【vol.44】辻和之先生の健康コーナー|糖尿病治療薬各論(ビグアナイド剤)
ビグアナイド剤
大昔からリラの花には、多尿、口渇といった糖尿病の症状を緩和する効果があることが経験的に知られていました。その効果がグアニジンによる事が判明しました。しかし毒生が強く、薬にはなりませんでしたが、1950年にグアニジン環を2つ結合させたbi-guanido(ビグアナイド)が合成され、3種類の誘導体である、フェンフォルミン、ブホルミン、メトホルミンが糖尿病治療薬として用いられるようになりました。しかし1970年になって、フェンフォルミンに乳酸アシドーシスという副作用による死亡例が報告され始め、ビグアナイド全てが米国で発売中止となりました。脂溶性の側鎖を持つフェンホルミンは、肝臓に蓄積し、ミトコンドリアの膜に結合しやすいことが乳酸アシドーシスを惹起する可能性が挙げられました。一方、最も脂溶性が少ないメトホルミンは、乳酸アシドーシスの発症頻度が、極めて低い安全性の高い薬剤と考えられています。
1955年には、米国で肥満を伴った2型糖尿病患者を対象とした臨床治験が実施され、メトホルミンが血糖コントロールの改善のみならず、体重の減少、脂質代謝の是正をもたらすことが実証されました。現在、メトホルミンは、商品名としては、メデット250mg錠、グリコラン250mg錠、メトグルコ250mg錠がありますが、前2者は1日3錠までしか増量できませんが、メトグルコは1日9錠まで増量でき、増量による治療効果がより期待できます。
その作用メカニズムは、『①肝臓の糖放出抑制作用:糖新生(肝臓に蓄えられたグリコーゲンを分解しブドウ糖にする)を抑制し、24時間にわたり、血糖値を抑制する。②筋・脂肪細胞組織へのブドウ糖の取り込み率を高める。③消化管よりのブドウ糖吸収を抑制する。』といった作用を有します。
血糖降下作用以外に、 ①α-GI(α-グルコシダーゼ阻害剤)と同様に脂肪肝の改善効果や②内蔵脂肪を減らす効果③トリグリセライド(中性脂肪)およびLDLコレステロール(悪玉コレステロール)低下作用④食欲を抑えて、体重を減らす作用があり、動脈硬化予防に有効です。
メトホルミンによる動脈硬化予防効果を実証した、イギリスで行われたUKPDS(UK Prospective Diabetes Study)という大規模臨床研究(UKPDS34)(1998年)によると、メトホルミンが血糖改善効果の他に心筋梗塞など糖尿病に関連した死亡を大きく減少させることがわかりました。しかも長期間(10年間)血糖コントロールを厳格(空腹時血糖110mg以下)になるよう適宜にメトホルミンを増量して服用後に、その後10年間にわたり、血糖コントロールを緩めにしても心血管疾患の死亡を減少させたというUKPDS80(2006年)が発表され、メトホルミンの“legacy effect”(持ち越し効果)も認められました。
この効果については、血糖降下作用の他にメトホルミン自身に※糖化タンパク(AGE)抑制作用があり、さらに血管内皮機能改善効果があることから、糖尿病による動脈硬化促進作用(糖尿病では、健常者に比べ3.5倍の動脈硬化促進作用がある)を抑制することが、まさにUKPDSによって証明されたことになります。しかも発癌抑制効果も認められています。このようにメトホルミンは、多岐にわたる効能を有していますが、副作用も生じやすく、特に消化器症状が出やすいので、服用方法に注意を要します。メトホルミンは、一錠が250mgであり、少量から(500mg)から1~2週ずつ500mgずつ増量することが望ましく、高用量(1500mg)以上で副作用の頻度も増加しますので、配慮を要します。最大用量2250mgまで増量できます。副作用予防に止瀉剤(下痢止め)(フェロベリンAなど)や胃粘膜保護剤(ムコスタなど)の併用が有効です。腎障害や肝障害を持った人への投与も慎重に行わなければなりません。
※糖化タンパク:血糖値が高い状態の持続により、糖が蛋白質に結合した状態。蛋白質が糖化を受けることにより本来の蛋白質の機能が失われ劣化した状態になる。例えば、酸素を運ぶ赤血球に含まれるHbA(ヘモグロビンA)が、糖化蛋白のHbA1cになると、酸素を運ばなくなってしまう。
プロフィール
医療法人和漢全人会花月クリニック
日本東洋医学会専門医
医学博士 辻 和之
昭和26年 北海道江差町に生まれる
昭和50年 千葉大学薬学部卒業
昭和57年 旭川医科大学卒業
平成 4年 医学博士取得
平成10年 新十津川で医療法人和漢全人会花月クリニック開設
日本東洋医学会 専門医
日本糖尿病学会 専門医
日本内科学会 認定医
日本内視鏡学会 認定医