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【vol.46】辻和之先生の健康コーナー|糖尿病治療薬各論 チアゾリジン薬(TZD) 


【肥満と血糖上昇】

 肥満になると、どうして血糖値が上がりやすくなるのでしょうか?
 肥満時に肥大化した大型脂肪細胞から遊離脂肪酸、悪玉アディポサイトカイン(TNF-αなど)が過剰に分泌され、これらが「インスリン抵抗性」(インスリン作用を妨げる状態)を引き起こすので、血糖値を上げてしまうのです。

【チアゾリジン薬(以下ピオグリタゾンで表示)の血糖降下作用】

 ピオグリタゾンは、この「インスリン抵抗性」を改善することで血糖値を下げる作用を有しています。すなわちピオグリタゾンは、大型の脂肪細胞から善玉の幼若な小型脂肪細胞への「分化」(肥大化した大型脂肪細胞を小型化させる)を促進させて(図2)、悪玉アディポネクチン)を増やして「インスリン抵抗性」を改善させます。
 脂肪細胞が分化を受けても、脂肪組織自体の体積は変化しませんから、ピオグリタゾンは小型脂肪細胞の数を増やします。ところが食事療法をしっかり守れず過食をすれば、数が増えた善玉小型脂肪細胞から悪玉大型脂肪細胞を多く作られることになります。
 したがってピオグリタゾンによって折角「インスリン抵抗性」が改善されても食事療法・運動療法が守られないと体重を増やします。(図3)やがて「インスリン抵抗性」が増して、血糖を上げてしまいます。したがってピオグリタゾンを服用する場合、食事療法や運動療法を的確に守ることがとても重要となります。

【ピオグリタゾンの抗動脈硬化作用】

 血糖降下作用とは別に、遊離脂肪酸や中性脂肪を脂肪細胞へ移動させて、血液中の遊離脂肪酸や中性脂肪を低下させ、善玉コレステロールのHDL-Cを上昇させる抗動脈硬化(動脈硬化予防)作用を有しています。

【ピオグリタゾンの有効性】

 HbA1cを約1%程度低下させ、単剤使用で殆ど低血糖を生じません。心筋梗塞や脳卒中の既往のある患者に対し、死亡・心筋梗塞・脳卒中を有意に減少させることが示されています。(PROactive試験)インスリン抵抗性を改善することにより炎症性サイトカインの産生を抑制し、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)に対する改善効果が期待されています。

【ピオグリタゾンの処方の実際】

 単剤使用の他に、SU薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、ビグアナイド薬(メトホルミン)、グリニド薬、DPP-4阻害薬およびインスリンとの併用が認められています。ただしSU薬は、食欲を亢進させて肥満を助長させやすいので、ピオグリタゾンと併用する場合に、さらに肥満を助長させやすいため注意を要します。肥満を伴うインスリン抵抗性には、血中脂肪酸高値が寄与しており、この状態は「脂肪毒性」として諸臓器に悪影響を及ぼします。(図4)
ピオグリタゾンやビグアナイド薬は、脂肪毒性から各臓器への改善効果が認められ、相補的に働くため、両者の併用が有用です。両者を混合した製剤(メタクト配合錠)もあります。
メタクト配合錠LD (=ピオグリタゾン15mg+メトホルミン500mg)
メタクト配合錠HD (=ピオグリタゾン30mg+メトホルミン500mg)

【ピオグリタゾンの副作用対策】

 副作用としては、浮腫(4~6%)、心不全(0.3~0.4)、体重増加などがあります。浮腫には、塩分摂取の制限やサイアザイド系利尿薬の使用、用量を減らすことである程度防止できますが、改善できない場合、服薬を中止します。心不全の副作用対策には、経過観察で胸部レントゲンを撮ることやBNP(心不全のマーカー)の測定が必要です。心不全の方には、禁忌(使用できません)です。
 黄斑浮腫(網膜の黄斑部が浮腫状態となり視力低下します)の頻度が増加する場合があるとも言われており、定期的な眼科受診が必要です。
 骨芽細胞が脂肪細胞と前駆細胞を共有しており、骨粗鬆症の方には、脂肪細胞への分化を亢進させるため骨芽細胞が減少する機序や破骨細胞を活性化させる機序が考えられており、閉経後の女性に投与する際には注意が必要です。ピオグリタゾンにおいて女性で骨折のリスクが、約1.57倍増加すると報告されています。骨粗鬆症の方は定期的な骨密度の測定が必要です。

【ピオグリタゾンの安全性に関する問題】

 2型糖尿病では、膵臓癌・肝臓癌を始めとして多くの癌が増加することが国内外の疫学試験から示されています。この機序は明らかではありませんが、高インスリン血症が関係することが想定されており、実際肥満糖尿病では特に癌を増加させる危険があると言われています。ピオグリタゾンは、高インスリン血症を改善してAMPキナーゼを活性化するため腫瘍抑制効果が期待されますが、今のところはっきりした結果は得られていません。開発段階の動物実験で雄ラットにおいてのみ膀胱癌を増加させることが知られており、製造企業の武田薬品工業がスポンサーとなり、カリフォルニア州の医療保険の加入者を用いた前向き観察研究を行っています。2011年の中間発表では、ピオグリタゾン服用患者と非服用患者の間に全体としては膀胱癌発症に有意な差はなかったものの、2年以上服用されている患者で、僅かであるが有意な上昇が認められました。ピオグリタゾンが真に膀胱癌を増加させるかどうかについては、今後さらなる解析が必要であり、当面の間、現在膀胱癌に罹患している患者についてはピオグリタゾンを投与しないこと、膀胱癌の既往のある患者には慎重投与することが必要です。


プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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