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【vol.24】こころとからだの健康タイム|ゲスト 星澤 幸子 さん


 北海道の札幌テレビ放送局(STV)で放映されている夕方の人気情報番組「どさんこワイド」。時に視聴率20%を超えることもあるというこの人気番組で、1991年の放送以来クッキングキャスターとして出演している星澤幸子先生は、手軽に実践出来る料理のレパートリーの豊富さと、その明るく朗らかな人柄、そしてユーモア溢れる語り口から、カリスマ的な人気を集めています。
 今回は、星澤幸子先生に「食と健康」についてお話を伺いました。

鳴海周平(以下 鳴海) 星澤先生のご活躍は、いつも家族で楽しく拝見させていただいています。今日は、星澤先生の専門分野である「食べる」ということから、健康のコツをお伺いしたいと思いますが、先ずは先生が、料理の世界に進むことになったきっかけから教えていただけますか?

星澤幸子先生(以下 星澤) はい。実はきっかけはいたって簡単で、中学校の時、家庭科の料理の時間に先生から「泡立て上手ね。」と、褒められたからなんです。その時はドーナツを作っていたのですが、卵の白身の泡立てで、きっと手首のスナップの利かせ方が上手かったんでしょうね(笑)。生家は畑仕事で忙しかったので、いつも私が祖母の手伝いで台所に立っていましたし、農閑期になると母がよくお菓子を作ってくれたので、いつもワクワクしながら手伝っていました。泡立てのコツは、きっとこうした家庭環境の中で自然に身についたものだと思います。この褒め言葉がきっかけで中学2年生で「将来は料理の先生になりたい」って想うようになったんです。

鳴海 そんなに早くから料理の先生になろうと思っていたんですね。先生は、家での食事支度で料理の技術を身に付けられたのと共に、北海道の中でも農業のとても盛んな南富良野のご出身ですから、料理の素材についても自然に良いものを選ぶ力が養われていたのかもしれませんね。
星澤 でも当時は今ほど豊富な材料があったわけではありませんから、どうやったら美味しい料理が出来るのか、といろいろ工夫をして作りました。それは家族に「美味しい」って言って貰いたいためだったし、私自身も美味しいものが食べたかったから(笑)。
ところで「美味しい」という字ですが、どうして「おいしい」って読めるんでしょう?当て字にしては何だか変な読み方だと思っていたんですが、分解してみてようやく判ったんです。「口から美しい未来がある」という意味なんですね。ひと口ひと口を「美味しい」と感じられるうちは、その人には元気な未来があるということではないでしょうか。逆に言えば、そうした「食べる喜び」という感性をもっと大切に想うことで、人は元気に生きられるのだと思います。

鳴海 漢字というのは本当に良く出来ていますよね。例えば「食べる」という字も「人に良い」と書きます。この字が示す通り、本来「食べる」ということは「人に良い」行為であるはずなんですが、最近は「食べる」ことが、肥満や糖尿病などを連想させてしまうくらい、食という概念そのものが乱れてしまっているのかもしれません。

星澤 私たちは本来、五感で食べ物の良し悪しがわかるはずなんです。今は賞味期限というものを「食べられるか、食べられないか」の判断にしていますが、私たちは目で見て、匂いを嗅いで、舐めてみて、判断していました。自分の身体に正直に、素直になることが出来たら「人に良い」という、本来の「食べ物」が自然にわかるし、身体が欲求するはずです。
 中でも嗅覚、つまり匂いを嗅ぐということは、特に「食」と密接な関係にあるように思います。例えば、米は炊き上がって初めて美味しそうな匂いがしてきます。匂いがしないうちは、食べられませんよね。芋も茹で上がって初めて美味しそうな匂いがしてくる。秋刀魚もそうだし、クッキーのようなお菓子もそうです。熱を加えて、ある一瞬を境にして美味しそうな匂いがしてきます。これが「もう食べられますよ。」というサインです。私たち人間には、こうした本能が備わっていますから、もっと自分の身体に素直になることが大切です。

鳴海 確かに嗅覚というのは、生き物の生存本能に関わる大切な要件ですね。悪く(古く)なっている食べ物は匂いでわかりますし、味噌や酒など発酵の目安も匂いが基準です。動物がフェロモンで相手を選ぶ生存本能も「嗅覚」と関係がありそうです。

