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【vol.17】辻和之先生の健康コーナー|NK活性を上昇させる「笑う門には福来たる」


 私の漢方歴は、20年以上になりますが、私がその前半の10年間に最初に勉強したのは、日本漢方の代表格である古方派の漢方医学です。これは、漢方の代表的古典の傷寒論や金匱要略などに記載されている口訣を重視しております。その後の10年は、中医学を勉強しております。中医学は、病態を重視し、病態を基に診断し、個々の生薬の特性を理解しながら治療するのが特徴です。前半勉強した古方派を勉強した時の師匠にあたる方が、日本東洋医学会の前会長でいらっしゃる松田邦夫先生です。松田先生からお聞きした実話2話を掲載します。

 同級の親友F医師の話。彼は、K県の某大病院の院長。ある患者が手遅れの胃癌で手術不能であり、病院側は告知することになりました。主治医は、気の毒でとても自分の口からは言えない。院長、お願いしますと云う。やむなく彼は患者と夫人を呼んで、「大変お気の毒ですが手術はできません。余命は約3ヶ月です。身辺の整理などなさった方が良いでしょう。」と宣告しました。

 すると患者は、「え!あと3ヶ月もあるのですか。」と答えました。本人は、うすうす癌と気づいており、もっと少ない寿命を考えていたようでした。「それなら、前から家内としたかった海外旅行に出かけます。」と明るく笑って、勤務していた某社重役を即時辞め、ヨーロッパ旅行に出かけました。奥さんはどうだったかわかりませんが、本人は長年の夢がかなったとばかり、心ゆくまで旅を楽しみました。そして帰国しましたが、症状も薄らぎ、体調は良いので、また別の処へ出かけました。いつも夫人同伴でした。その後もF君のところで定期的に検査を受け、いつしか2年の月日が経ちました。

 最近の患者の話。「お陰様で、海外旅行を満喫しています。体調もすっかり良くて、来週はまた北欧に行きます。退職金は、まだまだ使い切れませんので…。」
「癌の宣告を受け、すっかり気落ちしてしまう人は予想より早く亡くなり、明るく受け止める人は予想外に長生きする。それにしてもこの人は、間違いなく癌はあるのに死なないんだよ!」と話すF君の困惑したような顔が印象的でした。

 N大外科勤務のB医師の話。数週間前、いつものように私の外来の見学に来た彼が、「いやあ、不思議なことがあるものですね。」と語ったのです。彼の同僚の医師がある初診患者に胃癌を発見しました。病巣は胃壁に拡がっており、病理組織検査で診断を確定しましたが、すぐ手術をしても助かるかどうかわかりませんでした。そこで患者に、「大きな潰瘍があり、癌になりかかっている。すぐに手術しましょう。」と説明しました。この病院では告知はしない方針とのことでした。

 ところが患者は、「手術などとんでもない。今は釣りのシーズンだから、少し待ってくれ。」と云うのです。聞けば、大の釣り好き、釣り気違いでした。「癌ならともかく、潰瘍なら今時くすりで治るそうじゃないか。」とも云います。今更そうとも云えず、一応引き下がりましたが、根が真面目な性格の主治医は、心配でたまりません。奥さんに本当の病名を告げ、すぐに夫を入院させるよう説得の電話をかけ続けました。しかし、本人は毎日楽しく釣りに熱中してついに姿を現わしませんでした。

 こうして3年の月日が過ぎたある日のこと。バスの行列待ちをしていたこの主治医の背中をボン!と叩く者がありました。振り返った医師は、一瞬、幽霊を見たと思いました。そこには、まさに釣りの支度をしたあの患者の姿が笑っていました。見れば、顔色も良い。そして大きな声で、「先生だね、うちの家内に毎日電話をかけてきたのは!あんたもしつこい人だねえ。」と云う始末。とっくに亡くなっていたと思っていた医師は声もありませんでした。すぐに気を取り直し、患者を拝み倒して病院へ連れ込み、胃カメラをしました。ところが、何とあの癌が全く消えてなくなっていたのです。他の医師も駆けつけ、皆で精査しましたが、癌は影も形もありませんでした。この話は、その外科医局で現在非常に不思議がられています。

 2例の患者は、いずれもきちんとした大病院で、間違いなく癌の診断を受けています。それなのに今も元気でいるのは何故なのでしょうか。
F医師は、NK細胞が活性化されたのではないかと云います。NK細胞ーナチュラルキラー細胞(自然の殺しや)は、リンパ球の一種で生体の免疫力の担い手です。常に体内を循環し、侵入した外敵や癌細胞などを攻撃し食べてしまいます。若いときは活力に溢れていますが、老化に伴って力が衰え、癌が発生しやすくなります。近年の研究で、NK細胞は人が笑い、愉快にしていると活力を増し、免疫力を賦活すると云います。上記2例の患者は、共に好きなことをして愉快に過ごしています。

 笑う門には福来たる。いつも笑い声が満ち、和気あいあいとした家には、自然と幸福が訪れると云います。 笑いはうれしさ、おかしさという陽気な感情を表す精神・身体運動である。人間だけが「笑うことのできる動物」と称される。笑いには笑い手に平静な心が必要であり、他人や自分を一定の距離を置いてみることが条件になる。不安や恐怖に駆られていたり、激しく憤慨していたり、深い哀れみや同情の思いにつかれている場合には笑いは生じない。(日本国語大辞典、小学館)

 笑う習慣をつけることによってNK細胞(免疫力)を活性化したいものです。
 
 以上松田先生のお話でしたが、このようにNK活性を上昇させるには、楽しい気分モードにすることが必要です。厭なことは、早く忘れて、これからのことは、プラス志向で行くことが必要です。私が第54回日本東洋医学会で、蜂っ子(蜜蜂子)が、NK活性を有意に上昇させたことを発表しましたが、癌の予防には、蜂っ子を飲みながら、楽しい気分モードを維持し、ストレスを抱え込まないことも一法かと思われます。


プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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