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【vol.35】辻和之先生の健康コーナー|糖尿病について 《その1》


糖尿病について以下の順で説明させていただきます。


 1.インシュリン作用
 2.糖尿病のタイプ
 3.2型糖尿病の成因
 4.インシュリン分泌と血糖値
 5.糖尿病の症状
 6.糖尿病の診断
 7.糖尿病の合併症
 8.糖尿病の治療

 今回は、『1.インシュリン作用』を取り上げます。 
 図1のように糖尿病は、年々増加しており、1997年には、糖尿病と糖尿病予備軍併せて11%でありましたが、2007年には、約20%と5人に1人となり、頻度の高い国民病になりました。

【1.インシュリン作用】
 糖尿病とは、インシュリン作用不足によって血糖値が上昇し、血管を中心とした様々な合併症を来す病気です。骨格筋において、インシュリンがインシュリン受容体に結合することによりブドウ糖の運び屋グルット4を細胞膜へ移行させて、ブドウ糖が細胞内に取り込まれます。(図2)

 ところがインシュリン作用が低下すると、グルット4が細胞膜へ移行できなくなり、細胞内にブドウ糖を取り込めなくなります。その結果、細胞外(血中)でブドウ糖が過剰となり、血糖値が上がります。(図3)

 インシュリン作用(図4)には、筋肉などの細胞膜に存在するインシュリン受容体を介してブドウ糖を細胞内に取り込んで血糖を下げる作用と、肝臓に対しては、インシュリンが1.ブドウ糖の取り込みを促進し、2.肝臓からのブドウ糖の放出を抑制し、3.ブドウ糖からグリコーゲンを合成することにより血糖を下げます。特に食後血糖上昇を抑えるには、インシュリンの肝臓でのブドウ糖の取り込み作用が重要です。

 糖尿病を理解する上でインシュリンの多様な作用について知る必要があります。インシュリン作用には、血糖降下作用である糖代謝作用だけでなく、糖代謝以外の作用があります。特に重要なのは、脂肪細胞への作用です。(図5)

 そもそも脂肪細胞の役割は今まで、飢餓の時に体に必要なエネルギーを供給するエネルギー貯蔵庫としての作用があると考えられていました。ところが最近になり脂肪細胞から生理活性を持った蛋白が分泌されるということがわかってきました。この脂肪細胞から分泌される生理活性を持った蛋白質を総称してアディポサイトカイン(アディポカイン)といいます。

 内臓脂肪が蓄積されますと(図6)、TNFα、レジスチン、ILー6、アンギオテンシノーゲンといった悪玉アディポサイトカインや遊離脂肪酸の分泌が亢進し、善玉アディポサイトカインであるアディポネクチンの分泌が低下してしまいます。このことによりインシュリン抵抗性が亢進し、血糖の上昇や代償性高インシュリン血症による血圧の上昇を生じます。さらに悪玉アディポサイトカインのアンギオテンシノーゲンやアルドステロン放出因子がレニンーアンギオテンシン系の亢進をもたらし、血圧上昇をもたらします。

 メタボリックシンドロームなど内臓脂肪が増えると(図7)、血糖や血圧の上昇、遊離脂肪酸の増加からLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が小粒子LDLコレステロール(超悪玉コレステロール)となり、その結果、動脈硬化を促進します。したがって糖尿病の治療には、血糖値だけを下げるのみではなく、内臓脂肪を減らすことも重要です。

 インシュリンの脂肪細胞への作用については、生活習慣の乱れによって、内臓脂肪が増えてインシュリン抵抗性が高まると、(図8)1.代償性に過剰にインシュリンが分泌されて高インシュリン血症を来しますが、高インシュリン血症が脂肪細胞に作用しますと、2.脂肪細胞へのブドウ糖の取り込みを促進させることと3.LPL(リポプロテインリパーゼ)の活性を促進させることにより、4.中性脂肪(トリグリセライド)の合成が促進され、5.脂肪細胞内に中性脂肪が蓄積されて6.脂肪細胞が肥大化し、(内臓脂肪が増え)、7.FFAや悪玉アディポカインのTNFーα、ILー6、アンギオテンシノーゲンが多く分泌され、善玉のアディポネクチンの分泌が低下して、インシュリン抵抗性をきたします。このようにしてインシュリン抵抗性がさらに亢進していくといった悪循環が形成されていきます。

 高インシュリン血症が、脂肪細胞に働き、脂肪細胞を肥大化させて、インシュリン抵抗性を招くという病態から、SU剤(スルフォニル尿素剤)や中間型インシュリン、混合型インシュリンが肥満をもたらすメカニズムを知ることができます。

 糖代謝以外のインシュリン作用として脂肪細胞への作用の他に、腎臓、交感神経、血管平滑筋への作用(図9)があります。肥満になり、インシュリンが働きにくい状態(インシュリン抵抗性)のため過剰にインシュリン分泌される高インシュリン血症になると、いずれも高血圧を引き起こします。

 次回は、『2.糖尿病のタイプ』からお話しします。


プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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