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【vol.45】辻和之先生の健康コーナー|糖尿病治療薬各論(α-グルコシターゼ阻害剤) 


インスリン分泌と血糖動態


 健常者におけるインスリン分泌動態と血糖値(図1)上段に血糖値、下段に血清インスリン値を示します。健常人におけるインスリン分泌には、摂食とは無関係に常時分泌される基礎分泌と、摂食後、腸管からブドウ糖が流入するのに応じて速やかに分泌される食後血糖維持に重要なインスリンの追加分泌があります。特に健常人の追加分泌は、立ち上がりの鋭いインスリン分泌が起こります。この立ち上がりの鋭いインスリン分泌を初期分泌といいます。この立ち上がりの鋭い初期分泌が起こるために肝臓でのブドウ糖の取り込みが円滑に行われ、食後の血糖の上昇が抑えられます。図2より早期糖尿病の場合、初期分泌がなく、追加分泌の立ち上がりの悪い遅延型インスリン分泌が起こります。インスリン追加分泌の立ち上がりが悪いため、肝臓でのブドウ糖の取り込みが出来にくくなり(インスリン抵抗性←インスリンが効き難い状態)、食後高血糖になります。さらに食後高血糖と肝臓が円滑にブドウ糖を取り込めないことによる食後血糖上昇が長く続くために、健常者に比べ、食後のインスリンレベルが高い状態が長く続く、遷延性の高インスリン血症(図3A) を来します。

【α-グルコシターゼ阻害剤の作用】
 α-グルコシダーゼ阻害剤(α-GI)は、小腸での炭水化物の吸収を遅らせて、食後血糖の上昇(図3B)を抑える(図3D)薬剤です。小腸上部での炭水化物の吸収が抑制される結果、下部小腸での吸収が促進され、下部小腸に存在するL細胞からインクレチン(炭水化物の吸収に伴い、小腸から分泌される消化管ホルモンでインスリン分泌促進作用やインスリン作用と拮抗するグルカゴンの分泌を抑制させる作用を有する)であるGLP-1の分泌を促進させる(図4)ことにより、血糖下降作用や脂肪細胞を縮小させる効果も認められており、脂肪肝、狭心症や心筋梗塞発症抑制効果が期待でき、さらにインスリン工場である膵β細胞の疲弊を抑制し、保護する可能性(図3C)も期待されています。α-GIの大規模研究が米国で行われ、動脈硬化予防効果が評価されました。
 ※糖化タンパク:血糖値が高い状態の持続により、糖が蛋白質に結合した状態。蛋白質が糖化を受けることにより本来の蛋白質の機能が失われ劣化した状態になる。例えば、酸素を運ぶ赤血球に含まれるHbA(ヘモグロビンA)が、糖化蛋白のHbA1cになると、酸素を運ばなくなってしまう。

【α-GⅠの種類】
 グルコバイ(アカルボース)、ベイスン(ボグリボース)、セイブル(ミグリトール)があります。それぞれ各食直前服用です。ベイスン0.2mg錠は、糖尿病予備軍の耐糖能障害の状態から使用可能です

【各α-GⅠの違い】
 ・ベイスン(ボグリボース) 標準阻害酵素:α-グルコシターゼ、小腸吸収:されない、排泄:糞中排泄
 ・グルコバイ(アカルボース) 標準阻害酵素:α-グルコシターゼ・αアミラーゼ、小腸吸収:されない、排泄:糞中排泄
 ・セイブル(ミグリトール) 標準阻害酵素:α-グルコシターゼ、小腸吸収:される、排泄:未変化体が腎排泄

【各α-GⅠの副作用】
 グルコバイ(アカルボース)は、腸管から吸収されずに排泄されるのに対し、セイブル(ミグリトール)は、徐々に腸管から吸収され、腎排泄されるため、腎機能障害時の使用に注意を要します。
 グルコバイ(アカルボース)は、αアミラーゼも阻害するため、腸内細菌の発酵が活性化され、消化器症状として放屁や腹部膨満、下痢を発生しやすくなります。一方セイブル(ミグリトール)は、他の2者に比べ、腸管吸収がある程度あり、消化器症状が少なくなる傾向があります。
 尚、頻度は、極めて少ないですが、ベイスン(ボグリボース)やグルコバイ(アカルボース)は、腸内細菌が発酵して産生した代謝物が吸収された結果、肝機能障害を来した例があります。

【投与方法】
 糖尿病軽症例では、α-GI単独でも対応できることもありますが、α-GI単独で対応できにくい場合、他の経口糖尿病薬と併用します。

 ①α-GI+メトホルミン(メトグルコなど)
 ②α-GI+グリニド系薬(グルファストなど)
 ③α-GI+メトホルミン+グリニド系薬
 ④α-GI+ピオグリタゾン(アクトス+グリニド系薬
 ⑤α-GI+DPP-4阻害薬(ジャヌビア、ネシーナなど)
 ⑥経口糖尿病薬のみでは、対応できない場合、インスリン(長時間作用する、持効型インスリン)を追加する方法があります。
  インスリン(ランタスなど)+経口糖尿病薬。


プロフィール

医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之

昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会  認定医
日本内視鏡学会 認定医

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