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【vol.22】辻和之先生の健康コーナー|東洋医学学術発表会編


 日本東洋医学会の全国大会が年1回行われていますが、今年は、6月24日・25日に大阪で【第57回東洋医学会総会】が行われました。今回の学会総会で「放射線療法後の脳腫瘍後遺症に悩む15歳の少年に対する漢方薬治療」のタイトルで演題発表しましたので、その解説を加えます。
(掲載しているスライドは今回の学術発表会で使用した物です。)

 8歳の頃から顔面が引きつる発作を発症し、A病院の小児科を受診し、チックの診断で通院していましたが、11歳の時に頭痛が始まり、14歳の時に右手の麻痺を生じるようになりましたので、B病院を受診し、脳腫瘍(松果体腫瘍)の診断を受けました。結局8歳の頃のチックや11歳の時に発症した頭痛も右手の麻痺も脳腫瘍の影響であることがわかりました。家族は、A病院でもっと早く脳腫瘍を見つけてくれたら、少年がこんなに長い間苦しまなかったと悔しさで涙を流されました。C病院で化学療法4回、放射線療法16回施行し、脳腫瘍は、完全に消失しました。治療終了後少年は、チックや頭痛、右手の麻痺は、改善されましたが、強い倦怠感と目覚めにくさ、食欲不振、めまい感、のぼせ、微熱などの後遺症を生じました。C病院では、脳腫瘍は治療できたので、後遺症に関しては、治療法がないという見解で、この後遺症のため、本人や家族は、また悩まなくてはなりませんでした。その後半年間の自宅療養でも全く改善がみられず、高校1年の2学期から授業に出ようとしましたが、母親がどんなに起こしても朝起きることができず、授業を受けられる状態でありませんでした。家族は、途方に暮れ、西洋医学の限界を感じ、東洋医学へ期待を寄せ、当院を受診されました。

 松果体は、五臓(肝・心・脾・肺・腎)では、心(東洋医学では、心のはたらきは、心臓の機能のほかに大脳の機能も含みます。)に属します。化学療法と放射線療法により松果体機能が廃絶した状態は、心陽虚証(心の機能や作用の低下)と考えられ、心陽が腎に受け渡されて、肝・脾などにエネルギーを与える腎陽を育て、脾気(脾が機能するのに必要な気)、肝気(肝が機能するのに必要な気)をバックアップします。

 心陽・によって、疲れやすい、食欲低下といった脾気虚(脾気の不足した状態)や肝気虚(肝気の不足した状態)を引き起こし、肝気虚からのぼせなどの肝気鬱結(肝気の巡りの悪い状態)が生じたものと思われます。さらに食欲不振の中でもう少し食べなくてはいけないと言われたことによるストレスも肝気鬱結を来す原因になっています。

 自律神経系は、睡眠・覚醒と密接に関係しています。覚醒時は、交感神経系が、睡眠時には、副交感神経系が優位に働いているからです。自律神経障害は、肝気が鬱結している時に発現しやすく、自律神経の症状と肝は、密接な関係にあり、睡眠と覚醒は、肝が関わっているものと考えられます。したがって覚醒のタイマーをうまく作動させるためには、四逆散、小柴胡湯など柴胡を含む柴胡剤をはじめとした肝に働く処方が有効と思われます。松果体は、西洋医学では、体内時計としての役割をしております。したがって体内時計と睡眠・覚醒との関係で松果体の機能は、肝と密接な関係にあると思われます。

 そこで四逆散で疎肝解鬱(巡りの悪い肝気の巡りをよくすること)をはかり、脾気虚には、補中益気湯、食べ物が消化されにくく胃が痞えたり、食後に胃が重く感じたり、下痢するといった脾胃不和には、半夏瀉心湯を用い、覚醒が容易になり、食欲も進み、易疲労感(疲れやすい)、胃の重苦しさや下痢も改善し、微熱もとれ、体温調節もうまくいくようになり、授業を殆ど受けられない状態から、毎日学校に行けるようになり、午前中の授業を受けられるだけの体力がつきました。

 さらに蜜蜂の子と霊芝などが配合された健康食品を一日3カプセルを服用することにより午後の授業まで受けるようになりました。蜂子(蜜蜂の子)と霊芝の作用について詳述してみますと、
蜂子は、神農本草経(中国最古の薬物書)の上薬に記載されており、蜜蜂の幼虫や蛹を指しています。味は甘で、気は平です。「風気が頭に当たって痛んだり目まいがしたりする風頭の病を治すことが出来る弱り衰えた病や虚ルイ、つまり弱り衰えた病や、中焦(脾や胃)が傷んだ内臓の機能を傷つけた病にかかった人の元気を補う作用があり、久しく服用していると、その人の皮膚に光沢が出てつややかにして、顔色を好くし、年を取っても老いさらばえることがなくなる。」と記載されています。

 すなわち蜂子には、中焦(脾や胃)に作用し、気を益して(元気をつけて)、免疫を高めたり、老いにくくする不老効果があると記載されています。

 霊芝(赤芝)は、同じく神農本草経の上薬に記載されており、味は苦、気は平です。「心気を増して、中の気を補い、知恵を増す。つまり頭の回転が速くなって知恵が多くでるようになり、記憶も強くなって、ものを忘れないようにする作用がある。これを久しく食べていると、だんだんと身の動きが軽くなり、年を取っても老いさらばえることがなく、年齢が延び、ついには神人や仙人の境地に達するようになる。」と記載されています。

 蜂子は、脾に働き、脾気虚を改善し疲れにくくさせ、赤芝は、心に働き、心気を補い、大脳の働きを良くすることにより、午前までしか授業が受けられなかった少年が、夕方六時半までの長時間の授業も受けることが可能となったと考えられます。

【結語】
 脳腫瘍に対する化学療法や放射線療法により腫瘍以外に正常の松果体も壊滅的ダメージを受け、治療後は、目覚めにくく、倦怠感が強く、体温調節もうまくいかず、微熱が続いていました。病巣は取れても後遺症を治す西洋医学の治療法は見つかりませんでした。西洋医学的には、難治であった本症例に対し、東洋医学の手法を用いることにより、本人や家族が満足できる成果を上げられました。漢方薬投与により、ある程度の治療効果が上げられましたが、蜂子や霊芝などが配合された健康食品を加えることにより、より一層の治療効果が上げられました。


プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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