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【vol.20】辻和之先生の健康コーナー|「肺」について


生命力を補充する重要な臓器

 「肺」は、五行の「金」に属します。呼吸を通して「清気」を体に補充し、「濁気」を排出する働きは、西洋医学でいう肺の呼吸の機能に共通していますが、東洋医学では、さらに広い意味を持ち、津液を体に散布する役割や皮膚の調節、外邪からの防御作用なども担っています。

 つまり、西洋医学でいう呼吸機能だけでなく、水分代謝、皮膚の状態、汗腺機能、免疫機能も「肺」と関係しています。「肺」の機能として「宣散・粛降」という働きがありますが、体内から「肺」に集められた気・血・津液は、宣散によって体表・上方に向けて、粛降によって内側・下方に向けて放散されます。宣散は、体表・上方に向かう動きを指しますので、主に体表を守る衛気(=免疫機能とほぼ同意)との関連を持ちます。粛降は、気を内側・下方へ誘導し、栄養物質(栄気、衛気、宗気など)を肺気を動力源として、各臓器に分布され、潤され、温められ、栄養されます。こうして、降りてきた清気は、「腎」により納気(気を納める)されます。このように、呼吸は「肺」と「腎」の共同作業により完全な呼吸になるのです。「肺」と「腎」の共同作業がうまくいかないと気管支炎、喘息などの症状が出ます。したがって治療に当たっては、「肺」の治療と同時に、「腎」の治療に常に心を配らなければなりません。人体の津液代謝は、中医学でも「脾」の運化作用(=食物を消化・吸収し、その栄養物質を全身の各組織に供給する機能)、「腎」の気化作用《vital energy〈=生命エネルギー〉を活性化させることで、ある臓器が機能できるように活性化させる作用》の他に、肺の粛降作用も関与しています。肺の粛降作用により津液がスムースに腎・膀胱に輸送されます。この粛降作用が不調になると、浮腫や排尿困難となります。また、肺の宣散作用が失調すると、汗が少なくなり、筋と皮膚に浮腫を生じます。

 「肺」の外界の出入り口は、鼻で、鼻の機能は、「肺」と深く関係します。したがって鼻の症状であっても、花粉症、アレルギー性鼻炎、嗅覚異常などは、「肺」の治療として考えます。肺や皮膚、鼻において共通することは、体の表面で外から侵入するものや外の環境から体を守るための働きを持っていることです。声帯も同様に考えますので、しゃがれ声などの声の異常も「肺」の病気として考えます。「肺」は、大腸と関係が深く、便秘や下痢などの排便の異常と「肺」の関係を考えます。「肺」を治すことにより排便異常を治療したり、逆に、便通をよくすることで「肺」の病変を治したりすることがあります。「肺」は、「白」「辛」「悲」と関係します。悲しみで泣くときは、嗚咽となって呼吸が乱れるなどの現象から類推できるでしょう。辛いものを食べると、「肺」の持つ汗腺機能を亢進させて、発汗が増えるなどの現象から関連性を見ることができます。肺の機能が異常になると、咳・痰や呼吸困難、息切れ、喘息などの呼吸器症状の他に、「肺」は、津液代謝にも関わりますので、浮腫や尿量減少、排尿障害などの水分代謝に関係する症状も出やすくなります。また皮膚の乾燥や多汗・無汗などの皮膚の異常や発汗異常がみられるほか、風邪をひきやすいなどの免疫に関係した症状も多くなります。さらに「肺」は「気」を補う重要な役割の一部を担っておりますので、「肺」の異常で疲れやすい、気力が出ないなどの気虚の症状もみられます。「病象学説」の考え方では、「肺」は、呼吸のほか皮膚とも関係していますので、いずれも「肺」と関連している喘息やアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患は、同一人物に合併しやすいのも頷けます。

 したがってこの種の病気は、「肺」が関わる機能として水分代謝の異常との関連も深く、水分の摂りすぎを控えることが大切になります。また水分代謝は「脾」、つまり消化機能との関連が深く、同時に、「肺」は「脾」の働きに助けられて育つ関係にありますから、食事の摂生もたいせつになります。いわゆる食事アレルギーや食事によるアトピーの悪化などの現象ともに一致しているわけです。西洋医学では特別な原因物質のみを取り上げて、それを排除するような指導をすることが多いですが、東洋医学では原因物質のみにとらわれず、消化機能に負担を欠けないように指導します。原因物質を避けることは、いわば「臭いものに蓋」をしている状態で、体がその間に自然に変わってくれなければ、いつまでもそれを避けていなければなりません。東洋医学では、これらの病気を治すときに、「肺」と「脾」の両方の機能を高めることで、原因物質があっても平気でいられる体にしようと試みるのです。(図1)アトピー性皮膚炎ばかりでなく、喘息や鼻炎でも、消化機能への負担を避けることは同じ理由で大切なのです。

 「肺」は、「肺為嬌臓、畏寒、畏熱」(=肺は、華奢な臓器で、寒さをこわがり、熱さもこわがる)といわれるように、五臓の中では外邪に一番弱い臓器とされています。さらに他の臓器(腎、脾、肝,心)からもすぐに影響を受けやすい特性があります。それ故、「肺」は容易に実証になりやすく、虚証にもなりやすい特性があります。
【虚証】
㈰肺気虚
〈主証〉力のない咳をする。声も小さく、ボソボソとしゃべる。顔色がすぐれず、いつも疲れている。風を嫌い、寒がりで、すぐ風邪を引いてしまう。治療法は、黄耆を含む補中益気湯や玉屏風散など を用います。
㈪肺陰虚
〈主証〉乾いた咳をする。痰はあってもその量は少なく、粘っこい。常にノドがカラカラに乾き、声はかすれてしまう。身体はやせている。舌は赤い。滋陰作用(潤す作用)のある生地黄、熟地黄、麦門冬、百合、貝母などを含んだ百合固金湯や滋陰降火湯、麦門冬湯などを用いる。

【実証】
㈰風寒束肺:風寒が肺を取り囲み、宣散と粛降する肺気の動きを止めてしまう。
〈主証〉ゼイゼイした咳をするが、痰は、清く、うすい。時に泡を混じる。悪寒がして発熱する。鼻がつまり、鼻水が出る。治療法は、小青竜湯などを用います。
㈪風熱犯肺
〈主証〉ゼイゼイした咳をするが、痰は、黄色をして粘っこく、出しにくい、頭痛、発熱して、ノドが痛む。鼻がつまり鼻水が出る。治療法は、麻杏甘石湯などを用います。
㈫燥邪犯肺:燥邪が「肺」を痛め、肺陰(肺の潤い)を損なうため、肺の宣散と粛降がうまくいかなくなり、乾いた咳が出現します。治療薬は、清燥救肺湯(石膏8g、桑葉6g、党参・麦門冬各5g、麻仁・杏仁・枇杷葉各4g、甘草・阿膠各3g)などを用います。
㈬痰濁阻肺
〈主証〉咳が出て、ゼイゼイするが、痰の量が多く、白色で出しやすい。治療薬には、二陳湯などを用います。

【肺を丈夫にする生活対応】
 体が一日の変化、四季の変化を明確に感ずるようにすることです。夏は夏らしく暑い環境で発汗を意識して過ごし、クーラーに一日中、身をゆだねないことです。冬は冬で、衣服で被い、肺の負担を減らすようにし、暖房を利かせすぎないようにします。さらに空気が乾きすぎないように湿度の管理も必要です。


プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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