって左右される要素を持っています。この考えに則れば、愛情に包まれて行われる性行為によって、肝気を揺り動かし、排卵を誘発し、排卵時期ではないと思った予期せぬ妊娠につながる場合があります。
 射精も肝の影響を受けます。逆に放出させないようにする収蔵の作用は、腎がつかさどります。出そうとする力が強すぎる実証の早漏は、肝気によるもので、若年者の早漏に多く、留めようとする力が弱い虚証の早漏は、腎気不足による年輩者に多い早漏です。

2.《肝は、血を蔵す》
 肝は、血の貯蔵というより、体各部への血液量を調節する作用を有しています。肝血が不足する肝血虚や血の滞りによる血 が肝の異常によってみられます。血と関係が深い皮膚や毛髪の異常、しびれ、睡眠障害などの症状を呈します。肝血中には、肝陽の亢進を抑える物質があります。肝陽上亢は、高血圧に相当しますので、中医学では、高血圧の治療には、主に肝から治療します。(例えば、平肝作用のある釣藤鈎を含む釣藤散などを用います。)また肝血には、目、筋、女子胞(卵巣・子宮)などの組織に特別な栄養物質を提供し、出血を防止する重要な作用があります。肝血不足が、月経血減少や逆に過多月経になったりします。

3.《肝は、筋をつかさどる》
 肝は、筋の収縮弛緩のタイミングの調節をします。肝血が不足すると、筋の引きつり、けいれん、手足のシビレ感などが見られます。

4.《肝の華は爪にある》
 肝が充実していれば、爪は、艶がありピンク色を呈しますが、肝血不足では、爪の色が悪くなり、もろく、変形します。

5.《肝は、目に開竅する》
 精神神経疾患に特有な眼光、興奮時の眼瞼充血など肝と関係する病気の時に現れる目の変化が観察されます。視力の維持にも関わり、肝血は、目を潤し、しっかりと見る事ができます。イライラしたり、カッカしたり、肝の熱が強すぎると、目が乾燥します。


プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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