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【vol.47】辻和之先生の健康コーナー|糖尿病治療薬各論 SU薬(スルフォニル尿素剤) 


 2型糖尿病に多用されている、アマリール(グリメピリド)などのSU薬(スルフォニル尿素剤)は、インスリン分泌を刺激する薬剤です。
 一般名:グリペンクラミド、グリクラジド、グリメピリド
 商品名:オイグルコン、グリミクロン、アマリール

【インスリン分泌のメカニズム】

 先ずインスリン分泌のメカニズムを知らなければなりません。(図1)
 インスリン分泌をするインスリン工場(膵β細胞)は、膵臓の中にあるランゲルハンス島という内分泌機能を持った細胞の集まりの中にあります。血糖が高くなると、膵β細胞の中のカルシウムイオン濃度が高まり、インスリンが放出されます。
(図2)SU薬も膵β細胞のカルシウムイオン濃度を高めて、インスリン分泌を刺激します。血糖が高くなる状態と同様に、SU薬も膵β細胞のカルシウムイオン濃度を高めてインスリン分泌を刺激します。
 肥満になると、どうして血糖値が上がりやすくなるのでしょうか?
 肥満時に肥大化した大型脂肪細胞から遊離脂肪酸、悪玉アディポサイトカイン(TNF-αなど)が過剰に分泌され、これらが「インスリン抵抗性」(インスリン作用を妨げる状態)を引き起こすので、血糖値を上げてしまうのです。

【SU薬のインスリン分泌刺激作用の特徴】

 ここで健常者(耐糖能正常者)と早期軽症糖尿病者の、インスリン分泌と血糖動態を比較しましょう。
(図3)健常者のインスリン分泌は、食事により瞬時にインスリン分泌が促され、肝臓がブドウ糖を取り込んで、食後血糖が高値になりません。早期軽症糖尿病者は、遅れてインスリンが分泌されます。その結果、肝臓がブドウ糖を取り込みづらくなって、食後血糖を上げてしまいます。しかも健常者に比べインスリン分泌が長く続くので、膵β細胞は、疲弊化しやすく、食事・運動療法、適切な薬物を用いないと、やがてインスリン分泌が低下し、糖尿病が進行していきます。
(図4)SU薬は、インスリン分泌刺激が強力で、長時間にわたって持続します。但し健常者のような立ち上がりの鋭いインスリン追加分泌(食事によって刺激されて分泌されるインスリン分泌)パターンに改善することができず、食事摂取時にタイミングが遅れてインスリン分泌を刺激します。その結果、肝臓がブドウ糖を円滑に取り込むことができず、肝臓を通り抜けたブドウ糖が血糖値を上げてしまうので、食後血糖を効果的に下げることができません。
(図5)持続血糖測定装置(お腹などの皮下組織に専用のセンサを装着し、24時間以上にわたって連続的に皮下のグルコース(ブドウ糖)濃度を記録する新しい検査機器)を用いてSU薬のアマリール投与による血糖0.5m→1mg→2mgと増量しても食後血糖値を下げることが出来ませんが、空腹時血糖を下げる効果は、増強されます。したがって食後血糖を効果的に下げるためには、腸管からの糖の吸収を遅らせて食後血糖を下げるαーグルコシダーゼ阻害剤(セイブル、ベイスンなど)の併用が必要となります。
(図6)SU薬が空腹時血糖を下げる効果が期待できる理由は、インスリン分泌刺激作用が長いことに起因します。ただし図5からもわかるように、SU薬の用量が多くなると空腹時血糖が下がり易くなることから、空腹感が強まり、間食や過食を促すことにより、肥満を助長させて、インスリンの効き目が悪くなり(インスリン抵抗性)、次第に糖尿病が悪化していきます。
(図7)これは、ADOPT試験《世界17ヶ国、4351症例SU薬〈グリベンクラミド〉1441例、メトホルミン1454例、チアゾリジン系薬剤〈ロシグリタゾン〉1456例の単剤療法の長期血糖コントロール持続効果を比較した試験》の結果をみると、頷けます。
(図7上段)SU薬のグリベンクラミドは、投与開始初期の数ヶ月間は、HbA1cの下降作用が強力ですが、数ヶ月後には、HbA1cは、上昇に転じます。
(図7下段)投与開始から体重増加を来します。したがってSU薬を服用していて、血糖値が下がりにくくなってきたり、体重増加を来すようになったり、低血糖を起こしやすくなったり、間食や過食と云った食事療法を守られにくくなった場合、他剤への変更を考えなければなりません。

【SU薬と他剤の経口糖尿病治療薬との併用で気をつけること~特にDPP-4阻害薬との併用について】

 それにはDPPー4阻害薬(商品名:ジャヌビア、グラクティブ、ネシーナ、エクア、スイニー、トラゼンタ、テネリア、オングリザ)について触れなくてはなりません。DPPー4阻害薬は、インクレチンの分解を阻害する薬剤です。
 インクレチンとは、炭水化物や脂質の経口摂取に引き続いて腸管から分泌され、インスリンを分泌促進させ、グルカゴンの分泌を抑制する消化管ホルモンで、血糖上昇時にインスリン分泌を促進し、またインスリンとは逆に血糖を上げる作用のあるグルカゴン分泌を抑制することにより血糖値を低下させます。
(図8)DPPー4は、インクレチンを不活化する酵素で、数分内でインクレチンの血糖降下作用を無くしてしまいます。そこでインクレチンの血糖降下作用を持続させるために、DPPー4阻害薬が開発されました。
(図9)インクレチンは、膵β細胞のカルシウムイオン濃度の高いとき(血糖値の高い状態など)のみに作用するので、DPPー4阻害薬単剤で用いている場合、血糖値の低い状態では作用しないため、低血糖を来たし難い特徴を有します。(図10)ところが、SU薬を用いていて、低血糖状態になっても、膵β細胞のカルシウウムイオン濃度が高いので、(図11)インクレチンの血糖降下作用が上乗せされ、重篤な低血糖を引き起こすため、注意を要します。

【まとめ】

1.SU薬は、インスリン分泌刺激で量を多く分泌させる点において強力です。しかも長時間にわたってインスリン分泌を刺激します。
2.食後血糖を下げるために、用量を増やすにつれ、食後血糖が十分下がっていないのに空腹時の低血糖を引き起こすことがあります。その場合、αーグルコシダーゼ阻害薬と併用すると、食後血糖を下げる効果が期待できます。
3.用量を増やすと空腹感を強くさせ、過食、間食を煽るので、体重増加を来しやすくなります。HbA1c下降作用は、使い始めの数ヶ月は強力に下げますが、次第に上昇してしまいます。(ADOPT試験)特に肥満の糖尿病には肥満を助長させやすくする為、肥満の糖尿病の人にSU薬を用いるべきではありません。
4.肥満をもたらしやすくすることでインスリン抵抗性を増すことにより、膵β細胞を疲弊化させ、血糖降下作用が低下し、2次無効になる頻度が5~10%あります。
5.DPPー4阻害薬と併用する場合、重篤な低血糖を引き起こすことがあるので、注意を要します。


プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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