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【vol.42】辻和之先生の健康コーナー|運動療法について


今回は、運動療法についてお話ししましょう。


運動は『①筋肉におけるブドウ糖や脂肪酸の利用を促進させて、血糖値を下げる。②インスリン抵抗性(インスリンが作用しにくい状態)を改善させる。③エネルギー摂取量と消費量のバランスが改善され、体重の減量効果がある。④加齢や運動不足による筋萎縮や骨粗鬆症の予防に有効である。⑤高血圧や脂質異常症の改善作用(特に中性脂肪=トリグリセライド値の降下作用)がある。⑥爽快感など日常生活のQOLを高める効果がある。⑦心肺機能、身体機能の維持と向上に寄与し、健康寿命を延長させる。⑧
さらに癌の予防効果も認められている。』といった効果が認められており、糖尿病は勿論、生活習慣病全般や抗老化作用にも有効で重要な手段です。

【運動強度】
運動筋においてエネルギー源として利用される糖質と脂質の割合は、運動強度が強まるにつれ、糖質の利用率が高まるので、内臓脂肪を減らし、血糖値や血圧を下げるためには、強度の大きな運動よりも中等度以下の運動にした方が脂肪燃焼に好都合です。速歩歩行か軽いジョギング、ゆったりと泳ぐ水泳程度が好ましいです。

【運動の種類】
運動には、歩行やジョギングなどの有酸素運動と、重りやダンベルなどで負荷を掛けたり、スクワット、腹筋運動などの筋肉トレーニングを行うレジスタンス運動があり、いずれもインスリン抵抗性の改善効果があります。

最近の報告では、約6ヶ月間有酸素運動のみを行った群では、糖尿病の重要なコントロール指標で
あるHbA1cが0.43%減少し、レジスタンス運動のみの群では0.3%減少したことが判りました。また有酸素運動とレジスタンス運動を併用すると0.9%の改善が認められ、両運動の併用が非常に有効であり、運動については有酸素運動ばかりではなく、レジスタンス運動を併用することが重要であることも判っています。

例えば単に歩行をするより足首に重り(500gから1kg位)を巻いて歩行することで有酸素運動とレジスタンス運動を同時にすることが出来、効率の良い運動が可能になります。糖尿病患者においてHbA1cを1%減少させることにより、15〜20%の動脈硬化性疾患の減少と37%の細小血管症(網膜症、腎症など)の減少をもたらすことができるので、有酸素運動とレジスタンス運動の併用は、合併症の予防に有効です。ここで注意することは、運動に伴って食欲が増し、過剰に食事摂取量が増えないようにすることです。運動をしっかり行っても、同時に食事療法もしっかり行わないと、折角の運動療法の効果も半減してしまうの
で注意を要します。

【目標と適応】
運動は、筋肉におけるインスリン感受性を高めるので、インスリン抵抗性を背景にした2型糖尿病にとって特に有効です。運動による血糖降下作用は、運動時だけでなく、24〜48時間持続するため、運動は週3回以上の頻度で行いましょう。

運動療法を安全かつ効果的に実施するために、糖尿病の病状をはじめ、対象者の年齢、運動習慣、体力を十分把握して、それに見合った運動をすることが肝要です。

【運動療法を禁止あるいは制限した方が良い例】
①代謝コントロールが悪い場合 ( 空腹時血糖250mg/dl、尿中ケトン体中等度陽性)《尿中ケトン体陰性で空腹時血糖が200mg/dl以下になるまで、血糖値を是正してから運動を開始する》
② 増殖性網膜症による新鮮な眼底出血がある場合
③腎不全の状態(血清クレアチニン値:男性25mg/dl以上、20mg/dl女性以上)
④狭心症などの虚血性心疾患や心肺機能に障害がある場合
⑤骨・関節疾患がある場合
⑥急性感染症
⑦糖尿病性壊疽
⑧高度の自律神経障害
⑨収縮期血圧が180mmHg以上
⑩脈拍が100以上

糖尿病性腎症で蛋白尿陽性の方や血清クレアチニン値が上昇し始めた方は、運動強度を高めないように、せいぜい歩行程度とします。糖尿病性網膜症で眼底出血に及ぶような網膜症であれば、光凝固療法を優先させて、安定するまでは運動を控えた方がよいでしょう。糖尿病性神経障害がある方は、自律神経障害があれば無痛性の心筋梗塞を来しやすいので、頸動脈のエコーや負荷心電図を行ってチェックをする必要があります。

こんな症状が現れたら

運動中に次のような症状が現れたら、すぐに運動を中止して主治医に連絡しましょう。

①動悸がしたり、脈が乱れる
②胸が痛む、締めつけられる
③関節や筋肉に強い痛みが走る
④気分が悪くなる
⑤目がかすむ
⑥めまいがする
⑦いつもと様子が違う(疲れ方が異常など)
⑧低血糖症状


プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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