head_id

【vol.40】辻和之先生の健康コーナー|糖尿病について〜その6


今回は、糖尿病の合併症の一つ、大血管症についてお話ししましょう。


【大血管症】
 大血管症とは、細小血管症(網膜症、腎症、神経症)において傷害される血管より太い、心臓を養う冠状動脈や脳に栄養を送る動脈が狭窄したり、閉塞したりする病態です。狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症といった疾患を指します。
今までお話してきた細小血管症は糖尿病特有の合併症ですが、大血管症は糖尿病以外でも生じ、糖尿病になると高頻度で生じます。糖尿病は、健常な方に比べ3.5倍の高頻度で心筋梗塞になりやすく、糖尿病の予備軍である境界型(耐糖能障害)では、2.3倍の頻度となります。
 糖尿病の予備軍といって、まだ糖尿病ではないからと安心できないのです。しかも健常者に比べ、糖尿病の方は、心筋梗塞の発症年齢が14歳も早くなりやすいのです。

 糖尿病の初期では、食後の血糖値のみ高値で空腹時血糖値が正常なケースがあります。動脈硬化予防には、空腹時血糖が高くなくても食後血糖値(食後2時間=食べ始めてから2時間後)を140mg/dl未満に制御する必要があります。食後高血糖が酸化ストレスとなって、血管の内膜の機能を障害するからです。糖尿病は軽症の段階から食後の急峻な血糖上昇を呈し、これがさまざまな変化を引き起こします。酸化ストレスの亢進もそのひとつで、動脈硬化の原因のひとつと考えられています。
 アントニオ、チェリエロ先生は、食後の急峻な血糖上昇などによって引きおこされた酸化ストレスが大波となって血管内皮細胞を障害し、動脈硬化を促進させるという仮説を提唱しています。
 動脈硬化予防には食後血糖制御も重要な指標ですが、血糖変動幅(=食後高血糖と空腹時血糖の差)を少なくすることも重要です。食後高血糖の積極的な介入による血糖の日内変動の減少による血糖降下作用することが重要で、血管内皮機能の障害を予防することにつながります。
 図4のようにヒト臍帯静脈内皮細胞を、正常血糖(90mg/dl)、高血糖(360mg/dl)、グルコーススパイク(90/360mg/dl:24時間ごとに交互)各濃度存在下で3つのパターンで培養し、7、14日後にヒト臍帯静脈内皮細胞の細胞死率を検討しました。高血糖自体でも血管内皮細胞が死にやすくなりますが、血糖を90mg/dlと360mg/dlを24時間毎に変動させて、血糖変動幅を大きくさせた方が血管内皮細胞のアポトーシス(=細胞死)が促進されます。したがって血糖変動幅が大きいと、動脈硬化のハイリスクになることが示唆されます。糖尿病の治療には「血糖変動幅」を少なくすることが非常に重要であることがおわかりいただけたと思います。
 糖尿病になると、脂質代謝にも影響を与えます。悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が、「糖化」(図5)を受けてより酸化を受けやすくなり、血管壁にコレステロールが蓄積しやすくなります。糖尿病では、酸化を受けやすい密度の高いsmall dense LDL(スモール、デンス、LDLコレステロール)(=超悪玉コレステロール)が多くなります。超悪玉コレステロール自体、酸化を受けやすく、血管にコレステロールが溜まりやすくなりますが、糖化を受けるとさらにもっと助長されます。
 糖尿病は、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなる病態、内臓脂肪が蓄積されるに従い、インスリンがより効きにくくなっていく)を伴っていることが多く、高脂血症、高血圧といった他の動脈硬化の危険因子と重複するので、血糖コントロールのみでなく、血中脂質や血圧など他の危険因子の管理も併せて行うことが重要です。 

プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

right_toppage

right_01健康対談ラジオ番組月刊連載

right_02 right_news right_02-2 right_03 right_04 right_06 right_05 right_07 right_07

bnr_npure

bnr_kenkotime

ブログ・メールマガジン