星澤 「匂い」は大事ですよ。だから匂いの好きじゃない人とカップルになったらすぐ駄目になっちゃいます(笑)。
 嗅覚と同様に、視覚も食べ物の美味しさに影響しますね。色鮮やかな野菜や果物からは、とても大きなパワーを感じます。ただ、どうやらこの事は日本人が特に感じることらしくて、他の国ではあまり見た目を気にしない傾向もあるんです。ピーマンに火を通し過ぎて色が茶色になってしまっても「食べられたらいいんですよ。」と言って平気な顔をしている外国人の方もいましたから。日本のように四季がはっきりしていて、その季節の美しさまでも「味覚」に取り入れてしまうという発想が、なかなか理解していただけないようです。

鳴海 収穫にも旬があるように、調理にも旬がある、ということでしょうか。五感を研ぎ澄ますことで、六感も発達し、さらにいろいろな事に意味が感じ取れるようになりますが、日本という風土は、まさにこうした感覚を養うのにとても適しているということなのでしょうね。

星澤 四方を海に囲まれ、豊かな森林資源の中で四季を感じてきた日本人は、自然と親しむという感性が豊かですよね。こうした日本という風土は、米という食文化を生み出しました。この米というのは凄いですよ。「身体にやさしい」とか「腹持ちが良い」というのはもちろんですが、何といっても口に入るまでの間に精米と炊飯以外のエネルギーをわずかしか必要としません。パンだったら、脱穀した後、製粉して、他の原料と混ぜ合わせて、練って、焼いて、と手間とエネルギーがとてもかかるうえに、いろいろな添加物が入ります。つまりお米は、安心・安全なうえ、省エネ食材でもあるんです。ですから「健康のコツは?」と聴かれると、先ずお米を食べること、と言っています。ご飯を食べることで、おかずは自然に味噌汁、漬物、焼き魚、というように日本の伝統食になっていくんですね。昔から伝わる食事というのは、その土地に住んできた先祖たちが何十代もかけて、自らの身体で試してきたことばかりです。日本で生まれた私たちが、日本の食文化に立ち返ることで健康になるのは、当たり前の話です。

鳴海 日本の伝統食と言えば、味噌や醤油、納豆などもそうですね。海に囲まれているから、昆布や海苔などの海藻類、魚介類も食卓に上ってきたのでしょう。確かにどれもご飯に合うものばかりです。

星澤 味噌も凄いパワーがあるんですよ。フランスに行った時のことですが、あるお宅で「豚汁」を作って食べて貰ったんです。通訳の日本人の方も「20年ぶりに食べた!!」と言って喜んでくれたんですが、何よりふだん食が細くて体格が良くない、その家のお子さんが「美味しい、美味しい」と言ってモリモリ食べてくれたんです。「夜の分も残しておいてね。」と言ってくれたほどなので、よっぽど気に入ったんでしょうね。また、日本に来た外国人が、味噌汁を飲んでいることで、ホームシックにかからなかった、という話も良く聞きます。味噌は国を超えて力を発揮しています。
鳴海 同じく発酵の産物である「お酒」も、昔から「百薬の長」と言われるほど食効があるとされています。星澤先生は、相当お強いと伺いましたが(笑)。

星澤 誰が言ったのかしら(笑)。確かに少々いける口ではありますが(笑)。お酒の効用については、江戸時代に貝原益軒という方が「養生訓」という書物の中で「酒は天の美禄なり」と言っています。私はお酒を飲むと、脂肪の燃焼が促されているように感じます。気分も高揚してよく喋りますから、ストレスの発散にもなっているのかもしれません。ただ「養生訓」の中に「多く呑めば又よく人を害すること酒に過ぎたる物なし」とも書かれていますので、やはり飲み過ぎは良くありませんね。そういった意味で「茶懐石」というのは、本当によく考えられていると思います。この席では先ずふた口程度のご飯と赤出汁が出てきます。ほんの少しご飯と味噌汁をお腹に入れておくんですね。ご飯はブドウ糖なので、肝臓をケアしてくれますし、味噌には解毒作用があります。こうした生理的なことを理解して、千利休という人はこの「茶懐石」を考えたのではないでしょうか。こうして少しお腹に入れた後は、お酒が入り、少しずつ料理が出てきます。そして最後にお菓子とお茶でしめるわけですが、4時間はゆうにかかります。ほろ酔い加減で過ごした宴席も、ちょうど終わり頃にはシャキッとなっているわけです。私も何度か体験しましたが、最初に少々のご飯もの、お寿司だったら1、2貫くらいを食べてからお酒を飲むと、身体にかかる負担がまったく違います。

鳴海 さすが、先生が仰ると説得力があります(笑)。お酒というのはその場の雰囲気をとても盛り上げてくれる頼もしい味方でもありますから、是非「お酒の前に少しのご飯」というのは、皆さんに実践していただきたいですね。
 最近は、私たちの住む北海道のお酒も全国的に注目を集めていますが、これは北海道のお米が美味しくなったと言われることとも関係しているのでしょうか?

