head_id

【vol.29】鳴海周平の全国ぶらり旅|大阪編


 江戸時代に、経済や物流の中心としての役割を担い「天下の台所」と呼ばれた大阪。現在も、西日本の政治・経済・文化の中心地として、880万人の人口を擁しています。
 春の気配が少しずつ感じられるようになってきた大阪の街を訪れました。

 古くから経済や物流の中心地として「天下の台所」と呼ばれてきた大阪では、多くの飲食店や宿泊施設がお互いに競い合い、学び合いながら、長い時間をかけて品質やサービスを高めてきた歴史があります。

 そうした中でも、世界中に多くのファンを持ち、「泊まりたいシティホテル」や「日本のベストホテル」など、数々のホテルランキングでナンバーワンに選ばれている「ザ・リッツ・カールトン大阪」は、西日本のサービス産業の顔として、各界からたいへん高い評価を得ています。

 今回は、このザ・リッツ・カールトン大阪の、世界最高水準ともいわれる「おもてなしの心」を学ぶことが出来るというクラーク・フューチャー・コンサルタンツ(有)主催のセミナーに参加させていただきました。

 2日間にわたる研修は、まさに驚きの連続!!「ここまでお客様のことを思っているのか」と感心することばかりでした。接客姿勢、サービス体制、さらにホテル内の設備や調度品などにも、細かい心配りが感じられます。

 ザ・リッツ・カールトン大阪がもつ数々のこだわりについて、シニアセールスマネージャーの松坂さんにお話しを伺うことが出来ました。

「チェックインの際、受付はすぐに見つかりましたか?エスカレーターがどこにあるかわかりましたか?館内のお手洗いの場所は容易にお分かりいただけましたか?初めていらっしゃったお客様には、わかりづらいかもしれませんが、私どもではお客様に『ご自宅で寛いでいるように』過ごしていただきたいと思っています。ですから、いかにもホテルという設備、例えばエスカレーターやエレベーターなどは、極力目立たないところに配置するように設計をしました。しかもコンセプトは『18世紀のヨーロッパ邸宅』ですから、玄関も自動ドアではなく手動のドアですし、自動販売機も設置していません。」

 チェックインの際、受付の表示がなく迷ったこと、ルームキーがカードではなく、クラシックなホルダーつきの鍵だったことも、松坂さんの説明で納得出来ました。

「館内に案内板を置かない代わりに、私どもスタッフは積極的にお声掛けし、道案内などを通じて、お客様との接点を大切にしています。廊下が少々狭めなことも、すれ違う際にお声をかける機会につながります。お声をかけさせていただくと、皆さん喜んでくださいますね。私は上司から『人間が人生でいちばん輝く幸せな時は、何をどんなふうにすると相手に喜んでもらえるか、と考える時だ』と教わりました。お客様に喜んでいただくためのアイディアを考えている時は、本当に楽しくてワクワクします。いま以上に喜んでいただくためにも、自分の感性は常に磨き続けなくては、と思っています。」

 ホテルスタッフの方々とお話をさせていただく度に、松坂さんの仰っていることが実感として伝わってきます。世界に3万人以上というリッツ・カールトンの従業員すべてが、こうした考えのもと行動をし、日々お客様に深い感動を与えていることは、本当に凄いことだと思います。

「いちばん身近な顧客は従業員とその家族。だからこそ先ずは『従業員が働いて楽しいと思える環境作り』を重視すべき」というリッツ・カールトンの理念には、深い共感を覚えました。

 100年以上も昔に「ここを我が家だと思ってください。」と言って、お客様をもてなしたリッツ・カールトンホテルの創業者セザール・リッツ。

「もてなしの真髄を極めた」といわれる創業者の精神を、そのままに受け継いでいるリッツ・カールトンのきめ細やかなサービスの数々に、たくさんの学びをいただいた研修でした。

大阪といえば道頓堀をイメージされる方も多いのではないでしょうか。

古くから「京の着だおれ」「大阪の食いだおれ」といわれるように、食べ物屋と芝居小屋の街として350年以上の歴史をもつ道頓堀には、連日多くの人たちが訪れます。

 昭和24年に、この地で開店した「大阪名物くいだおれ」は、くいだおれ人形の太郎さんと共に、道頓堀の顔として不動の地位を築いています。

 昭和58年に「くいだおれ」に入社し、平成8年からは女将として、接客の第一線に立ち続けている柿木道子さんにお話しを伺うことが出来ました。

「創業当時は『食って倒れるなんて縁起が悪い。そんな屋号はやめたほうがいい。』と周囲の大反対があったそうですが、創業者である父は、そんなことは意に介さず『大阪を代表する食堂になるのやから、これでええのや。』と『くいだおれ』に決めてしまいました。母も『何百年も、くいだおれという名前は使われていません。ということは、まるで私たちのためにあるようなものやおまへんか。』と言って迷わずこの屋号に決めたようです。夫が夫なら、妻も妻。似たもの夫婦ですよね。(笑)」

