【vol.55】辻和之先生の健康コーナー|「わかりやすい東洋医学講座」 第6回 東洋医学の基礎理論⑤
【東洋医学の基礎理論⑤ 気の不調】
前回は気とは何かということについてお話しました。
今回は「気の不調」についてです。
1 気虚(気の不足)
気の不足は「先天の気」(生まれつき持っている気)が足りない場合もありますが、多くは「後天の気」(生まれてから作り出す気=脾が作り出す水穀の気や肺が作り出す清気)が不足することで気虚になります。
その原因には、過労、慢性病、不摂生などがあり、気が不足することで、人体の成長発育が低下したり、臓腑経絡などの生理活動が低下して疲れやすさを招きます。
気には、暖める温の性質が有りますので、「温煦作用・気化作用」が低下すると、冷え、下痢、浮腫みを招きます。
また気の不足により、気が持っている消化吸収作用(化生作用)が低下すると、消化不良を来し、痩せをもたらしたりもします。
気は、西洋医学でいう免疫作用、「衛気」を有しており、気の不足による「防衛作用」の低下は、風邪を引きやすくなるなどの免疫力の低下を引き起こします。
さらに、気には漏らし出さない作用(固摂作用)もあるため、その低下は、皮下出血などの出血傾向の症状をもたらします。
気虚の治療には、人参(薬用人参、オタネニンジン)、白朮などが配合された、四君子湯などの気を補う治療を行います。
2 気滞
気の巡りが悪くなることで生じ、ストレスなどが原因で起こります。
気が沈む、気が重い、気力が低下するといった症状が出現します。
治療には、柴胡と芍薬の配合された、気の巡りを良くする四逆散、加味逍遙散、大柴胡湯などを用います。
気の流れが下降しにくいと、喉やお腹の支えを生じます。その場合、下向きへの気の流れを良くする半夏厚朴湯などを用います。
3 気陥
気がパワーダウンして、上昇する力が不足した状態で、内臓下垂、脱肛などの症状を生じます。
治療には、柴胡と升麻を配合した補中益気湯などを用います。
4 気逆
気が上昇し過ぎるか、下降する力が低下して起こる病態で、咳嗽、ゲップ、吐き気、めまいなどの症状を生じます。
気逆の治療には、上がってきた気を下げたり、気を本来の流れに調整する治療を行います。
このように「気」の不調は、さまざまな症状を引き起こす原因となります。
食事や運動などの生活習慣に気をつけると共に、ストレスをためないよう心がけることも大切ですね。
次号では「気・血・津液」の「血」についてお話したいと思います。
プロフィール
医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之
昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会 認定医
日本内視鏡学会 認定医