星澤 北海道のお米は本当に美味しくなりました。今ではすっかり全国のトップブランドだと思います。要因はいろいろあるかと思いますが、先ずは気候の温暖化が進んで自然条件が変化したことが大きいのではないでしょうか。そして土壌に力がついてきたこと、品種改良が進んだことも、大きな要因でしょう。お米ばかりではなく、他の穀物や野菜の生産地としても、北海道というところには大きな可能性があります。というのも食料自給率が極端に低い日本という国において、食料自給率が200%もある北海道は、とても貴重な地域なんです。水も豊富にあるし、何より作物のバランスがとても良い。こんなに恵まれた大地に住んでいることを、私たち北海道民は、もっと誇りに思って良いのではないでしょうか。北の大地の自然条件は厳しいですが、その厳しさこそが、作物を長い時間かけて生育させ、その分充実した食料を生産出来る条件となります。北の大地で育った私たちの身体には、この厳しい大地で育った食べ物が最も適しています。だから世界各地から美味しい物を取り寄せて食べても、すぐに飽きてしまうんですね。身体がいちばん良くわかっているんです。ですから、地産地消という考え方は、私たちの健康にとっても、たいへん意味のあることだと思います。
 私は旅に出る度に、こんなに素敵な北海道に帰って来られる幸せを、常々実感しています。

鳴海 食料自給率が200%を超えているということは、本当に凄いことです。私たち北海道民は、もっと意識を高くもって、北海道という地域がもつ有意性について認識を深めていかなくてはいけませんね。

星澤 また、もう少し大きく捉えて、日本という範囲で見た場合にも、やはり同じことがいえるのではないでしょうか。繰り返しになりますが、昔から伝えられてきた様々な習慣には、その国の気候や自然条件が大きな影響を与えています。風土にあった食習慣などは、特に大切にしていくべき宝物なのです。今、日本の食文化は、健康食として世界中からお手本にされています。日本国民は、そのことをもっと誇りに思い、認識を深めなくてはいけません。「人に良い」と書いて「食」。健康に多くの関心が寄せられている今だからこそ、もう一度この根本的な考え方を見つめ直す必要があるように思います。

鳴海 生まれ育った環境に伝わる習慣は、先祖代々受け継がれてきた文化そのものでもあるんですね。「伝統的な食習慣を再認識すること」が、最も身近な健康法といえるかもしれません。
 最後になりますが、読者の皆さんに、先生のように「若々しく健康でいられる」ためのアドバイスをいただけますか?

星澤 私たちの年代というのは、結構自分のしたいことを閉じ込めてきている方たちが多いんですね。自分のことよりも他の人の面倒を見たがる傾向があるようなんです(笑)。ですから、いつも皆さんにお伝えするのは「自分をもっと愛してください」ということです。そのためにお薦めしているのが「毎朝1杯のジュース」です。季節の果物や野菜にお好みで豆乳などを入れてミキサーで作ります。これでしっかり1日の元気の源を摂取出来ますよ。お金はどんどん自分の身体に投資するべきです。だって病気になってしまったら、稼げないし、お金はかかるしで大変でしょ?料理も「自分のために作ってあげる」こと。自分が本当は何が食べたいのか、どんなものを美味しいと感じるのか、ということをもう一度しっかりと感じてほしいと思います。自分のために楽しく料理を作ることが出来たら、きっと家族も「美味しい」って思ってくれるはずです。

鳴海 自分の身体に、将来の健康のための先行投資をしてあげる、というのは、まさに「自分を愛する」ということそのもですね。
今日の先生のお話から「食べる」という、最も基本的なところを見つめ直すたいへん良い機会を与えていただきました。
 今日は本当にどうもありがとうございました。

星澤 幸子・プロフィール

料理研究家・北海道南富良野町生まれ
星澤幸子 星澤クッキングスタジオ主宰
札幌テレビ「どさんこワイド」の「奥様ここでもう一品」 を担当して16年、毎日生出演して北海道の素材にこだわった簡単な料理を紹介その数3800品を超える。
料理の内容とキャスターとのやり取りの面白さが幅広い層に人気。 日本テレビNG集では毎回「星澤幸子先生編」で全国に紹介。
日本テレビ「鉄腕ダッシュ」で TOKIOの長瀬智也さんとの共演を果たすなど全国にも活動の幅を広げる。
長期の生料理番組出演による「ギネス」記録保持者。
宇宙食開発も手がける。

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