 創業者である山田六郎さんには、数々の伝説的な逸話が残っています。

 例えば、店の看板メニューとして「すき焼き」を宣伝しようと思い立った時の話。

 どこからか1頭の牛を連れてきた山田六郎氏。大きな南部鉄の平なべと大量のねぎをその牛に背負わせ、ちんどん屋の格好をさせた店員10人ばかりと一緒に宣伝部隊の行列を作り、道頓堀をねり歩くことに。ところが道頓堀は「車馬通行止め」。巡査がとんでやってきました。「こんなところで牛を牽いてはいかん!車馬通行止めと書いてあるのが見えんのか!」そこで山田六郎氏がひと言。「車と馬はダメでも、牛までダメとはかいておらん。」と言ってスタスタと歩き続けたそうです。(笑)納得しない巡査と激しい押し問答をしているうちに、周囲には黒山の人だかりが出来てしまいました。結局はしぶしぶ牛を引っ込めることになったのですが、この騒動が噂を呼び、すき焼きは大繁盛。抜群の宣伝効果になったという話です。

「父の山田六郎には、そんな逸話がいくつもあります。ですから父に経営を手伝うよう言われた時、専業主婦歴18年の、いわばド素人の私に本当に勤まるのかな、と不安に思いました。何も知らない私が出来ることは、先ず繁盛しているよそさんの料理を食べて、サービスを感じてくること。そしてそれをうちに活かすこと。建物もだいぶ老朽化していましたから、改装工事も10年かけておこないました。自分もメジャーをもって『居心地の良い空間づくり』を職人さんと一緒に進めました。」

 さらに柿木さんは、接客を学ぶために自らベテランの仲居さんに付き添い、盛り上がっている部屋と、盛り上がっていない部屋の違い、雰囲気、話題づくりなどを研究していったそうです。

 こうして日々お客様に喜んでいただくための研究を重ね、考案してきた様々な企画の中でも特に大ヒットとなったのが、お客様自らに作っていただく「たこ焼き教室」。

 そして、このメニューを頼むと、もれなく「たこ焼き音頭」がついてくるとか?

「お客様には15分で3個のたこ焼きを作ってもらうのですが、最初の5分間がとても大事で、絶対にいじってはダメなんですね。ところが『いじってはダメですよ』と言うと余計いじりたくなるらしくて(笑)。そこで、この5分間に大阪の観光話をしたり、歌を歌ったりと、いろいろなことを試してみたのですが、話も歌もそっちのけで、やっぱりいじってしまうんです。(笑)そんな時に見つけたのが『たこ焼き音頭』でした。お客様にも5分間、一緒に踊ってもらいます。さすがに踊りながらはいじれませんからね。(笑)」

 そこで早速「たこ焼き」を注文してみることにしました。店員さんの手にはたこ焼きセットと共に、テープレコーダーが・・・。「♪たこ焼き、たこ焼き、たっこ焼きー♪」一緒に歌って踊っていると、これがまた本当に楽しい!そして出来上がった「たこ焼き」の美味しいこと!!1つのメニューで、2度も楽しませてもらった気分です。
「海外からのお客様には『レッツ、タコヤキダンス!!』と言って音楽をかけます。(笑)とても楽しそうに踊っていただけますよ。」

 「結局、料理もサービスも、お客様に喜んでいただいたことが、私どもに返ってくるだけなんですね。何をしたら楽しんでいただけるか、どうおもてなしをしたら喜んでいただけるか、素人ながらにそればかりを考えてきました。」

 ここ数年、海外からの観光客が急増しているという道頓堀で「世界に誇れる日本料理を庶民感覚で提供することで、道頓堀や大阪のイメージアップに貢献したい」という柿木さん。今夏には多くのファンに惜しまれつつも、60年の歴史にいったん幕を下ろすことになりますが、形は変わっても、これからも道頓堀の顔、大阪の顔として、多くの皆さんを喜ばせ、楽しませてくれることでしょう。

 今回は「ザ・リッツ・カールトン大阪」と「大阪名物くいだおれ」という、大阪を代表する2つの企業を訪問させていただきました。

 松坂さんが仰った「人間が人生でいちばん輝く幸せな時は、何をどんなふうにすると相手に喜んでもらえるか、と考える時」という言葉、そして柿木さんが仰った「結局は、お客様に喜んでいただいたことが、私どもに返ってくるだけなんですね。」という言葉に、本当の「おもてなしの心」を学ばせていただいた、とても貴重な旅となりました。

 今回の取材にあたっては、クラーク・フューチャー・コンサルタンツさんに多大なるご協力をいただきました。

 どうもありがとうございました。

right_toppage

right_01健康対談ラジオ番組月刊連載

right_02 right_news right_02-2 right_03 right_04 right_06 right_05 right_07 right_07

bnr_npure

bnr_kenkotime

ブログ・メールマガジン